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1ー9 : 最強の悪魔



  ◇◆◇




「……いいぞ、もっと言ってやれジョーゲ!」


 魔法カードを目隠しや、バリアに使う機転に、素早い逃げ足!


 窮地に追い込まれた勇者に、最弱のプリンセスは、ほがらかに笑った。



「どあはは! 正義さんよ、たっぷり味わえ! これが、悪魔の力だぁ!」



 右パンチ!

 左パンチ!

 頭突き!



「サーユはド強いぜ! 支援魔法しか使えなくても、世界中の誰よりも勇気を持ってる!」


 目からビーム!



「悪魔と友達になる勇気すら持たないお前が! 笑ってバカに出来るような、そんなヤツじゃあねぇ!」


 角からビーム!



「さぁどうした? ほら来いよ、正義の味方ぁ!」


 口からビーム!


 ドラゴンの体の傷は、すでに全快していた。



「キサマ! キサマッ……!?」


 あまりの展開の早さに、連続攻撃をモロに喰らってしまった勇者だったが、われにかえって、瞬間、テレポート魔法でビームの弾幕を脱出!

 回復魔法を自分にかけて、体力を回復!


 さらに飛び上がって竜に連続で斬撃を放つ。


「この悪魔! さっきまで瀕死だったはずなのに! さっさと死ね! この! この!」


 勇者が神聖剣に光を集めて、竜の身体をたたきながら叫ぶ!



「悪魔、悪魔とさっきからうるせー!」



 ドラゴンは、勇者を殴った。

 えぐるような一撃だった。



「勇者は大ピンチのプリンセスを助けに来なかった!」


「なら、悪魔が、勇者の手からプリンセスを助けて、何が悪い!」



「正義を盲信して、オレの友達を苦しめた勇者なんかに! オレは負けない!」



 ドラゴンが、勇者の腹の上から肝臓を殴りつける!



「ウォォォォォォォォ!」


「ガァァァァァァァァ!」



 燃え盛る城の上空で。


 激しく戦う二つの影を見つめながら、プリンセスは、つぶやいた。



 悪魔は正義の味方じゃない。

 そんなのわかりきってる、


 でも、その肝心の正義が、ウソ、ごまかし、まやかしだった。 


 なら、悪魔とは、一体なんだろう。


 血を流して、高笑いして、正義と、戦い続ける悪魔はとはなんだろう。


 友達のために戦って、苦しんで、それでも前を向いて進む悪魔とは、私にとってなんだろう。


 ふいに、プリンセスの口が動いた。


「……がんばれ悪魔! 負けるな悪魔! 踏ん張れ悪魔!」


「おぅ!」


 サタンは、気軽な返事をした。



 そのスキをついて、勇者から放たれた炎、水、雷、氷、草、土の魔法が、プリンセスに向かって降り注ぐ!


 ドラゴンは、「プリンセスに向けられた」全ての魔法の軌道を、そらし、はじき、対消滅させて、防御した。



「ぐ! 自分に一発もらっちまった!」


 すぐさま、ドラゴン反撃!


 口から吐き出されたビームが、魔法を飲み込んで勇者に迫る!


「このサタン! 後ろを守りながら、勇者である私を――押してるッ!?」


「当たり前だ! 神より強いから、おれたちはサタン名乗ってるんだ!」



 サタンに関する噂は何一つ真実ではなかった。彼らは乞食でも盗賊でも邪教を信じる恐ろしい悪魔でもない。それどころか面白おかしくて、ユーモアも分かる存在だった。



 邪神に悪魔、堕天使、魔人、魔物に妖精、怪物、悪霊ですら心はある。


 それなら、仲良くすれば友達だ。



 誰か知らない人が勝手に決めたことなんかに……、


 自分の心、決められてたまるか!





 正義が、ウソ、ごまかし、まやかしなら!


 私たちはみんな! 誰でもみんな、悪魔だ!



 そうだ、悪魔は、みんなのヒーローじゃない。




 悪魔は、「私の」、




「私だけの」ヒーローなんだ!





 私だけのために、「みんな」と、戦ってくれるヒーローなんだ!



 だから、プリンセスは、腹の底に力をこめて、声の限り叫んだ。







「悪魔いけ――――――――――――――――――っ!


 正義を倒せ――――――――――――――――――っ!」



 ……正義を倒して、私を救って!





 少女にとって、サタン《悪魔》は、もはや、敵ではなかった。




「まかせろ!!」



 悪魔は、勇者に噛み付いた!


「ぐっぐぁぁぁ!」


 悪魔の一撃が、身にまとった神聖な装備を貫いて、勇者の体から血が噴き出す!


「この!」


 キバから逃れようと、双剣が振るわれた。


 パキン!



 攻撃を防いだ竜殺しの聖剣が折れた!


 ポキン!


 反撃に使った対悪魔用の神聖剣がひしゃげた!



「んなもん効くかぁ――――――ッ!」



 悪魔サタンは……、なんと不思議な生き物だろうか。


 視点を変えれば、言葉も姿も、すべてが変わる!

 西洋では大悪魔のドラゴンも、東洋では神そのものだ!


 神には、竜殺しも、悪魔破りも効かない!




「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 噛み付かれたまま激しく揺さぶられ、腹部からの大量出血!

 勇者の顔が痛みでゆがんだ。




「お、おい、勇者様、悪魔にやられてないか?」


 遠めに闘いの一部始終を見ていた王族や貴族、騎兵、近衛兵たちがざわめきだす。


「勇者が負けたら、王都は終わりだぞ!」


「もうダメだぁ!」


「こうしちゃおれん! 逃げろ!」

「みんな逃げろ!」



「ま、待て! 私を置いて逃げるな!」


 勇者は、血を吐きながら手を伸ばしたが、騎乗していたペガサスまで背を向けて飛んで行ってしまった。




 ドラゴンは、危険な自分のすぐ隣で、それでも自分を応援しているプリンセスを見て、つぶやいた。


「みんなのヒーローは、みんなからド離れすぎちまったみてーだな、」



 勇者の震える手が、折れた剣にすがる。




「それでも! 正義は勝――!」



 瞬間、悪魔の爪が勇者の身体を切り裂いた。


 どさりと、地面に堕ちた勇者の上半身がいまわのきわで、つぶやいた。


「ば、バカな……光の勇者、正義の使者が闇の悪魔、ドラゴンに敗北するなど……」



「これはダチの受け売りなんだけどよ、相手の心をさかさまに見ること、それが悪魔サタンなんだってさ」



 しかし、勇者と悪魔、二人は名刺を交換していなかった。

 だから、最期の言葉の意味は、お互い、通じなかった。


 最期まで、正義は、悪と向き合うことがなかった。


 悪役 vs ヒーローの勝敗は、必殺技も使わない、あっけない幕切れだった。



「友達になれば、悪魔は「簡単に」倒せたのに……」


 

 名刺を斬り捨てさえしなければ、死ぬことまではなかったと、プリンセスは、さびしそうにつぶやいた。



 あのとき、破れた一枚のカードは、未来への可能性だったのだ。



 

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