第21話 勇者(笑)アリスの大冒険③
「来るぞ!」
ビリーの叫び声が早いか、角の鋭い一角獣――シャープユニコーン――が草を飛び越え、アリスたちの前に降り立った。
アリスが、シャープユニコーンにアルフェイオスを向けると、相手の目もその剣先に向けられる。
『ガルルルル……!』
「う……、唸ってる……。
やっぱり、剣を持ってると、真っ先に狙われるんですかね……!」
召喚に頼らない限りは攻撃すらできないビリーと、他人のものとは言え、強敵を打ち倒すための剣を持ってしまっているアリス。
シャープユニコーンにとっての脅威になるのはどちらなのかは、決まっていた。
「アリス。
勇者になりたいって言ったんだよな。
だったら、いつも見ているように、クイーンの戦い方をまねてみようよ!」
「分かりました……!」
ビリーに背中を押されるように、アリスはシャープユニコーンに踏み出す。
だが、その視界にシャープユニコーンが飛び込んだ瞬間、アリスは目をつぶった。
アルフェイオスだけは一度振り上げているが、アリスは感覚だけで剣を振り下ろした。
「なんかこれ、スイカ割り――っ!」
果たして、アリスに手ごたえはあった。
だが、アリスの腕が止まった場所は、想定していたところよりもだいぶ下の方だった。
アリスは、そこで目を開けた。
「げげげっ……!」
アルフェイオスが、左の前足を叩きつけていた。
先程よりも鋭い目つきで、シャープユニコーンがアリスを見つめている。
左の前足を何度か地面に叩きつけ、かすかにダメージを受けた場所から痛みを消していた。
『グルルルルルルル……!』
「真ん前だあああああああ!」
先程、高く飛び上がるほどの運動神経を見せたシャープユニコーンは、今にもアリスをその口で食べそうな勢いだ。
かたや、アルフェイオスを持ったまま固まったアリス。
傍から見れば、どちらが勇しき者かは歴然だった。
だが、次の瞬間、アリスの目にアルフェイオスの剣先が映り込んだ。
「クイーンは、どんなバトルだって、弱みも諦めも見せないんだ……!」
シャープユニコーンが、アリスに向かって小さく飛び上がったとき、アリスはアルフェイオスを高く上げた。
そして、アリスの体に飛び掛かろうとしたシャープユニコーンに向かって、剣を鋭く振り下ろした。
シャープユニコーンの体を強く叩きつけたような感触を、アリスの手が覚えた。
アルフェイオスの軌跡に乗って、シャープユニコーンの足が地面に叩きつけられる。
『グルルルルル……』
シャープユニコーンは、アリスを見上げるだけで、痛みからか体を強張らせていた。
相手の動きが鈍くなる。
「今しかない……!」
トライブのバトルを数多く「見学」してきたアリスにとって、敵が隙を見せたときに本気を見せつけるのは、もはや「勝利への絶対条件」だった。
それを、勇者になったアリスが再現する。
「はあああああっ!」
『ガルル……』
危険を察したシャープユニコーンが、アリスに走り出そうと、前足を一歩出した。
その瞬間に、アリスはアルフェイオスで相手の背に振り下ろした。
これまでアリスの前で破壊力を見せつけた剣が、シャープユニコーンの体を真っ二つに斬り裂いた。
『ウガアアアアアアア……!』
「これが……、クイーンの、剣の力っ……」
アリスは、剣を振り下ろした右手に痛みを覚えるものの、それ以上に地面に落ちていくシャープユニコーンの姿を見て、体が震え始めた。
「勝ったああああああ!」
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「よく勝ったね……。
目を閉じながら走り出した時は、どうなるかと思ったよ……」
ビリーは、アリスのもとに駆け寄るなり、小さくため息をつき、安堵の表情を浮かべた。
「最初は怖かったですよ……。
今まで、遠隔系の攻撃しかしたことなかったですもの……」
「そうか……。
ここまで敵に接近されたこと、なかったものね……。
でも、スイカ割りのくだりは余計だね」
「あ、聞こえてましたか……!」
「完全にアリス、スイカ割りって叫んでたもん!
