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追放兵士、領主になる  作者: セフィ
第1期 自分の方が偉いので元上司の最強女剣士を召喚することにしました
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第1話 追放から始まる異世界領主①

「『オメガピース』を、今日限りで辞めて頂きたい」



 まだ15歳の少女、アリス・ガーデンスに、軍事組織「オメガピース」の総統は静かに告げた。



「えっ……。つ……、追放ですか……?」


 この時に限って、心の準備ができていない。

 「オメガピース」にいる何百人もの兵士が見ている中で、突然一人だけ講堂の壇上に呼び出され、賞状でももらえるものだと思っていたものだから、心に刻まれた電撃はあまりにも強すぎた。


「断言はできない。

 だが、限りなく追放に近い解雇、とだけ言っておこう。

 『オメガピース』に入隊して1年余りで、君が何をしてきたか思い返すだけでも、理由は分かるだろう」


 心当たりは、たしかにある。

 任務の間に勝手にお菓子を食べ、本部に戻ってきても5人前、6人前もの飯を食べている。

 兵士ではなくフードファイターだと言われたこともある。

 それだけではない。

 共用トイレの水洗ボタンと、全く色が違う非常通報ボタンを3回も押し間違えたとか。

 宿舎の7階から、物干し竿ごと洗濯物を下に落としてしまったとか。


 アリス「だから」。その声が、日増しに大きくなっていくのは事実だった。



「その表情は、心当たりあり、ということだな。この処分に、納得してくれたことだろう」


「間違ってないです。でも……、それでどうして追い出されるんですか!」


「君の日々の態度が、評価不能なレベルだからだ」


 評価不能、という四字熟語に、アリスは口を大きく開くしかなかった。


「ほ……、他の兵士の邪魔をするとか……、任務をサボるとか、そんなことしてないじゃないですか」


「君のドジを、君自身が任務で取り返していると思うのか?

 倒した敵の数、1日あたり0.18。『オメガピース』最下位だ。だから、クビ!」


「いやだ! いやだ! いやだあああああああ!」



 明るめの茶髪を従えて、足をじたばたと動かす。まだ涙は見せない。

 壇上で抵抗するアリスに、「オメガピース」兵の中から嘲笑すら飛び交う。

 兵士が素行不良で追放される瞬間とは、あまりにもかけ離れた空気が講堂を包んでいた。


 その中から、一筋の鋭い声が響いた。



「アリスは、頑張ってるわよ……!」



 アリスが、聞き慣れた声のするほうに振り向いた。

 そこには、金髪で長身の女剣士、トライブ・ランスロットの姿があった。


 そのトライブこそ、誰も面倒を見ようとしなかったアリスを、入隊からこれまでルームメイトとして面倒を見てきた「育て親」だ。

 今やトライブは「オメガピース」で「最強の剣士(ソードマスター)」どころか、世界じゅうでその名を知られる存在であり、その圧倒的な強さから「剣の女王クイーン・オブ・ソード」の愛称で親しまれる。

 そんな最強剣士の任務に、同じ部屋のアリスが同行する規則になっているからこそ、出てくる敵が桁違いに強く、とても駆け出し兵士のアリスが太刀打ちできる相手ではない。

 つまり、倒した敵の数が少ないのは、簡単に説明がつくことになる。



「トライブ。たしかに、君の目にはアリスの頑張る姿が目に見えている。

 だが、我々上層部には数字として伝わってこない。

 それに、複数の兵士から、一緒の組織にいたくないと話があった」


「総統が一人で決めたわけじゃないのね……。でも、私に何も言わないなんて、そんなのおかしい!」


 トライブが言い返し、それをアリスが首をキョロキョロさせながら見ている中で、講堂の前方で待っていたかのような二人を総統が呼んだ。


「うそ……」


 アリスが、息を飲み込んだ。

 呼ばれた二人は、ともにアリスがずっと仲間だと思っていた存在だった。

 一人は、女剣士ソフィア・エリクール。トライブとは大親友、かつ最大のライバルと言っていい関係だ。

 そして、もう一人は女魔術師、ジル・ガーデンス。アリスより年齢が一つ上の姉。


「本当は、ここまでしたくなかったが……、私が君の解雇を決めた理由を、二人に言ってもらおう」


「「分かりました」」



 これはもはや、裏切りだ。

 アリスは震えていた。


「アリス。ずっと見てたけど、あなたは兵士としてふさわしくない!

