自己紹介 その7
クラスメイト達の視線が集まった事を確認し、私は淡々と自己紹介をする。
「私の名前は殺裂 藍璃桜。
要兄が自己紹介した時に言っていた通り、私は要兄の双子の妹です。」
です。は言わなくても良かったとは思うけど、もう言ってしまったし訂正する必要もない。
私はそのまま自分自身の異常について話す。
... ...私は異常者だと言われた事はない。だけど、このクラスへ招かれた。
その理由はきっとこれ...。
「此処に招かれたのは...
私が、最近ネットでも噂になっている『鬼狐』の正体だから。」
私の発言を聞いて、何人かが息を呑んだ。そうなる事は想定内の範囲。
だけど、驚かない人が要兄と直央先生以外にもいる事は少し想定外だった。
「『鬼狐』って...」
「ここにいる全員も多分...知っている筈。『鬼狐』は俗に言う殺人鬼。いや...
──人殺しの殺人犯。」
「『鬼狐』...噂で聞いた事はあるけど、正直、ネットで書かれてる情報くらいしか分からないな。」
「私達と同い年の女の子だったんだ...」
* * *
『鬼狐』について
数年前からこの辺りで何件もの殺人事件が発生。まるで鬼のような惨殺な殺し方、狐が化かしたかのように、殺人犯の正体が不明である事から殺人犯の仮の名を『鬼狐』と呼んでいる。
* * *
最近、ネットで『鬼狐』についてという題目でこんな事が書かれていた。
今更だけど、鬼のような惨殺な殺し方といっても、鬼のような殺し方って何?鬼が人を殺すなんて聞いた事ないし。そもそも実在しない。
後...狐が化かしたかのようにとか書いているけど、狐が化けるという話は人に、主に女性に化けるという噂しか聞いた事がない。
だから、狐が化かしたかのようにって言えないような...という疑問が幾つか出てきたが、よく知らない人達の中でネットの話を鵜呑みにしている人がいそうだなとこのタイミングで何故か思ってしまった。
「ねぇ、とりあえずあーちゃんって呼んでもいいかな!」
「簡楽さんの事だからそう呼ぶと思ってた。好きに呼んでいいから別に良い。」
「ありがとう☆
ちなみに聞くけど...あーちゃんはあたし達を殺そうとか思ってるの?」
他のクラスメイト達も気になったのか私を見る。
けど、私を見る瞳は恐怖で怯える瞳ではなかった。
今一度、確認したいのだろう。
私がクラスメイトを殺すのかを...。
「ううん。此処に居る皆を殺すつもりは全く無いよ。」
「やっぱりそうなんだ!」
「じゃあ、あの噂は本当なんだね。」
皆が言うあの噂。『鬼狐』について。
「そう、私は罪を犯していない人...それと、一度罪を犯してしまっていても、償おうという気持ちがある人なら私は殺さない。」
「今まで殺された人達は全員犯罪者で、何度も繰り返し犯罪を犯してきた人達だけだった。
その事から、罪なき人は殺されない。...っていう噂だったね。」
御影君がもう一つの噂の内容を代わりに話してくれた。
「そっか〜なら大丈夫だね〜。」
クラスメイトの全員、安堵の笑みを浮かべた。
「...皆、今の発言を疑わないの?」
何人かが他のクラスメイトと目を合わせたが、また私の方を見た。
「疑うも何も...。」
「だって此処は、そういった人達が集まるクラスだからね。」
「...!」
私は目を見開いた。
「さすがに、無差別殺人をする殺人犯を此処に招くわけないしね!此処じゃなくて警察に突き出してる筈だし。」
「もし、招いていたとしても俺達は受け入れてただろうし...ね、皆。」
釘刺君の言葉に皆、同意して頷いていた。
「...そっか。」
此処に招かれた異常者達。異常だなんて言われているけど、そんな事は関係ない。
ただ、心優しい人達が集まったクラスだと私は思う。
「要兄。」
「どうした?」
「私、このクラスに...『異常者クラス』に来れて良かったかもしれない。」
クラスメイトには聞こえないように言う。
本当に此処に来れて良かったと。皆に会えてよかったと。
心の底から思えるようになったその時、皆に伝えたい。
「あぁ。俺も思う。」
要兄はふと微笑む。
要兄も私と同じ事を思っていたら、嬉しいな。
✻ ✻ ✻
「これで全員の自己紹介が終わった...と言いたいところだけど...。」
私は席につき、皆が先生の方に注目していた。
だけど...?
