1章 『異常者クラス』
私、殺裂 藍璃桜と双子の兄である殺裂 要は『異常者クラス』への編入手続きを終え、早速教室へ向かっていた。
「先生、変わった人だったな。」
「うん。」
「まさか、朝のホームルームの時まで顔を見せないようにしているからって、真っ黒の服に布面って...」
✻ ✻ ✻
「貴方達は...殺裂 藍璃桜さんと殺裂 要君ね。
私の名前は天塚 直央。よろしくね。」
「よろしくお願いします。
... ...えっと...天塚先生。」
「あら、何かしら?」
「その姿は一体なんですか...?」
黒いローブを着て、顔には目元を覆う布面を付けていた。
「あぁこれね。
全員来た時に教室入ったら素顔見せようかなって思っちゃって張り切って作ったのよ!」
作った...?布面を?服を?
「それで、俺たちの顔は見えるんですか?」
「見えているように見えるかしら?」
「いえ...」
「顔は見えなくとも、あらかじめ名前と顔写真は把握してるから分かるわよ。」
「それって、俺たちが双子だから分かっただけじゃ...」
「えぇその通りよ。
だから、貴方達より先に来ている子は見事全員外れたわ。」
外れたんですか...。
「これで、後来てない子は二人だけね。」
「後二人って事は、他のクラスメイトは結構早めに来たんだな。」
「そうだね。早めに来たつもりだったんだけど...。」
「まぁ、異常者クラスの人数は貴方達含めて十二人だけっていうのもあるわね。」
私達含めて十二人...。
異常者だけを集めたクラスだからあまりいないと思っていたけど、予想より少し多いかな。
「そろそろ、教室に行ってみたらどうかしら。
他のクラスメイト達が貴方達を待ってるわよ。」
「そうしてみます。」
結局、天塚先生の素顔は見れないまま教室へ向かうことになった。
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「インチキな占いとかしていそうな危ない人に見えた。」
「言いたいことは分かるけど、それ先生には絶対言うなよ。」
「うん。言わない。」
私達の担任の先生を見た感想を言いあっていたら、早速『異常者クラス』である教室の前へ来た。
私と要兄は教室のドアの前に立つ。
これからこのクラスで過ごしていく中で、何を知り、
一体、どんな事が待ち受けているのだろうか。
ゆっくり深呼吸をし、目の前にある教室のドアを開ける。
「失礼しま...」
扉を開けた瞬間、要兄は目の前に繰り広げられていた光景に驚いたことで、セリフが途切れてしまった。
✻ ✻ ✻
ドアを開けた瞬間、目の前に広がっていた光景...
──教室の真ん中で首を吊った女の子
そのまわりには私達より先に来ていたクラスメイトがいた。
✻ ✻ ✻
あまりにも唐突の出来事で私は何も言えなかったが、要兄はこの異様な光景に思わずつっこむ。
「何これ、自殺現場?それとも自殺現場に見せかけた殺人現場?」
「ううん違うよ。」
多分これから共に過ごすクラスメイトである子のうちの一人がそう言った。
「自殺未遂。」
「自殺未遂?」
首を吊っている女の子を見る。
「死んでるように見えるけど。」
「ううん。死んでないよ。」
首を吊っている女の子の顔をよく見てみると、その子は平然としていた。
首を吊っているのに苦しくなさそう。
「真顔...」
「そう。真顔で首を吊ったままでいるから、びっくりするよね。」
もう春になったとはいえ、未だにマフラーをしている男の子が苦笑する。寒がりなのかな?
