第21話 勇者(笑)アリスの大冒険②
アリスの発表から30秒経っても、ビリーはアリスの「勇者になる」発言が信じられない様子だ。
「勇者。
それってさぁ……、異世界に行ってなりたい職業ランキング第1位とか言われてるやつじゃん」
「そうですよ?
私、今まで『オメガピース』でずっと下っぱでやってきましたから、立場逆転させたいです!」
「そうなんだけどさ……。
アリス、今は勇者以前に、アレマ領の領主やってるじゃん?
じゅうぶんトップに立ってると思うけど……?」
「そんなんでもないですよ。
自称、バカ領主ですから……!」
アリスは、人差し指の先を自らに向けながら笑った。
「というより、今まで王室騎士団に頼ってばっかりだった、アレマ領の平和!
せっかくの機会なんだから、領主自らが守ります!」
「おお~っ!
もしかして、次のコロッセオ、前に僕がやったようなアリス無双にするの?」
「コロッセオじゃ、冒険ぽく見えないからボツです!
私は、領主の力があまり及んでなくて、モンスターだらけの辺境に行きたいなって思います。
例えば……、ここ!」
アリスは、ポケットから地図を取り出して、ビリーに近づくことなく北西部の山脈地帯を指差した。
ビリーが「遠くじゃ分からないよ」と、大股でアリスの前に近づく。
「ドリー領との境界……?」
そこは、アリスが未だに足を踏み入れたことのない場所だった。
このドリー領もまたバルゲートの属領であるが、アレマ領から遠いことが災いして、領内に誰一人としてその様子を知っているような人はいないのだった。
「ここは、怪しすぎて危険じゃないか……?」
「そうですか?
グロサリさんのところに泊まれば、山まで1日で往復して帰ってこられますよ」
「いや、そういう問題じゃなくて……、出てくるモンスターだよ」
すると、アリスはアルフェイオスの鋼を軽く叩いて笑った。
「これがあるじゃないですか。クイーンの剣、アルフェイオスが」
「アリスさ。
本当にそれで戦うんだ。
というか、この冒険、全く召喚しないつもりなの?」
アリスは、首を縦に振った。
「少なくとも、モンスター討伐戦だったら、南海岸のほうがまだレベル低そうな気がするけど。
書庫の本に書いてあったよ」
「そうなんですね……」
アリスは、ビリーのアドバイスに珍しく従うと、ドリー領との境界付近に乗せていた指を、バルゲート本国との境界線をなぞるように、南海岸まで動かしていった。
「じゃあ、ここでレベル上げ。
私のレベルが99になったら、ドリー領までの近くまで行って、討伐作戦開始と!」
「それ、領主の館を結構空けることにならない?」
「夏休みにしちゃえばいいんです!
だって、夏は誰もがバカンスをする季節ですよ!
バカがバカンスしなかったら、面白くないです」
「今の、十分寒いから……」
アリスは、仕事が早いか、館の入口に貼りだす「夏休みのお知らせ」をマジックで書き始めた。
2週間休む、イコールその間は領主の仕事を休んで勇者になる、ということだ。
「あ、今から言っておくけどさ。
2週間経って戻ってきたら、数日後にはたぶんまた領主替えだね」
「バカ領主が、領主替えさせられるわけないじゃないですか。
また、前みたいにバカばっかりやって追い返しますから!」
アリスは、急いで入口にお知らせの紙を貼り、普段よりも多めに荷物を積んだバッグを背負い、アルフェイオスを持って外に出た。
ビリーもやや遅れて玄関を飛び出し、鍵を閉め、それから二人は珍しく領主の館に振り返った。
「さぁ、これから私たちは、新しいゲームの世界にログインします!
題して、『アレマ・クエスト』!」
「勝手に、変なタイトルつけるんじゃない!
勇者になりたいとか言っても、僕たちはあくまでもリアルの世界の、領主と召使いだよ?」
「分かってまーす!」
ビリーのほうに振り向かずにそう言い放つアリスは、早くもバッグからお菓子を取り出した。
その後ろで、ビリーが「ダメだこりゃ」と呟くのを、アリスは耳ではっきりと捉えた。
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「モンスター、近寄ってこないですね……」
領主の館を出て3時間が経ったが、南海岸へと向かう「冒険者」たちの前に全く敵が出てこなかった。
これまで領主が普通に領内巡回をしていて、モンスターと遭遇したことはなく、剣を持っているからと言ってその状況に変化があるわけがないのだが。
「モンスターが出そうなところは、本当に領主も領民も近寄らないところじゃないのかな。
さっき僕が、このあたりだったら弱いモンスターが出てくるかも、って言ってなかったっけ」
「言ってた。
だから、モンスターが出てくるところって、決まってるんですね!」
「そうそう。
人間が生息しているところをモンスターが襲うということは、誰かの指示でもない限りそんなないわけだし。
その逆だって、僕たちはちゃんと守っている。
だから、人間が住んだり、移動したりするようなところでモンスターを見ることが少ないんだよ」
「それは言えますねぇ……」
アリスは、ビリーの説を聞きながらも、首を左右に動かしていた。
シーショアに向かう道こそ様々な人が行きかうまともな道だったが、そこよりも東寄りに進んでいる今回のルートは、生えている草の高さでおおよそのルートを見つけなければならないものだった。
「ビリー。
地図ではこっちに道が書いてあるんですけど、なんか、ほとんど誰も通っていないような気がします」
「本当に?
アリスが地図を読めないだけなんじゃないの?」
ビリーが、アリスの持っている地図を手に取り、目を近づけた。
領主の館やシーショアの街、そしてバルゲート本国との境になる山の位置関係と、いま二人がいる場所の景色とを照らし合わせる。
「本当だ……。こっちで合ってる」
「えっへん。
お菓子食べながら、地図の勉強をしたのが生きました!」
「そんな問題じゃないから」
ビリーが苦笑いを浮かべると、アリスは草の高さを目で確かめながら、さらに先に進んだ。
時折、まだ乾いていないところがあり、そこには人間の足跡が付いている。
その足跡を見て、アリスは正しいルートに進んでいることを確信した。
だが、草をかき分ける音や、後ろに付いてくるビリーの靴音とは違う音が、アリスの耳に聞こえてきた。
「ビリー。
なんか、ウ○コ出しました?」
「ウン○……?
恥ずかしいから、出すわけないじゃん!
そんな、僕のほう臭ってる?」
「臭いじゃないです。
なんか、私の後ろから、ブリブリッという音が聞こえてきたんです」
ここでようやく、アリスがビリーに振り向く。
ビリーは、突然の辱めで困惑していた。
「あのね。
ブリブリッという音を聞いただけで、僕が○ンコ出したということになるの?
てか、むしろそんなことやるのアリスじゃないの?」
「ギャグマンガの世界では、お尻からもらすのは男子に決まってまーす!」
「あ、そう。
僕は出してないからね、マジで」
ビリーが苦笑いを浮かべるタイミングで、アリスは首を元の向きに戻した。
だが、アリスの右、草が人間の肩幅まで伸びているところに、獣のようなシルエットと輝く目が見える。
「ビリー……、なんか怖い……」
アリスは立ち止まって、獣のシルエットに向かって真っ直ぐ腕を伸ばした。
ビリーも、アリスの腕が伸びる方向に目をやり、息を吞んだ。
そこに、二人と目が合った獣がゆっくりと動き出した。
「モンスターだ!」
アリスが強く叫んだとき、草の中にいた獣――角が鋭そうなユニコーン――がアリスたちに向かって飛び上がった。
次回、早速バトルです!
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