第20話 剣は投げられた⑤
――さぁ、本日はもう一つ、王室騎士団の力もお見せしましょう!
先程もその力を見せつけたクイーンと、燃え上がるキングの最強コンビ!
対戦するのは、人呼んで「リアル・ブラックホール」。
最強の結界師と名高いマスターウォールを召喚しました!
さぁ、2対1のこの勝負、どっちが勝つでしょう!
「だ……、誰……?」
入場口から入って来たのは、黒の長髪を揺らしながら歩く、涼しげな表情の男。
「ネオ・アレマ解放戦線」の一味と思わしき男が一緒にバトルフィールドに入って来たものの、入口で止まる。
ほぼ時同じくして、ビリーの息遣いがやや速くなる。
「まずいぞ。
解放戦線は、本気でロイヤルナイツを殺しに来た……」
「ええええっ??? なに言ってるんですか!
私たちの誇る最強戦士を、死んで元の世界に戻しちゃダメですよ!」
アリスが振り向くと、ビリーは首を横に振った。
「あいつは、僕がいた時代に、世界中で恐れられた結界師……。
あの結界の中に閉じ込められた肉体は、結界が作り出す空気によって溶け出す。
特に、人間は……、ものの1分で肉体が失われると聞く……」
「そんな相手……、キングで簡単に焼き尽くせませんか?」
「アリス。結界って言葉の意味、分かってるよな。
どんな魔術をも遮断する、不思議な力が働く……」
ビリーがアリスに告げているうちに、二人の目の前にマスターウォールが止まり、右の人差し指をビリーに真っ直ぐ向けた。
「キングブレイジオンを呼び出してよ。
ロイヤルナイツが完成しないうちに、遊びだしたらつまらないからさ」
「な、なんか……、しゃべり方がフレンドリー……」
アリスがマスターウォールの表情に釘付けになる中、ビリーはコロッセオを見つめる空に手を伸ばした。
「その体に纏うは、正義を貫く一途な情熱。
その体が解き放つは、邪悪を焼き尽くす勇ましき炎。
熱き心を授かりし紅炎の王者よ、いま汝の力を大地が欲するとき。
いま、永久に燃える汝の生命力で、この地を絶望から解き放て!」
「そうこなくちゃ……。
結界に飲み込まれる紅炎の王者という、ショッキングな瞬間が僕は楽しみなんだ」
マスターウォールの目が、ビリーを見つめている。
その時点で、アリスは嫌な予感がした。
先に「やられる」のは、クイーンではなくキングの方だと。
だが、ビリーはそのようなことなど気にせず、この地に炎の使い手を呼び出す。
「降臨! キングブレイジオン!」
青白い光の中から、キングブレイジオンの姿がはっきりと映し出される。
光の中で、早くも敵を見つめているように、オレンジ色の髪を従えた表情は本気だった。
そして、青白い光が消えかかったところで、トライブがキングブレイジオンの横に立った。
二人が、同時にうなずいた。
「「我ら、アレマ領を守る正義の力、王室騎士団!」」
「さぁ、今日がその最期の瞬間!