「普通は首を吊ったら苦しんで死ぬよな。」
「そうだね。
だからこの姿を目撃された彼女は異常者と呼ばれて、このクラスに招かれたそうだよ。」
「首吊り現場見られました〜。」
はぁ...なるほど。
私達が思っていたより、このクラスに招かれた人達はかなり異常みたいだ。
「...思っていたより、このクラスに招かれた奴らはかなり異常なんだな。」
私が思っていたことをほぼそのまま言ったなと思っていた時、要兄は呆れ?が混ざった顔をした。
「あ。」
「どうした首吊り少女?」
「此処にいる皆の名前、まだ聞いてない。」
「あ、忘れてた!」
忘れていたんだ...。
というか、まだ自己紹介しあっていなかったんだ...。
「いや、今はまだ名乗らなくてもいいんじゃないかな。
天塚先生から聞いた時間だと後、数分後にホームルームが始まるみたいだからね。」
マフラーをしている男の子は壁にかけられている時計を見る。
その子が言った通り、天塚先生が言っていた時間になる数分前に針が止まっている。
「そっか。
その時に自己紹介もする筈だもんね〜。」
「じゃあ、その時に聞くことにするよ。」
「お前らの見た目も話し方も個性的だから、名前も個性ありそうだな。」
「あ、それ言えてる!」
すごいな...。会ったばかりなのに、もう仲良くなってる。
異常者って聞いてたから、意見が合わないとか一人で突っ走っていたりしてる人がいるかと思っていた。
やっぱり、偏見はよくない。
「ねぇ、そろそろ首の縄を解いて下りなよ〜!」
未だに首を吊ったままの女の子を皆が見る。
その子は両手で縄を外そうとしていた。
「うん。そうしたいんだけど...」
「もしかして、縄が解けないのかな?」
「そうなの。結構きつめに縛ったからかな〜。」
「何かで切って今すぐ下に下ろしたいけど、結構、太い縄だから僕が持っているカッター使ってもすぐに切れなそうだな。」
私も今は刃物持っていないし、他のクラスメイトもどうしようか考えていた。
その時だった───
教室のドアが開かれ、額と首に傷跡、右目の下に小さなハートマークを付けた男の子が入ってきた。
「ふう...危なかった。
もう少しで登校初日が遅刻になるところだったよ。」
今入ってきた彼も『異常者クラス』に招かれたうちの一人だろう。
急に悪いけど、早速話しかける。
彼が入ってきた扉から一番近いのは私だし...。
「ねぇ。」
「あ、初めまして。」
「うん初めまして。
...唐突だけど、カッター以外の刃物持ってる?」
「本当に唐突だね。
サバイバルナイフだけならあるよ。」
彼は鞄から本物のサバイバルナイフを取り出した。
...銃刀法違反してるけど、この際は仕方ない。
首吊りしてる女の子の縄を切るために持っているという正当な理由がある...ということにしよう。
「何故持っているのか疑問だけど、彼女の首の縄を切ってもらっていいかな?」
「首を吊っている且つ生きてることにすごく疑問と驚きがあるけど、了解。」
そう言うと彼は椅子に乗り、縄を切った。
そしてマフラーをしている男の子が首を吊っていた女の子を抱きかかえてゆっくり下ろす。
「二人ともありがとう。」
「どういたしまして。」
首を吊っていた女の子は微笑しているが、首に縄の跡が濃く残っているため何とも言えない。
「登校初日に首を吊っていたのは驚いたけど、まぁ生きてるからいいのかな?
いや、首を吊っているのはよくないけどね。」
そうだ。
考えてみたら、登校初日に首吊りなんてするかな...?
「あれね、ただの首吊りじゃないよ?
首を吊っていたら案外すぐに眠れるの〜。」
「え?じゃあ、首を吊ってたのは...」
「朝早く来ちゃったから、首を吊って眠っていただけだよ。
まぁ、皆の声が聞こえてすぐに目が覚めちゃったけど。」
えっと、彼女はとても個性が強いみたいだね...?
まわりの皆は呆れているのか、何とも言いがたそうだった。
「どのくらい早くに来ていたの?」
「えっと...朝の五時かな...?」
「はーい。皆、ホームルームの時間になってるわよ!早く席に座りなさい。」
勢いよく開かれたドアから先生が入ってきた。
「あ、直央先生!」
「布面を外して、黒い服は脱いでるけど...
今度は何故白衣を着ているのですか?」
「先生は白衣を着たかっただけよ。深い意味はないわ。」
ただ着たかっただけなんだ...。まぁ、似合ってるとは思うけど...。
「はいはい。いいから皆早く座りなさい!」
「はーい。」
私達は自分の席に座って、ホームルームが始まった。