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追放兵士、領主になる  作者: セフィ
第1期 自分の方が偉いので元上司の最強女剣士を召喚することにしました
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第2話 就任式はドタバタだ⑤

 「オメガピース」から兵士を召喚する。

 突然思いついたアイデアに、アリスは息を飲み込むしかなかった。


 領主生活が始まる前に1年以上いた「オメガピース」が、アリスにとっては未だに記憶に残っている生活拠点だった。

 だが、その組織からは、この世界に来る直前に追放されている。

 追放した組織なのだから、いくらアリスが召喚しても、その声に耳を貸してくれないかも知れない。


 それでも、一つだけ希望があった。



――納得いかないわ……。努力してるアリスを、私は……。



 アリスを最後まで面倒見たい。

 アリスの追放が確実となる中で、そのような目を総統に向けた「剣の女王クイーン・オブ・ソード」トライブなら、自分の声に応えてくれるかもしれない。

 むしろ、いまの「オメガピース」で数少ない味方だ。


 ただ、召喚にはハードルがあった。

 いくらこのアレマ領で、召喚魔術や転生魔術の魔粒子が高いと言われていても、一度も召喚に成功したことのないアリスが、この切羽詰まった場面で召喚を成功させられるのか、ということだ。


「いくらやったことがないからって、もうやるしかない……。

 諦めた瞬間に、可能性はゼロになる」


 そのトライブが何度も言い放った言葉を背負って、アリスは右腕を高く上げた。


「剣士よ……。未来を切り開く剣士よ……。

 いま、我が声に耳を傾け……、応えよ……

 この争いに終止符を打つ剣の一撃を、この地に……」


 適当に思いついた詠唱で、アリスは時空を超えた先にいる存在に語り掛けた。


「私の大事な女剣士、召喚っ!」



 し~~~~~~ん……。



 空白の10秒が流れていった。

 殴り合いを続けていた二人も、「召喚」の2文字を聞いた瞬間に手を止めたが、時間が経つにつれて、特にウェイバの口が開きっぱなしになっているのを、アリスは見てしまった。


