リア充のかくれんぼ
初ホラーです。
「ホラーだった。」「怖くなかった」などのホラージャッジを感想にいただければ幸いです。
短いので、どうぞ〜
2021.7.25 追記 くまぽホラー度:★☆☆
シャワーを浴びて、冷蔵庫からプリンを取り出す。
腰にタオルを巻いたまま、俺はプリンを一口食べた。
ほんのりとした甘さに、少し硬めのプリン。
「これ、これ。これが食べたかったんだ。」
満足気に笑う俺を見て、ミアは微笑む。
「ユウくんが好きだって言ってたから。買いに行ってきちゃった。」
うふふ、と笑いながら、布団の中で身体を起こす。
「シャワー、浴びてきたら?」
「ん、そうする。」
ミアはそのまま布団から出ると、俺のところへ来て、あーんと口を開けた。
「えー」
「えーじゃない。ほら、あーん。」
ミアが開けた口の中に、スプーンにのせたプリンを入れる。
「んふぅ、おいひい」
ふんにゃりと笑うと、俺の鼻先にちゅっとリップ音を立ててキスをした。
ミアがシャワーを浴びていると、インターホンが鳴った。
俺は一応上にTシャツを着てから、室内にあるインターホンの画面を覗いた。
キャップを被った作業着姿の女が映っている。
「はい。」
俺は宅配便かな、と思い答えた。
「お届け物です。」
「はい、お願いします。」
俺はオートロックを解錠して、中へ入るように伝えた。
俺は上だけTシャツという変な格好から、ジーンズを履くことで、一般的な身なりになった。
ちょうど、履き終わった時に、玄関のドアがノックされた。
「インターホンのボタン押せばいいのに…」
思わず呟きながら、玄関のドアを開けると、そこには彼女のサキさんが立っていた。
「来ちゃった。」
キャップを脱ぎながら、つり目をにんまりと三日月の形にした。
「来ちゃったって…」
俺は返す言葉もなく、玄関で立ち尽くした。
サキさんは、その笑みを浮かべたまま、
「違うな。『見つけた』かな。」と言って、俺の肩をとん、と押して中へ入って来た。
「隠されると、気になっちゃうんだよね。冷蔵庫のプリンみたいに。」
ツナギ姿のサキさんは、背中のリュックに後ろ手に手を伸ばすと、がさがさとあさった。
そして、取り出したスマホ。
「位置情報を追ったと思ってる?違うわよ。もう少し、個人情報に気をつけた方がいいわよ。」
そして、スクロールして見せられた画像たち。
「そ、れ、に。わたしへの連絡内容と、送られてきた画像の位置情報を照らし合わせれば、だいたい分かっちゃったのよね〜」
じわじわと、背中に汗が滲み出てくる。
「かくれんぼ、もう、終わりかな?」
にっこりと笑うサキさんが、俺には恐ろしく見えた。
口紅の赤さが、やけに現実感が無かった。
サキさんは、俺の彼女だ。
俺が大学生の頃からの付き合いで、すでに社会人だったサキさんには、何かと頭が上がらなかった。
その上、隠し事を嫌うサキさん。
俺のほんの僅かな言動の違いで、すぐに隠し事を見抜く。
今までは、冷蔵庫の奥に隠していたプリンを勝手に食べられた事くらいで、少しの喧嘩で終わっていた。
主に、被害者が俺で。
それが、今回は完全に俺が悪者だ。
サキさんにとっては、浮気相手のミア。そのミアの部屋にやって来たサキさん。隠し事を嫌うサキさんが、これから何をしようとしているのか。
俺には見当もつかなかった。
だからこそ、恐怖が襲う。
「隠されるの嫌なのよね。だって、ユウくん、絶対にすぐにバレるもの。それなのに、わたしを騙しきってると信じてるんだもの。」
サキさんは、俺の両耳にそっと左右それぞれの手をあてると、耳をそっと撫でた。
「この耳は、何を聞いていたのかな?隠されると、暴かないといけないと思っちゃうって、言ったよね?」
俺の目を見て、サキさんは言った。
「かくれんぼは、まだ終わってないじゃない。」
そして、左手を俺の耳に添えたまま、右の拳で俺の腹を殴った。
一瞬で俺を崩れさせると、くるっとターンして、シャワーの音の出元であるバスルームへ向かった。
「もう、いーかい?」
背中のリュックからは、キラリと光る長い刃物。
「かくれんぼするなら、もっと上手に隠れなさい。見つけたら、わたし、奪いたくなっちゃうから。」
ふふふと笑うと、サキさんはバスルームの扉を開けた。
開いた扉からは湯気と、「ユウくん、なぁにぃ?もう〜」とミアの甘い声が溢れ出ていた。
こうして、ひとりの女がリア充滅殺公団の工作員になったのは、また別のお話……。
続く予定は、無い。ʕ•ᴥ•ʔ
男の隠し事は、案外、女にはバレてますよ。
お気をつけあそばせ。