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自己紹介 その3

 自己紹介が出来る雰囲気はなくなり、次は釘刺君の右隣の女の子が戸惑っていた。


「ええっと...自己紹介...していい、かな...?」


 おどおどとした声でみんなに聞く。


「...大丈夫だよ糸花。話していいと思う。」


 おどおどしてる女の子の右隣の席にいるフードで顔が見えない女の子がその子に話しかける。

 名前を呼んでいるから、知り合いみたいだね。


 糸花と呼ばれた子は知り合いの女の子に話しかけられて少し安堵していたから仲が良いのかもしれない。もしかしてお友達同士?


「うん。話して大丈夫だよ。

 ...ちゃんと起きて、自己紹介聞くから...。」


「ごめんねこっちで勝手に盛り上がっちゃって!話してる時はちゃんと静かにしてるから!」


 縄首さんと簡楽さんからも許可を貰って、糸花という女の子はぺこりと軽くお辞儀をしてゆっくり席を立ち、一度深呼吸し、自己紹介を始めた。


「...えっと、わ、私は...縫目 糸花...です...。」


 かなり緊張しているのか、上手く話すのが苦手なのか声が小さい。

 私も人の事言えないけど。


「あ...ごめんなさい... ...。あ...ちがう...。

 ...ごめ、ん...敬語、使っちゃって...。」


 縫目さんは少し縮こまってしまった。


「大丈夫!慣れるまで敬語でもいいから☆

 糸花ちゃんならいつか敬語無しで話せるようになるから!」


「う、うん...?」


 簡楽さんから励まされ、疑問系で返事してしまっている縫目さん。

 そうなるのは分かる。私もあの勢いで来られたら疑問系で返答すると思うから。


「そうだ...私の異常...。

 えっと...この腕とか見れば多分、分かる...よね。」


 そういう縫目さんの腕には糸で縫いつけられていた。うっすらと見えるけど、その糸の下には深い傷跡があった。


「私、始めは傷跡を隠すために糸で縫いつけていたの...

 けど、それが悪化したっていうのかな...自分自身の事なのによく分かってないんだけど...傷跡を隠すため以外でも縫うようになって...今では異常者だって言われるようになって...。」


 大分話せるようになったのか、自分自身の異常について語った縫目さんのその瞳に影が落とされる。


「こんなことしてるのって...気持ち悪い、よね...。」


 クラスに沈黙が落ちる。

 だが直ぐにその沈黙は消えた。


「…今の話を聞いて、誰が『気持ち悪い』だなんて発言したかよ。」


「え...?」


 縫目さんの後ろの席にいる机の上で足を組んで棒付き飴を舐めている男の子が足を降ろして、そのまま続けて話す。


「お前より前に自己紹介したヤツらの方がかなりの異常者だって言える方なのによ、たったそれだけで気持ち悪いだなんて思えるかって話だ。」


 痛々しさもお前より前のヤツらのがあるしと男の子は呟いた。


「うんうん。って、誰が気持ち悪くて痛々しい奴だって??」


「えぇ〜酷いよ〜」


「別に気持ち悪いとか言ってねぇだろうが...。

 というか縄首、簡楽の話につられんな。」


「いやぁ〜ここは遊ちゃんに乗っかったら面白いかと思って...!」


 いぇ〜い気が合うね〜!と縄首さんと簡楽さんがハイタッチする。


「要らんことをするな。」


「まあまあ...」


「お前らなぁ...そこで勝手に盛り上がるな。俺らが話しについていけなくなる。」


 痺れを切らした要兄が遂に彼らに突っかかった。

 ちなみに先生はというと楽しそうにこの様子を眺めるだけだった。止める気配は無いらしい。


「そのお前らの発言に俺を入れるんじゃねぇよ!... ...はぁ...。」


「えぇっと...」


 縫目さんは混乱している。


「つまりだ、縫目。このクラスにいる限り、誰もお前の事を『気持ち悪い』だとか思うヤツなんているわけがねぇって事だ。

 もし、いたとしてもお前より前のヤツらに言ってる筈だし、そんな発言は俺が許さねぇ。」


「!!」


 彼の発言は的確だった。きっと...否、このクラスにはそう思う人がいない。

 私もだから。


「めちゃくちゃいい事言うじゃん!まだ君の名前聞いてないからなんて言えばいいか分からないけど☆」


「自己紹介はこの後で言うからまだ待て。

 ...だから、このクラスにいる限り、自分の事を『気持ち悪い』とかいったネガティブはことはあまり言うなよ。」


「...そっか。...ありがとう。」


 柔らかい表情で微笑む縫目さん。

 彼もその表情を見て、微笑み返した。


「やば〜い☆顔がにやけそう〜!」


「微笑ましいねぇ〜」


「お前ら...」


 が、彼はすぐ無愛想な表情に戻った。


「...彼は、『気持ち悪い』っていう発言、もしくはネガティブな発言に敏感になっているから、あんな事を言ったのかな。」


「え?」


 私の左隣の席にいる男の子...先程、サバイバルナイフで縄を切ってくれていた男の子は縫目さんの後ろに座っている男の子を見つめながらそう呟いた。


「それはつまり...」


「いや、気の所為かもしれないからあえて黙っておくことにするよ。

 ...君も、彼にはあまりネガティブは発言は控えてあげてね。きっとそれが最善だから。」


「...」


 もう一度、縫目さんの後ろの席の男の子に目を向ける。


「簡楽!縄首!いつまでニヤついてんだ!」


「いやぁ、だって〜ねぇ?」


「そうそう〜」


 頭に怒りマークがつきそうなくらい簡楽さんと縄首さんに怒っている彼。

『気持ち悪い』というネガティブな発言に敏感になっているのは、ここに来る前に何かがあって、そうなってしまったのだろうか...。

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