「笑わせてくれるじゃねぇか、バカ領主!」


 ネイバが、変わってしまった空気に思わず笑いだす。

 その表情を見て、アリスはもう一度叫んだ。


「召喚っ!」


「……アリス、心がこもってないよ」


 後ろからビリーの声が響くが、アリスは決して振り向かない。

 自分のせいで起きてしまった殴り合いを止めることだけを考えながら、右手を空へと伸ばした。


「お願いします! 来てください!」



 すると、アリスの目の前から青白い光が現れ、中からシルエットが見える。

 だが、そのシルエットの大きさは、アリスよりも20cm以上は身長が高いトライブのものではなかった。

 むしろ、アリスよりもはるかに身長が低い、130cmにも満たないような人間、あるいは人間外の生物であるように見えた。


「成功したかな……。何か召喚できたような気がするけど……」


 殴り合いをしていたはずの二人も、そしてビリーも見守る中、いよいよそのシルエットがはっきりしてきた。


 アリスが、固まった。



「ママ~! ママ~!」


 青白い光の中から出てきたのは、5歳ぐらいの男の子だった。

 手に持っているのは、空気を入れて膨らませた剣だ。

 その子の見たヒーローが使っていた剣どころか、そのレプリカでもない、どう考えても相手を斬ることが出来ない武器だ。


 アリスが、男の子の前に立って、すぐに土下座をした。


「ごめん……。この世界に勝手に呼んじゃって……。

 すぐに戻すから。3、2、1……」


 アリスは、その男の子に手を伸ばし、何も知らずにカウントダウンした。

 すると、男の姿がスーッと消え、その場にはアリスだけが残された。

 もちろん、おもちゃの剣も元の世界に戻っている。


「今の、何……?」


 土下座から立ち上がったアリスの前に、ビリーがため息をつきながら立った。

 ビリーは、腕を組んでいた。


「召喚です……。成功したように思ったんですが……」


「うん。成功とは言えないよね。

 大事な剣士、と言ったのに、実際に連れてきたのはアリスと面識のない男の子だし」


「やっぱり……」


 アリスがガックリと首を垂れた。

 その時、アリスの背後から二組の足音がゆっくりと聞こえてきた。

 振り返ると、殴り合いをしていたネイバとウェイバが、疲れ切ったような表情でアリスに近寄っていた。



「こんな、何もできない領主に期待する方がおかしかった。

 殴っても状況が変わるわけじゃない。だから、もう暴力にも訴えない」


「えっ……」


 先にクレームを言ってきたネイバが、アリスに頭を下げた。

 殴り合いを止めた理由でさえ、アリスには想像つかなかった。


「でもな、領民どうしの殴り合いを止めようとする姿勢だけは感じた。

 バカだったとしても、領主として最低限のことはしている。

 それを見たら、領民どうしが殴り合いをするのがバカらしくなったんだ」


 すると今度は、殴られたウェイバがアリスに告げた。


「言葉だけはバカ領主だけど、そこから逃げようとしない。

 だからこそ、もしかしたら領主は考えてくれてるんじゃないかって。

 殴り合いをするだけじゃ解決しないからな」


「ありがとうございます……」


 アリスは、二人に向けて咄嗟に頭を下げた。

 その横で、ビリーも胸をなで下ろしているようだった。

 すると、その二人に、ネイバが肩を叩き、「頑張れよ」と告げながら立ち去った。


 それから、アリスはウェイバにもう一度頭を下げた。


「いろいろなこと、謝らなきゃいけないです……」


 すると、ウェイバは首を横に振って、アリスを止めた。


「気にしなくていいよ。あの死刑宣告も冗談だって、すぐ分かったから」


「まぁ、そうですね……」


 アリスは、つい数十分前に「じゃあ死刑」と短絡的に言ってしまったことを思い出し、小声で「すみません」と告げた。

 それからアリスは、ウェイバに提案した。


「領主側のミスだということは、間違いないです。

 だから、領主と契約している土地を見直しましょう。

 今までより領主側の食べ物が少なくなりますが、仕方ないです」


「分かりました」


 アリスが微笑むと、ウェイバも微笑んだ。



「アリス……、本当はバカじゃないのかも知れないね……」


 何があったのか全てを思い出せないほど、いろいろなことのあった就任式も終わりを告げ、庭園にアリスとビリーだけが残された。


「……バカです。何も考えずに、はい死刑! とか言い出して……」


「でもさ、最後はこっちの非を認めたよね。

 こっちに入ってくる食べ物も減るのに、よくアリスがそれを決めたなって」


「えっ? 食べ物は無限にあるじゃないですか。お菓子が……」


「お菓子……?」


 アリスは、少しだけ笑いながらクローゼットの方向に腕を伸ばした。


「きっと、探せば賞味期限内のものがたくさん出てくると思いますよ。

 クッキーも30箱見つけたし、探せば希望は出てきます!」


「結局、そこかーい!」


 ビリーが苦笑いしながら、アリスを見つめていた。



~~~~~~~~



「アリス、意識を失ってる……」


 「オメガピース」の講堂を出たところでアリスが倒れているのを、数人の兵士が取り囲んでいた。

 その輪の中に、トライブとソフィアがほぼ同時に入っていった。


「トライブ。アリスは追放のショックで、自分から倒れたとか……」


「ソフィア。それはないわよ。アリスの性格を考えたら、そんなことしないわ」


「そうね……。で、これからアリスをどうする?」


「私は……、ここで治療したほうがいいと思う。

 このまま意識が戻らなかったら、追放以上に後味が悪い別れ方になるわけだし」


「たしかに、後味は悪いわね……」


 ソフィアが、そこで息をつく。


「それに、アリスは私に最後、ごめんなさいと言ってたし。

 私だって、アリスを守りたかったけど、守れなかったし。

 だから、意識が戻るまでは私たちの仲間だと思う」


「トライブ、それはどうかな。

 私は、アリスを兵士として見捨てたし、仲間じゃないと思う」


 ソフィアが、そこで下を向く。

 どうしたの、とトライブが尋ねると、何事もなかったかのようにソフィアが顔を上げた。


「ただ、私たちがアリスをこんなことにしたとは思いたくないから……、助けようか……」


 トライブとソフィアは、アリスを救護室に運ぶために、アリスの腕と足を持ち上げようとした。

 次の瞬間、トライブが息を飲み込んだ。


「トライブ、もしかして変な気配を感じた……?」


 するとトライブは目を左右に動かし、周りに「オメガピース」兵以外いないことを確かめてから、ソフィアだけに聞こえるように告げた。



「なんか今、アリスに呼ばれたような気がする……」


「アリスが? 気を失っているのに、しゃべったの?」


「違う。でも、なんかアリスが遠くから声を掛けているような気がする……」



 二人は、アリスの「今」をまだ知らなかった。

召喚は失敗です。アリスらしいですね。


でも、明後日から始まる第3話では、ついに女剣士が……、おっと。


ダメ領主でバカ領主ですが、アリスの応援よろしくお願いします!

ブクマと評価を頂けるとありがたいです。

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