第21話 勇者(笑)アリスの大冒険④
夕方、アリスたちは海岸が見える高台へとたどり着いた。
砂浜が目に飛び込んできた時、アリスは思わず震え上がった。
「海だ――っ! うみ、うみ、海ぃ――っ!」
オレンジ色に染まる海を見ながら、アリスは両手を大きく広げて叫ぶ。
すぐ横にビリーも立ち、何度か息を飲み込みながら、絶景を眺める。
「ここが、アレマ領の南の果て。
シーショアの街とは比べ物にならないほどのオーシャンビューって言われているんだ」
「そうなんですか……。
こんな素晴らしい景色が、このどうしようもないアレマ領にあるなんて、なんか贅沢過ぎます」
「そうだね。
で、今日はどこで泊まる?
このあたりだと、結構広いし、テントとか張れるスペースはあるけど……、問題は……」
ビリーが言葉を詰まらせると、アリスはビリーの顔を覗き込んだ。
「問題は……、って、こんな遠くまで来て、今更数学のテストとかやるんですか?」
「テストなんかやらないよ!
しかも、アリスが絶対苦手そうな数学をやったら、逆にこの楽しい冒険がだいなしになるから!」
そこで、ビリーがコホンと咳をした。
「このあたり、夜になるとモンスターの集会場になるんだよ。海岸のほうがいいよ。
普段から人の営みもないところなのに、こんなに開けているんだもの」
「モンスターも集会があるんですね?
なんか、レクリエーションとか……、ダンスとか……。
あー、キャンプファイヤーとかもやるかも知れませんね!」
「やるか、バカ!
モンスターがダンスをやるときって、たいていは呪いをかけるんだからな!」
「じゃあ、人間しかキャンプファイヤーをやらないんですね。
なんて悲しい生き物なんでしょう、このあたりのモンスターさんは」
アリスはその場に荷物を置いて、ここまで通ってきた道を戻り始めた。
「アリス、何を探してるの?」
「木です。キャンプファイヤー用の」
「ま、まさか……、僕たちがここでキャンプファイヤーをやろうというわけ?」
「そうですよ。せっかく話に出てきたんですから」
アリスは、手が届きそうな高さの木の枝を見上げ、持っていたアルフェイオスを振り上げた。
「『剣の女王』、ごめんなさいっ!
私はいま、伝説となったはずの剣を、こんな用途に使ってます!」
アリスの言葉が終わると同時に、太い枝がアリスの真下に落ちた。
さらにそれを細かく斬って、長さが30cmほどの薪をいくつも作り上げた。
「アルフェイオス、こうやって見るとかなり鋭いんだね……」
「そうですね。
クイーンはそれが分かっているから、アルフェイオスの刃の部分を使うことはほとんどないです。
たまに猛獣を相手にした時とかは、そこで息の根を止める感じです」
「剣は、命あるものを簡単に殺せる道具だものね……」
アリスとビリーは、薪を次々と広場に運び、アリスの記憶を頼りにキャンプファイヤーを組み立てていった。
人間の肩ほどの高さにまで積み上がったところで、ちょうど薪がなくなった。
空は、少しずつ夜の闇が優勢になっていた。
「プライベートキャンプ場ですね、ビリー」
「たしかに……。
トンネルを通ってバルゲートまで行かなくたって、キャンプを楽しめる場所はあるんだよね」
ビリーはかすかに笑い、それから残り少ない昼の空を頼りに、地面を見つめながら歩き回った。
「ビリー、何か落とし物をしましたか?」
「いや……、落とし物というかさ……。
これでどうやってキャンプファイヤーをやるんだ?
キャンプはあっても、ファイヤー、なくない?」
「え? あるじゃないですか……!」
アリスは、ビリーに真っ直ぐ腕を伸ばし、小さくうなずいた。
ビリーは、アリスの人差し指が目に飛び込んだ瞬間、左と右をキョロキョロし始める。
「キングを呼ぶんです。それが一番楽な方法です」
「あのさぁ……。
特にキングブレイジオンは、雑用に使っちゃダメって、前に言わなかったっけ」
「いいから、呼んでください。
それに、いくら雑用と言っても、ここはモンスターの集会場だから、倒す敵だっています!」
「あ、ヤバい。アリス、僕の言った冗談を覚えてたんだ……!」
ビリーは、軽くため息をつきながら、夜空に手を伸ばした。
「その体に纏うは、正義を貫く一途な情熱。
その体が解き放つは、邪悪を焼き尽くす勇ましき炎。
熱き心を授かりし紅炎の王者よ、いま汝の力を大地が欲するとき。
いま、永久に燃える汝の生命力で、この地を絶望から解き放て!」
「よし、成功すれば、楽しい楽しいキャンプファイヤーだっ!」
まだビリーが最後の祈りを言っていないにもかかわらず、アリスがフォークダンスのような足取りで、薪の山へと向かっていった。
ビリーは、はしゃぐアリスを横目で見ながら、空に祈りを捧げた。
「降臨! キングブレイジオン!」
夜空を眩く照らす青白い光が、キャンプファイヤーのすぐ横に解き放たれた。
ビリーは勿論、アリスもその光にキングブレイジオンの姿が現れる瞬間を待った。
だが、その青白い光が、逆に周辺にいる生命を夜の眠りから覚ませてしまった。
『久しぶりの人間の営みだこと……』
『人間の肉が食べられるようだな……』
「なっ……、なに……」
アリスには、声しか聞こえなかったものの、目の前で輝いているキングブレイジオンのシルエットとは別の生命が近くにいる気配をはっきりと感じた。
左右を見渡すと、暗闇に覆われた森の中から、3対の目が薪の山をじっと見つめていた。
「ビリー。これ、間違いなくモンスターがいます!」
アリスは、召喚されようとしているキングブレイジオンを差し置いて、ビリーの前に立ち、目を細めた。
「さてはビリー。
予言者とか占い師という職業を、今まで隠してましたね?」
「あのさ、僕、予言者じゃないから……!
アリスに、海岸まで降りて欲しいからああいうこと言ったの!」
「海岸まで降りなきゃいけない理由って何だったんですか?」
「えっと……、あの……。
二人でさ、砂浜の上で本気の話をしたかったんだ……。
もしかしたら、今度こそ離れ離れになってしまうかも、だし……、最後に二人で思い出を作りたいんだ……」
「えーっ、誘ってくれたんですか?
ど、ど、どうしよう! 今からイケメン1名様が現れてしまうのに……。
くぅーっ!!! もう、キャンプファイヤーを二股でやることになっちゃうじゃーん!」
アリスが言い終わったとき、アリスの背後から激しい熱気を感じた。
振り返ると、そこには金属の体に覆われたキングブレイジオンが、二人を見つめていた。
「俺とこの男の二股ってことか……?」
「あ……、はい、そうです……」
アリスは力のない声で返すと、そのまま下を向いた。
だが、逆ハーレムに浸っている余裕はなかった。
「クイーンは召喚しないのか?」
キングブレイジオンの声で、アリスは我に返った。
右から、3匹のリオンベア――ライオンのようなたてがみに包まれた熊――がゆっくりと3人に近づいている。
それを一目見て、アリスはキングブレイジオンに申し出た。
「せっかくこの剣を持ってるんだから、勇者になりたいんです!
だから……、この戦い、クイーンには頼りたくありません。
私とキングブレイジオン、二人でロイヤルナイツぽいもの、やりましょう!」
「ぽいもの……?」
絶妙なタイミングでツッコミを入れるビリーに、アリスは一瞬舌を出した。
次回、前代未聞のキングブレイジオン×アリス?
応援よろしくお願いします!




