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1ー8 : プリンセスをかばう悪魔



  ◇◆◇




 ふと肩に触れる、やさしい感触があった。


 プリンセスが恐る恐る目を開くと、ドラゴンの顔がすぐ目の前にあった。ふっと熱い息が顔にかかった。


 プリンセスは悲声を上げた。


「ドラゴンさん! 血が!」



 すきっぱらで、力が入らない状態の時にクリティカルヒットした魔法は、竜の体を大きく抉り取り、おびただしい量の血を流させていた。

 肩の骨と肋骨が半分も見えている……




「……これで借りは返したぞ! プリンセス!」



 攻撃をかばおうとして逆に、かばわれてしまったのだ。


「そんなこと! 借りなんて、友達じゃないか!」



「そうか、オレたち、友達か……」


 プリンセスは泣いた。

 邪竜は吼えた。


 急いでいたので、ふたりはまだ、カードを交換していなかった。


 魔法を使わなくても、友達は出来る!

 そんな当たり前のことが、プリンセスは、とても悲しかった。



「うぐっ! うぐぐぐ!」


 瞬間、血まみれのドラゴンの全身が光った。

 そして、巨大な赤い体が、縮んで、9歳のプリンセスよりも、頭ひとつ分小さい――ピンクの小竜へと変化した。



 変身が解けてしまった!



「ちくしょー、変身を維持できねぇ……」


「……? そうか! 弱点は後ろのプリンセスだ!」


 勇者の顔がが、剣をぺろりと舐める。


 さらに、城の南から、ペガサスに乗った兵士たちが続々やってきた!


 その数、100!



「勇者様! 対・悪魔用の神聖剣を持ってまいりました!」


「こちらには、竜殺しの聖剣もございます!」


「よく来てくれた! あの悪魔の弱点は第9皇女だ! 徹底的に狙え! あいつはもはや、プリンセスではない!」



「御意ッ! 我ら王都守備隊! 王都を荒らす悪魔を狩るため、助太刀いたします!」



 ジョーゲはその場にうずくまる。


「うぅ~おなかが空いて力が出ねぇ~」



「……卑怯!」



「ほざけ! 悪魔が! 全員でいっせいにかかれ!」


 正義は言葉に耳を貸さず、悪魔に向かって剣を振りかぶった!



「ぐぁぁぁぁ!」


 対悪魔用の神聖剣がドラゴンに突き刺さる!

 竜殺しの聖剣がドラゴンの肉をえぐる!


 子ドラゴンが袋叩きにされている!



「なんだこの悪魔、後ろ守ってやがるぞ!」

「生意気なヤツだ! もっとたたいてやれ!」

「殺せ! 悪魔を殺せ!」




 チクショウ! よくも私の友達を!


 顔は無表情だったがプリンセスは怒りで目の前が真っ赤になった。




「……ジョーゲ! 今助ける!」


 プリンセスは、痛む胸を抱え、袋叩きの現場に背を向け駆け出した!

 その姿は、みるみるうちに、小さくなっていく!

 逃げ足は世界で一番・素早い!




「バカめ! お前みたいな小さく、弱く、力もなく、惨めで矮小なプリンセスが勇者を倒せるものか! 悪魔よ。見ろ! お前の友達は背を向けてみじめに逃げていくぞ!」


 勇者は、力なき者を笑った。

 だが、悪魔は違った。



「たのむ! プリンセス!」


「ムダだ! これで終わりだ!」



 剣が竜の頭上の大上段に振り上げられた、まさにその瞬間!




 ぽーん!



 奇妙な音が鳴って、勇者の目の前にカードが出てきた。

 不思議なことにカードは、スケートボードくらいに大きくなったり、トランプほどに小さくなったりを、繰り返している!



 No.002

 ーーーーーーーーーーーーーー

  サーナ / エキドナ /

 ーーーーーーーーーーーーーー

 人族女 / 中級 勇者Ⅴ / 光 属性 /


 戦闘力 55万 / 魔法力 57万 / 

 ーーーーーーーーーーーーーー


 身長:170 cm / 体重:78 kg



 人界の女勇者、万能魔法の使い手であるサーナは、エキドナ国の経済産業・政務官でもあるのだ!


 悪魔のウワサ……ダイエットに、また失敗したらしいヨ!!


 ーーーーーーーーーーーーーー




「ぐ! なんだこれは!」



 勇者の剣が! カードを叩き割る!


 が、体力をカードに吸われて、片足を地面についてしまった!



 そのすきをついて、巨大なパンが、子ドラゴンに向かってポーンと放られた!




「……ジョーゲ! オヤツの時間!」


 水族館のアシカが魚を空中でキャッチするように子ドラゴンは、パンを口で受け取った。


 ごくんと竜ののどが、鳴った。


「……ナイスコントロール私!」


 勇者が振り返ると、現場に戻ってきたプリンセスが手をたたいるのが見えた。



 そうだ、逃げ足が世界で一番・素早いなら、ピンチに駆けつけてくれるときも世界で一番・素早い。

 支援魔法の使い手は、なんて頼りになるやつなんだ。



「へへへへへ……!」


 悪魔は力がみなぎって笑い出した。


 

「こ! この!」

 勇者は、ドラゴンに向けて剣を振り下ろした。


「小麦うめぇ――っ!」


 腹が膨れて、力が湧いた竜は、吼えた。


 カキン!


 「竜殺しの剣」が、はじかれた!





「ォォォォォ! ――変身ッ!」


 ドラゴンは、きゅっと目をつぶると真っ赤な大粒の涙が目からこぼれた。

 胸にこぼれた涙は、胸から生える2枚の赤い翼となって両肩に広がり、翼は全身を前から抱きしめるように包み、



 発火!


 轟音を立てて竜の全身が燃える!


 同時に、炎の色が、赤からオレンジ、黄色、緑、青、紫へと変わるごとにふくらみ、最後に一番大きな黄金の光が、全方位にはじけた。


 ギャンッ!




 と、ドラゴンの体が、瞬間まばゆく光を放ち。

 そして、まるっこく幼く可愛らしいピンクの姿が、見る見るうちに紅く、筋肉質なものへと変わり、腕も足も伸びて恐ろしい姿があらわになる!



 見上げるような高さ。


 真っ赤に変化した体色と、鋭くとがったたてがみと長い角!




 サタン。


 まさに悪魔の竜だった。



「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 深紅の悪魔竜は、炎のように吼えた。

 星まで届き、太陽震わす大声だった。


「サンキュー! プリンセスぅ!」


「……もうサーユって呼び捨てでいい! ジョーゲ!」


 ようやく、悪魔のことが少しわかってきた姫君は「笑顔で」叫んだ!


「わかった! じゃあ行くぜ、サーユ!」


お互いに呼び捨てになったドラゴンと姫君は、ハンドサインで、通じ合った。



 パーンッ!


「え?」


 次の瞬間、ドラゴンは、雷のようなダッシュスピードで、王都守備隊へと踊りかかり、尻尾の一撃で、全員をなぎ倒した。


 そして竜はそのまま飛び上がって、上空からビームを吐きまくる!

 大地を引き裂く風が走りぬけ、大きく無数の筋を残した。

 左右の爪が代わる代わる縦横無尽に振るわれて、ザコを一掃!


 またたくまに、勇者と悪魔の一騎打ち!


「ぐっ!」



 ついに、竜の鋭い牙と爪が、勇者の身体を捉えた。


 形勢逆転!




「どうだ! これがド小さく、ド弱く、ド力もなく、ド惨めで矮小な、支援魔法しか使えないプリンセスの力だぞ!」





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