第21話 勇者(笑)アリスの大冒険⑤
『グルルルルル……!』
3匹のリオンベアが、キング、それにアリスに向けて飛び上がる。
キングブレイジオンの体から湧き上がる炎で、何とかその動きが分かるものの、真っ直ぐに飛び掛かってこない1匹は、ほぼ黒い影が飛び上がっているようにしか見えなかった。
「アリス! 俺の横に!」
「分かりました!」
普段の王室騎士団では、トライブが作戦を指示することが多いものの、この時はキングブレイジオンがアリスに顔を向ける。
相手の狙いを一ヵ所に集め、襲い掛かったところで集中的に攻撃する作戦だと、アリスは受け取った。
アリスがキングブレイジオンの横に立つと、キングブレイジオンが右手に集まった炎に向けて叫んだ。
「炎よ、邪悪なる力を食い止めよ……! 燃えさかる盾、結成!」
「炎の盾……!」
二人を正面から覆うには十分すぎるほどの炎が、リオンベアたちの行く手を遮る。
正面から飛び掛かってきたリオンベアが、横に翻し、散り散りになる。
そのうちの1頭が、アリスの側から回り込もうとしていた。
「こっち来る……!」
キングブレイジオンが盾の向きを変え、方向転換したリオンベアの体に火をつける。
炎に包まれたリオンベアが、苦しそうな声を上げ、その場でもがいた。
だが、それと同時に、アリスは背後から何かが迫ってくるような気配を感じた。
アリスが振り返ると、残り2頭のリオンベアが、二人の背中から襲い掛かろうとしていた。
「回り込んだっ!」
アリスが叫ぶと同時に、キングブレイジオンが首だけを後ろに回し、すぐに炎の盾を収めた。
そして、力強く叫んだ。
「勇敢なる炎、発射!」
キングブレイジオンの右手から、炎が解き放たれ、迫るリオンベアのうち1頭へと迫った。
だが、発見が遅れたために技の名前だけの詠唱になり、常にエネルギーを放出しなければならないバーニング・バックラーから、時間をかけてパワーを集めていくフレイム・ヴァリアントへの切り替えもうまくいかない。
キングブレイジオンの自慢の一撃が、この時はあまりにも小さく、すぐにひらりとかわされた。
「こっち来るよおおおおおお……!」
アリスは、思わず目を閉じた。
だが、その瞬間に、キングブレイジオンの手がアリスの肩を軽く叩く。
「いいか。剣の女王は、こんなところで目を閉じたりなんかしない!」
「あっ……!」
アリスの脳裏に、強敵に全く臆することなく立ち向かう女王の姿が思い浮かんだ。
どれだけ実力を持った相手であったとしても、トライブが勝負を諦めたことは一度もなかった。
そして、その力の証、アルフェイオスはアリスの手の中にあった。
「分かりました……!
私は、ロイヤルナイツの一員ですから!」
アリスは、アルフェイオスの剣先を正面に向けたまま走り出した。
炎が狙うこともできなかった1頭に向かって走り出し、飛び上がったリオンベアの後ろに回り込む。
そして、着地してアリスに振り返ろうとしたところで、その体に鋭く剣を突き刺した。
『グアアアアアアアアッ!』
その音を聞いたのか、ひたすら追いかけてくる小さな炎から逃れ続けた、残り1頭のリオンベアが、アリスに向かって走り出す。
だが、その時にはキングブレイジオンの右手に宿った炎が、リオンベア3頭ほどの大きさにまで達していた。
「炎よ、我が怒りに共鳴せよ! 勇敢なる炎、発射!」
『グルルル……!』
キングブレイジオンの右手から炎が解き放たれたのを見て、残り1頭のリオンベアが、炎に背を向けて逃げだし、薪の山に身を潜めた。
だが、キングブレイジオンの意思を継いだ熱い炎が、薪の山を回り込むどころか、リオンベアに向かって真っすぐに飛び込んでくる。
「あっ……!」
次の瞬間、薪の山が一瞬にして炎へと変わり、まるで薪が飛び道具となってリオンベアに襲い掛かった。
リオンベアが体についた火を振り払おうとするも、次々と薪が体に突き刺さり、やがて炎と木の燃えカスの中で力尽きた。
その様子を、アリスは呆然と見つめていた。
「キャンプファイヤーが……、一瞬で炭に変わっちゃった……」
キングブレイジオンの体に炎が収まる。
その体から放たれるわずかな炎を頼りに、アリスは薪の山を探そうとしたが、せっかく組み立てた山は、もうどこにもなかった。
海を拝める開けた場所は、灰に覆われていた。
現実を思い知ったアリスは、キングブレイジオンの前に立ち、頭を下げた。
「キングブレイジオン……。
私、ほとんど何もできなくて、すいません……」
「そんなことはない。
俺にああ言われたとしても、動き出したアリスは、立派な勇者なのかも知れない……」
「勇者で……、いいんですか……?