僕の結界の前に、その存在ごと消えてしまうんだね!」
マスターウォールが左手を真っ直ぐ伸ばす。
その中で、先に召喚されたトライブが、キングブレイジオンに告げる。
「相手は、名の知れた結界師。私は結界を外から打ち破る。
打ち破った間を、キングブレイジオンが鋭い炎で突き刺す。
そうしたら、私たちにも勝ち目があるはず」
「分かった!」
キングブレイジオンがうなずいた瞬間、マスターウォールの手から灰色に近い結界が解き放たれた。
その結界は一気にロイヤルナイツたちの前に迫り、その前で止まった。
「これは、俺たちの力を試しているのか……」
キングブレイジオンは右手に炎を集め、トライブが結界を大きく切り刻むタイミングを見計らった。
だが、肝心のトライブが首を横に振る。
「キングブレイジオン。これは罠かも知れない。
私と少しでも離れたら……、キングブレイジオンに結界が伸びてくるかも知れない!」
「どういうことだよ、クイーン!」
「マスターウォールが、全く焦っていない!」
そう言いつつも、トライブはアルフェイオスを結界に突き刺し、大きく下に振り下ろす。
キングブレイジオンが、アルフェイオスを突き刺した軌跡に手を伸ばすが、その時には既に、炎の入る隙間はほとんど見えなかった。
それでも、キングブレイジオンは相手に向かって力強く叫ぶ。
「炎よ、我が怒りに共鳴せよ! 勇敢なる炎、発射!」
「話にならないね!」
激しい炎が、マスターウォールの放つ結界に突き当たった瞬間、左右に弾けていく。
標的を失った勇気の証が、結界の外でその意思を失っていく。
「ウソだろ……っ!」
キングブレイジオンが歯を食いしばる。
その中でトライブは、より激しく結界に攻撃を仕掛けようとした。
その時、マスターウォールの手の向きが、正面からキングブレイジオンに変わった。
「あっ……!」
アリスがいち早く相手の動きを見て叫ぶが、その時には灰色の結界が瞬く間にキングブレイジオンに張り出し、金属の体をその中に飲み込んだ。
「くっ……!」
「キング……!」
アリスの声がコロッセオに響いたときには、キングブレイジオンが右手に宿していた炎は完全に失われていた。
キングブレイジオンは、懸命に炎を集めようとするが、金属の体から炎すら出てこない。
「結界の中では、どんな詠唱だって響かない。
たとえ、紅炎の王者がどんなに熱い炎を放てる力を持っていたとしてもね」
「何だと……っ!」
キングブレイジオンが、右手を真っ直ぐマスターウォールに伸ばすものの、その手から一切何も出てこない。
幸い、金属の体に覆われているので、体が溶け出すまでには時間がかかりそうだが、力を失われたキングブレイジオンにはどうすることもできない。
「キングブレイジオン! いま助けるから!」
トライブが、何度も立て続けに結界を剣で割り、その間からキングブレイジオンに声を掛けるものの、開いた結界はすぐに閉じてしまう。
対して、マスターウォールはトライブの動きを横目で見て、その手をトライブに伸ばした。
「あっ……!
クイーンまで飲まれちゃう!」
アリスが体を伸ばし、強く叫んだその時だった。
マスターウォールの手の向きが、いつの間にかアリスへと変わっていた。
完全にフェイントだった。
「どうせなら、みんなまとめて戦闘不能にさせようかな……」
「あああっ!」
アリスの目が、突然灰色のフィルターがかかったような感触を覚えた。
次の瞬間、全身を突き刺すような痛みがアリスを襲う。
「まさか、私、結界に飲み込まれ……!」
アリスは何があったかを一つ一つ思い出そうとするも、全身の痛みがそれすらも許さなかった。
キングブレイジオンと違い、生身の体が結界の中で悲鳴を上げていた。
「助けて――――っ! クイーン! あと、ビリー!」
痛みは、下半身に行くほど強いようだ。
アリスは、まだ自由の利く首を左右に動かした。
その瞬間、アリスは立て続けに息を飲み込んだ。
「ビリーが逃げた……っ!
でっ……、クイーン……?」
右目には、ビリーが慌ててバトルフィールドから逃げ出す姿。
そして、左目には、懸命に剣を振るも、少しずつ消えていくトライブの姿。
どちらも、アリスには信じることが出来ない光景だった。
その後ろで、マスターウォールが薄笑いを浮かべた。
「女王を呼んだ召喚師を結界に飲み込めば、声を失った女王もこの世界で生きてはいけない。
動きの速い女王を消し去るには、一番の作戦なんだよね」
「卑怯よ……っ!」
いよいよ、トライブの腕が薄くなり始めた。
アリスの「声」が届かなくなったと同時に、足から順番に体が言うことを聞かなくなっている。
もはや腕に力が入らなくなるのも時間の問題だった。
それでも、トライブは落ち着いていた。
「キングブレイジオン。
さっきの作戦を一人でやれば……、うまくいくかも知れない……!」
トライブは、腕に力が入らなくなった瞬間、結界の中にいるキングブレイジオンの前に落ちるように、アルフェイオスを投げ入れた。
それは、アリスをさらに困惑させたのだった。
「えっ……?