あんな緊張した場面でよく言えるなと思ったよ」
ビリーは、途中から笑っていた。
アリスも、ビリーの話し方の変化に合わせて、一緒に笑いだした。
「というか、あんな剣の振り下ろし方したら、本当にスイカ割りをしたくなりました」
「あ……、じゃあ、先に進もうか……。
ここじゃ、またモンスターが出てきてしまうかも知れないよ」
アリスは、ビリーに左腕を引っ張られた。
明らかに、草地とは真逆の、目指すべき南海岸に向かっている。
「えっ……、ど、どうしたんですか……?
急に、ビリーがパーティリーダーぽくなっちゃって……」
「僕がそうするってことは、何となく分かるよね。
ここにいたら、アリスが冒険どころじゃなくなるってことだよ」
だが、次の瞬間、アリスの鼻がひくひくし始めた。
ビリーの言葉が、「この近くに食べ物の気配がある」というニュアンスに聞こえるのは、いつものことだった。
「まさか、ここにスイカが生えているってことはないですよね」
「あ……」
ビリーが息を飲み込む。
そのしぐさで、アリスは仮説が間違いないと悟った。
「さぁ~、スイカ探し! スイカ探し! アルフェイオスでスイカ割りやるぞ~!」
「探すなあああああ!」
ビリーは、草むらに入るアリスを止めようとしたものの、アリスはもはや聞く耳を持たなかった。
そして、30秒も経たないうちに、草の間に大きなスイカ1玉を、アリスに見破られてしまった。
「あったー! スイカー!」
アリスは、目の前に現れたスイカを両腕で勢いよく取り、それを一度バッグにしまった。
「あれ? しまうんだ」
「だって、こんなところでスイカ割りやりたくないじゃないですか。
私は、今日泊まるところで、夜の楽しみにしたいんです!」
「珍しいな、アリス……。
食べ物が手に入ったら、その場で食べてしまうんじゃなかったっけ」
アリスは、スイカがパンパンに入ったバッグを軽く叩いた。
「もしなんだったら、いまガツガツ食べますしょうか……?」
「ガツガツ?
スイカを食べる時、そんな音したっけ?」
「スイカの丸かじりです。
私はやったことありますけど……、領主がきたないスイカの食べ方をしたと、自分でニュースにしますよ?」
「自分で勝手にニュースを作るんじゃないよ。
でも、せっかくアルフェイオスがあるんだから、交互に剣を持って、先にスイカを割ったほうが、大きな部分を食べられるっていう勝負も、やれると楽しいよね!」
ビリーも、アリスが背負ったバッグを軽く叩いて、アリスが獲ってきたスイカの硬さを手で感じた。
「それにしても、ずいぶん硬いんだね、このスイカ」
「硬いですね……。
『オメガピース』にいた頃は、こんな硬いスイカを食べたことないです……」
アリスは、再び鼻をひくひくし始めた。
それから数秒も経たないうちに、アリスはバッグからスイカを取り出し、それを地面に置いて、前に転がしていった。
「な……、なんで手放しちゃうんだよ……!」
「ビリー。これ、罠かも知れないです。
なんか、持った時に、みずみずしさと一緒に、火薬の臭いを感じませんでしたか?」
「全然感じなかったよ」
ビリーの返事を聞いた後、アリスは前に転がしたスイカに向けて、鼻を突き出した。
それから、確信を持ったようにうなずいた。
「やっぱりこれ、爆弾です。
枝から取った時点で、中から火が付くようになって……」
ボカアアアアアアアン!!!!!
「……爆発したね」
アリスとビリーの前で、粉々に砕け散った元スイカ。
爆発により、その先に進む道がある程度開けたことは間違いないものの、それ以前に二人はほっとした表情へと変わった。
「あの場でスイカ割りやってたら、僕たち本当に終わってたね……。
アルフェイオスにも被害が出るところだったよ」
「スイカが生えてるって、最初はそんな感じがしたんですけどねぇ……」
食べられるはずのものを失ったアリスたちは、一度ため息をついて、目指す南海岸へと歩き出した。
アリスのバトルはこの1回だけではありません。
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