『おりゃーっ!』みたいな……? そんな感じでしか戦えなかったのですが……」
「おりゃーって何だよ」
横からビリーが笑うと、アリスはムスッとした表情でビリーに振り向く。
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アリスたちは、再び薪を取って来てキャンプファイヤーを作り、キングブレイジオンに火をつけてもらった。
キングブレイジオンにも、せっかくなのでキャンプファイヤーにいて欲しいとアリスが頼んだものの、結局は召喚したビリーの胸が痛みだし、時間切れになった。
「リオンベアの肉、初めて食べるけどおいしいですね。
やっぱり、炎があるから生き物の肉を焼いて食べないと、らしくないです!」
アリスは、自分の倒したリオンベアの体から肉を切り取って、真っ先に食べた。
言うまでもなく、あのアルフェイオスを解剖にまで使っているわけだが。
そこにビリーも、アリスがもう一つ手に持っていたリオンベアの肉に向けて「ちょうだい」と告げた。
「僕、いつもはアリスの食べるものを取っちゃいけないと思ってるけどさ……。
今日は、こんな珍しいごちそうなんだから食べたいんだ。ごめんよ」
「ビリーがそこまで食べたいなら、はい」
「ありがとう……」
ビリーは、アリスから渡された肉を両手で持って炎に近づけ、ある程度焼けてきたところでそれを口にした。
大きく、ガブリ。もう一つおまけに、ガブリ。
アリスにも負けないほどのビリーの口が、いかにもおいしそうに肉を食べているように、アリスには見えた。
それから、かじった分を全部口の中に入れると、ビリーはキャンプファイヤーを見つめていた。
「どうしたんですか、ビリー。
急にキャンプファイヤーなんか見とれちゃって……。
私とビリーの恋が、炎のように燃え上がるとか、そんなラブラブシーンを期待してるんですか?」
「アリスが一気に言うと、熱々の恋も冷めるだろ!」
ビリーは、苦笑いを浮かべながらアリスの顔を覗き込み、それから肉を持たない左手をキャンプファイヤーに伸ばした。
「あのね……、アリスと一夜を過ごすのはうれしいんだけどさ。
ちょっと、キャンプファイヤーを見て、この前のコロッセオで見たキングブレイジオンを思い出したんだ」
「エターナル・フレイムアローを放つ瞬間、ですか?
あの時、全身が燃え上がってまし……」
アリスは、半月ほど前のバトルを思い出した瞬間、思わず右手で口をふさいだ。
ビリーの告げた「過去の話」のイメージと、アリスの中でリンクした。
「気付いたようだね、アリス。
やっぱり、キングブレイジオンとバージルは、99%同一人物。
全身をも燃やそうとするその姿勢は、バージルそのものだよ」
「でも、バージルさんはビリーの前で死んだはずじゃ……」
「そう。たしかに、そういうことになっているんだ。
でも……、あとここまでリンクすれば、キングブレイジオンが本当は何者なのか、もう一押しなのかも知れないんだ……」
「そうですか……」
アリスは、ビリーから目線を反らし、薪を燃やし続けるキャンプファイヤーをじっと見つめた。
バージルの、そしてキングブレイジオンの強い意思に、その炎が重なっているように思えた。
次回からは、アリスが海岸でビリーとじゃれ合います。
何故かトライブに怒られますよ……?
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