「悲しい事に、一名遅刻だわ。」
先生は頭を抱えた。
後の一名は編入早々遅刻って...。
... ...もしかして...遅刻常習犯の異常者?...そんな訳ないか。
「早く来てくれないと、色々説明が出来ないのだけれど...。
先に説明しておこうかしら。」
─その瞬間...
「ちょっとお待ち下さいまし!!」
甲高い女の子の声が聞こえたと共に、盛大に教室のドアが開かれた。
ドアが壊れそうな勢いだった為、大きな音が響き、何人か肩が跳ねた。
「やっと来たわね。遅刻よ八咲さん。」
「ごめん遊ばせ〜!ちょっと人助けをしておりましたの!」
教室に入ってきた女の子は、黒いワンピース姿といえばいいのだろうか。
「ご、ゴスロリ服で学校に登校してきたのかよ...。制服はどうしたんだ...。」
「あれ、知らないの?この『異常者クラス』は制服着用は規定されてないんだよ。」
「だからって制服じゃなくて、ゴスロリ服を着てくるのはどうなんだ...。」
あれが俗に言うゴスロリというのものなんだね。
あまりよく知らなかったから一つ勉強になったよ。要らない知識が手に入った気がするけど。
「人助けは嘘でしょう?」
「人聞きが悪いですわ!まぁそうですけれど...。」
嘘なんだ...。
「何がどうあれ、遅刻した事に変わりないわよ。
理由はもういいから、皆に自己紹介をしなさい。」
「えぇ。そうさせてもらいますわ。」
八咲さんは軽く微笑み、私達の方をじっと見つめ、軽く自己紹介をした。
「皆様初めまして。私は八咲 モネリと申します。
編入早々遅刻をしてしまいましたが、次からは気を付けますわ。」
「その言葉、忘れないようにね〜。」
数分前まで半分寝ていた縄首さんはやっと眠気が完全に覚めたみたいだった。...ドアの開いた音で。
「ねぇねぇ!もーちゃんは何の異常なの??」
「私はもーちゃんではなくモネリですわ。」
「もーちゃんはもーちゃんだよ☆」
「もーちゃんではなくモネリですわ。」
「もーちゃん!」
「モネリ!」
「もーちゃん!!」
「...はぁ、仕方ないですわね。」
説明しても無駄だと分かったのか諦めた八咲さん。
「簡楽のやつ、すげぇな...。」
その様子をみて、苦労する事を避けられないという事を察したのか、もういいと言わんばかりに首を振った二重君であった。
「そうそう、私の異常でしたわね。
私の異常は、性別関係なく!色んな人にゴスロリ服を着させようとするからとか言われましたわ!!」
半分キレ気味に異常について話した八咲さんはムキィーーー!とか言いながら、真っ白のハンカチを盛大に噛んで引っ張った。
「あれ、現実でやるやついたのか。」
「私も初めて見た。」
「ふふっ...八咲さんは面白い人だね。」
赤血君はそう言いながら、笑いを必死に堪えている。
「ハンカチは噛むものではないよ八咲さん。」
「分かっておりますわ!だけれど、この怒りを何かにぶつけないと気がすまないんですの!」
「えっと...そのままハンカチを噛んで...引っ張り続けていたら...」
「破れるよ。」
ズバッと哀野さんが言ったのと同時に
ビリッという音が響き、ハンカチが裂けた。
「これは、やらかしましたわ。」
...急に冷静になった。
そして八咲さんはハンカチを畳んでそのままポケットに入れたのであった。
「...皆、異常について何も思わないんだね。」
「その事を問う暇がなかったからな。」
そして、この短時間で急に御影君と要兄が普通に会話をするようになった事に軽く驚いた。