 『オメガピース』は、そんなダメ兵士のいるべき場所じゃない」


 まずは、ソフィアから図太い釘を心に「グサッ」と刺される。

 続いては、血のつながった姉、ジルだ。


「アリス。私はこれ以上、『バカアリスの姉』なんて言われたくない!

 あの言葉を聞くだけで、私の評価が下がっていくような気がするの!

 なんでこんなバカが妹なの、って思う。目障り!」


「が――――――ん……!」


 事あるたびに直接言われてきた言葉を、ジルが全兵士に公開してしまうのに対して、アリスは叫ばずにはいられなかった。



「トライブ。君に近しい人物でさえ、こう言っている。納得してくれないか」


「納得いかないわ……。努力してるアリスを、私は……」


 総統をじっと見つめ、アリスを最後まで面倒を見るような視線を浮かべるトライブに、アリスはいつしか最後の希望を抱き始めていた。


 だが、それは儚くついえた。



「トライブ。ソードマスターが、兵士ひとり満足に育てられないなんて、あり得ない。

 『オメガピース』全体の士気が下がるわ」



 ソフィアにバッサリ切られ、「勝負」がついた。

 アリスは、ついにうなだれた。



「私は、バカです……。兵士以前のバカです。それを認めなきゃいけないです……」


「やっと受け入れたか。『オメガピース』から出ていくことを」


 アリスは、首を縦に振った。

 そして、背中に手を伸ばし、1年ほど「オメガピース」から借りていた銃を総統に差し出した。



「今日で、終わりだ。どのように成長するか、君自身にかかっているからな」


「はい……」



 アリスは、総統に一礼すると壇上を降り、兵士たちの整列する脇を、下を向いて歩いた。

 途中、ただ一度トライブの前でだけ顔を上げ、目を合わせようとした。


「……ごめんなさい、ソードマスター」


 トライブが何かを言いたそうな表情を浮かべている横を、アリスは当たり前の日常から、他の日常へと歩いていった。

 そして、事実上の追放処分となったアリスが、一人で講堂を出て、「オメガピース」に別れを告げようとした。


 その時だった。



――我が頭脳となり、我が肉体となりし、武勇の力たちよ。

  この声に応え、我が意思に賛同せよ。

  ともに築き上げよ。永遠の繁栄に包まれる、バルゲートの国を!



「バ……、バルゲート……?」


 白い光が、アリスに向かって飛び込んできた。

 講堂全体が白い霧にでも包まれたような光景がアリスの目に飛び込む中、アリスは自らを呼ぼうとしている「場所」だけを口にした。

 任務の合間に時空転送の魔導書をこっそり読んでいたアリスには、これが何であるかは分かっていた。


 「オメガピース」に降りかかった突然の異変に講堂がざわつく音が聞こえたが、白い光に完全に包まれたアリスが、そこから逃れることはできそうにない。

 それでも、アリスは抵抗を続けた。


「うわあああああああああ!」


 先程以上の、じたばたじたばた。

 「オメガピース」どころか、この世からも追放なんてことだけは、絶対に避けたい。そんな意思だ。

 しかし、そのような意思も空しく、ついにアリスは立っていることもできなくなった。


「嫌だあああああああああああ!」


 その声がアリスの耳から完全にフェードアウトすると同時に、体が空中に浮いているような気配をアリスは感じた。

 こうして、アリスは遠い時空へと連れ去られてしまった。

今回出てきたアリス以外のキャラは、みんな強いです。

そのうちバトルシーンでシビれさせることになります。

お楽しみに。


皆さんも、バカアリスを全力で応援してくださいっ!

ブクマポチッがアリスの力になります(切実)

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