1ー8 : プリンセスをかばう悪魔
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ふと肩に触れる、やさしい感触があった。
プリンセスが恐る恐る目を開くと、ドラゴンの顔がすぐ目の前にあった。ふっと熱い息が顔にかかった。
プリンセスは悲声を上げた。
「ドラゴンさん! 血が!」
すきっぱらで、力が入らない状態の時にクリティカルヒットした魔法は、竜の体を大きく抉り取り、おびただしい量の血を流させていた。
肩の骨と肋骨が半分も見えている……
「……これで借りは返したぞ! プリンセス!」
攻撃をかばおうとして逆に、かばわれてしまったのだ。
「そんなこと! 借りなんて、友達じゃないか!」
「そうか、オレたち、友達か……」
プリンセスは泣いた。
邪竜は吼えた。
急いでいたので、ふたりはまだ、カードを交換していなかった。
魔法を使わなくても、友達は出来る!
そんな当たり前のことが、プリンセスは、とても悲しかった。
「うぐっ! うぐぐぐ!」
瞬間、血まみれのドラゴンの全身が光った。
そして、巨大な赤い体が、縮んで、9歳のプリンセスよりも、頭ひとつ分小さい――ピンクの小竜へと変化した。
変身が解けてしまった!
「ちくしょー、変身を維持できねぇ……」
「……? そうか! 弱点は後ろのプリンセスだ!」
勇者の顔がが、剣をぺろりと舐める。
さらに、城の南から、ペガサスに乗った兵士たちが続々やってきた!
その数、100!
「勇者様! 対・悪魔用の神聖剣を持ってまいりました!」
「こちらには、竜殺しの聖剣もございます!」
「よく来てくれた! あの悪魔の弱点は第9皇女だ! 徹底的に狙え! あいつはもはや、プリンセスではない!」
「御意ッ! 我ら王都守備隊! 王都を荒らす悪魔を狩るため、助太刀いたします!」
ジョーゲはその場にうずくまる。
「うぅ~おなかが空いて力が出ねぇ~」
「……卑怯!」
「ほざけ! 悪魔が! 全員でいっせいにかかれ!」
正義は言葉に耳を貸さず、悪魔に向かって剣を振りかぶった!
「ぐぁぁぁぁ!」
対悪魔用の神聖剣がドラゴンに突き刺さる!
竜殺しの聖剣がドラゴンの肉をえぐる!
子ドラゴンが袋叩きにされている!
「なんだこの悪魔、後ろ守ってやがるぞ!」
「生意気なヤツだ! もっとたたいてやれ!」
「殺せ! 悪魔を殺せ!」
チクショウ! よくも私の友達を!
顔は無表情だったがプリンセスは怒りで目の前が真っ赤になった。
「……ジョーゲ! 今助ける!」
プリンセスは、痛む胸を抱え、袋叩きの現場に背を向け駆け出した!
その姿は、みるみるうちに、小さくなっていく!
逃げ足は世界で一番・素早い!
「バカめ! お前みたいな小さく、弱く、力もなく、惨めで矮小なプリンセスが勇者を倒せるものか! 悪魔よ。見ろ! お前の友達は背を向けてみじめに逃げていくぞ!」
勇者は、力なき者を笑った。
だが、悪魔は違った。
「たのむ! プリンセス!」
「ムダだ! これで終わりだ!」
剣が竜の頭上の大上段に振り上げられた、まさにその瞬間!
ぽーん!
奇妙な音が鳴って、勇者の目の前にカードが出てきた。
不思議なことにカードは、スケートボードくらいに大きくなったり、トランプほどに小さくなったりを、繰り返している!
No.002
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サーナ / エキドナ /
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人族女 / 中級 勇者Ⅴ / 光 属性 /
戦闘力 55万 / 魔法力 57万 /
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身長:170 cm / 体重:78 kg
人界の女勇者、万能魔法の使い手であるサーナは、エキドナ国の経済産業・政務官でもあるのだ!
悪魔のウワサ……ダイエットに、また失敗したらしいヨ!!
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「ぐ! なんだこれは!」
勇者の剣が! カードを叩き割る!
が、体力をカードに吸われて、片足を地面についてしまった!
そのすきをついて、巨大なパンが、子ドラゴンに向かってポーンと放られた!
「……ジョーゲ! オヤツの時間!」
水族館のアシカが魚を空中でキャッチするように子ドラゴンは、パンを口で受け取った。
ごくんと竜ののどが、鳴った。
「……ナイスコントロール私!」
勇者が振り返ると、現場に戻ってきたプリンセスが手をたたいるのが見えた。
そうだ、逃げ足が世界で一番・素早いなら、ピンチに駆けつけてくれるときも世界で一番・素早い。
支援魔法の使い手は、なんて頼りになるやつなんだ。
「へへへへへ……!」
悪魔は力がみなぎって笑い出した。
「こ! この!」
勇者は、ドラゴンに向けて剣を振り下ろした。
「小麦うめぇ――っ!」
腹が膨れて、力が湧いた竜は、吼えた。
カキン!
「竜殺しの剣」が、はじかれた!
「ォォォォォ! ――変身ッ!」
ドラゴンは、きゅっと目をつぶると真っ赤な大粒の涙が目からこぼれた。
胸にこぼれた涙は、胸から生える2枚の赤い翼となって両肩に広がり、翼は全身を前から抱きしめるように包み、
発火!
轟音を立てて竜の全身が燃える!
同時に、炎の色が、赤からオレンジ、黄色、緑、青、紫へと変わるごとにふくらみ、最後に一番大きな黄金の光が、全方位にはじけた。
ギャンッ!
と、ドラゴンの体が、瞬間まばゆく光を放ち。
そして、まるっこく幼く可愛らしいピンクの姿が、見る見るうちに紅く、筋肉質なものへと変わり、腕も足も伸びて恐ろしい姿があらわになる!
見上げるような高さ。
真っ赤に変化した体色と、鋭くとがったたてがみと長い角!
サタン。
まさに悪魔の竜だった。
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
深紅の悪魔竜は、炎のように吼えた。
星まで届き、太陽震わす大声だった。
「サンキュー! プリンセスぅ!」
「……もうサーユって呼び捨てでいい! ジョーゲ!」
ようやく、悪魔のことが少しわかってきた姫君は「笑顔で」叫んだ!
「わかった! じゃあ行くぜ、サーユ!」
お互いに呼び捨てになったドラゴンと姫君は、ハンドサインで、通じ合った。
パーンッ!
「え?」
次の瞬間、ドラゴンは、雷のようなダッシュスピードで、王都守備隊へと踊りかかり、尻尾の一撃で、全員をなぎ倒した。
そして竜はそのまま飛び上がって、上空からビームを吐きまくる!
大地を引き裂く風が走りぬけ、大きく無数の筋を残した。
左右の爪が代わる代わる縦横無尽に振るわれて、ザコを一掃!
またたくまに、勇者と悪魔の一騎打ち!
「ぐっ!」
ついに、竜の鋭い牙と爪が、勇者の身体を捉えた。
形勢逆転!
「どうだ! これがド小さく、ド弱く、ド力もなく、ド惨めで矮小な、支援魔法しか使えないプリンセスの力だぞ!」