クイーンが剣を捨てた……?」
アルフェイオスがトライブの手を離れること。それは、女王の敗北を意味する。
トライブが自らの意思でそれを行うことなど、アリスは「オメガピース」で一度も見たことがなかった。
アリスに不安が襲い掛かる中、やがてトライブが剣だけを残して、この世界から消えていった。
だが、それから数秒も経たないうちに、アリスは強い力に後押しされた感触を受けた。
「アリス。
俺と一緒に結界から出ろ!」
キングブレイジオンは、左腕でアリスの腕を引っ張り、右手でアルフェイオスを強く振っている。
剣を振った先には、結界からの出口を告げる光が差し込んできた。
「キングが……、剣士になった……?」
アリスがそう呟いたとき、アリスは体に強い衝撃を覚えた。
激しい痛みは残っていたものの、外の世界に出た瞬間、その痛みが少しずつ消えていくように覚えた。
アリスは、出せる限りの力でバトルフィールドの出口へと駆け、ドアを閉めた。
そこで、先に逃れたビリーとともに、戦況を見つめた。
「よく出たじゃない。
でも、僕はバトルフィールドをこれだけ結界で覆えたんだ。
君たちに、勝ち目はないよ」
「そうはさせるか……!」
キングブレイジオンの体は、これまで見たこともないほど燃え上がっていた。
手に握ったアルフェイオスに力をもらったのか、それともトライブがこの世界から葬られたことに対する怒りなのか、はたまた王室騎士団の意地か。
様々な想いを、キングブレイジオンが炎へと変えていく。
「俺は、右手じゃなくても炎を放てる……!」
キングブレイジオンが、トライブから受け取ったアルフェイオスを振り上げ、流れるように結界へと突き刺していく。
ほんの数秒だけ開いた、結界の隙間。そこをキングブレイジオンは見逃さなかった。
「際限なき炎の矢、発射!」
結界の隙間から、無数の炎がマスターウォール目掛けて解き放たれる。
キングブレイジオンの全身から次々と解き放たれる炎が、結界の再結成を許さない。
「これが、王室騎士団の実力だあああああ!」
力強い声に乗せ、キングブレイジオンの意思を穿つ炎の矢が、次々とマスターウォールの体を貫いていった。
「ああああああああ!」
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「何とか勝ったね……」
全身にダメージを負ったマスターウォールにヒールを掛けた後、アリスは涼しげな表情に戻ったキングブレイジオンの横に立った。
全身を激しく燃え上がらせただけあって、キングブレイジオンの横に立つと、未だに熱気が漂っていた、
「あぁ……。
クイーンの捨て身の作戦がなければ、負けてたからな……」
「あれは、ずっとクイーンを見てきた私でも、ショックでした……。
誰よりも剣を愛している人間が、その剣をキングに投げるんですもの……」
「アリス。
王室騎士団はチームだ。一人じゃない。
クイーンが俺に言ってくれたその言葉を、俺は剣を渡されてやっと分かった気がする」
キングブレイジオンは、アリスにうなずいた。
それは、その言葉が言える女王をこの世界に召喚できる人間に対する、尊敬の目に他ならなかった。
「クイーンは、きっと俺と全く違う、勇気を持っているんだろうな……」
そう言って、キングブレイジオンがアルフェイオスを横に傾け、柄をアリスに差し出す。
「次に俺たちが戦う時まで、大事に持っていてくれ。
俺は、剣よりも魔術の方が圧倒的に強いからな」
「はいっ!」
アリスは、「オメガピース」の部屋にいる時、イタズラでアルフェイオスを持ったことがあった。
だが、今はその時とは全く違う重みを感じていた。
ロイヤルナイツを率いる領主として、そこに集う片方の力の証を預かっているのだった。
「この剣……、大事に持ってます!」
アリスは、一緒にバトルフィールドに戻って来たはずのビリーに振り向いた。
だが、その時、ビリーの表情はどこか浮かないまま、何か考え事をしているかのようだった。
というわけで、これからしばらくの間、アリスがアルフェイオスを持つことになります。
変なことに使わなければいいのですが……。
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