1ー5: 未来の可能性
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「ッ!」
はいつくばったプリンセスの腕から手錠が抜け、乾いた金属音をたて地面に転がった。
「……はぁ、はぁ、後は魔法を使うだけ……」
と、その瞬間、びしゃっと、プリンセスの頭に透明な液体がかかった。
「……?」
頭にかかった透明な液体は……、よだれだった。
「……あっ。」
姫君が顔を上げると、ドラゴンが目の前にいた。
「ンガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
竜は、炎のように吼えた。
星まで届き、太陽震わす大声だった。
筋肉質な腕と足。
見上げるような高さの背。
2足歩行の長い胴体。
真っ赤の体色と、鋭くとがったたてがみに黒い角!
全身は中国の瑞兆である竜そのものだった。
が、その長い角と尻尾の先はふくらんでおり、悪魔のシンボルであるスペードの記号をしっかりと形つくっている。
悪魔だ。
悪魔のドラゴンだ。
その姿、まさしく、敵!
はっと、姫君は我に返った。
「……落ち着け、冷静になれ、あせるな私、行動の最適解をとれ、演繹的に考えろ、
――手が使えない今は、口で!
乙女は、唇を突き出して、その先を静かに自らへと向ける。
そして、静かに呪文を唱える!
「……なんだ? 疑問だ! あいまいだ!」
「そうだ! みたいだ! 本当かな?」
「涙! 悩みだ! 大問題!」
「答えてちょーだい、ダイモーン!」
――ステータスッ! オープン!
ぽーん!
呪文が終わるなり奇妙な音が鳴って、姫君の目の前にカードが出てきた。
「ドお?」
ドラゴンの身体が揺れて、床に片足が触れた。
体力の大半が小さなカードに吸い込まれ、瞬間、カードは山ほどの大きさになり、そしてまた、トランプほどの大きさまでに縮んだ。
カードの裏側には、吸い込まれそうな深い闇に潜む何者かの影と、鏡のように光る両目が描かれており……
表側は、金色にキラキラと光り輝いていた!
No.001
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ジョーゲ / タイフーン /
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龍族男 / 超級 サタンⅩ / 全 属性 /
戦闘力 99億 / 魔法力 99億 /
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身長:290 cm / 体重:399 kg
魔界最強のドラゴン、ジョーゲは、すべての敵をねじふせるオールマイティの切り札なのだ!!
悪魔界のウワサ……あと2~3回、パワーアップ変身するらしいヨ!!
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「な、何この、デタラメなステータス……」
姫君は、表示された内容を見て、一瞬気を失いかけた。
最初の仲間は、戦闘力100程度の、ウサギとか、ネコの魔物を想定していた。
ところがいきなり、上位・悪魔、それもラスボス発見。
……こんな滅茶苦茶なやつと、どうやって友達になれというのだ。
「んんん? なんだこの魔法? 妙にド疲れるなぁ?」
ドラゴンは、目をぱちぱちさせて口を開き、そう「言った」。
金色のカードは、竜の肩で、あくびをしていた。
「……!」
姫君は目を開いた。
やはり、悪魔と話は、出来る!
い、いや、今はそんな確認作業より、先に進むのみ! もう後がない。ここで引いたら、死だ!
正義がまやかしの、この世界で!
プリンセスの唯一の救いは、悪魔だった。
恐る恐る悪魔の名前を呼んでみる。
「……ジョーゲ君?」
「うわ! なんだ! 人間がオレのド名前呼んできたぞ!?」
ドラゴンの一人称は、小学生男子がよく使うそれと同じで、"オレ" の発音が "雨" のそれと一緒だった。
それを聞いて、少女の心に少しだけ、恐れが消えた。
「……ジョーゲ君……私とお話しを――、」
姫君が悪魔に呼びかけた直後、
ッドォ――――――――――――――――ン!
龍の肩の上で大爆発が起こった。
「なんだドなんだ?」
ドラゴンがきょろきょろ辺りを見ると、そびえたつ城壁の上に緑色の光が見えた。
プリンセスは叫んだ。
「……王都防衛隊の攻撃!」
遠見の魔法で、八つ裂きショーを楽しんでいたやつがいる!
だが彼らはドラゴン族という思わぬ上位・悪魔の出現で、エンターテイメントよりも、防衛を優先したのだ。
ドン!
ドンッ!
ッドォ――――――――――――――――ン!
第二波、三波が、姫君と竜のすぐそばに、着弾する!
連続攻撃はつまり、この悪魔が文字通り、優先して倒さなければならない「敵」であることを意味していた。
「……!」
「なにー! お話してるド最中に攻撃とは! ドひきょーだぞ!」
赤い中華の竜は、ふわりと翼もないのに浮かび上がった。
あわてて、プリンセスは引き止めた。まだ、悪魔と仲良くなっていないのだ、このままでは魔法弾に巻き込まれて確実に死ぬ!
「……待って」
話が出来れば友達になれる、が、降り注ぐ魔法の砲弾を前に、計画はそう簡単には上手くいかなかった。
「ん? そういやお前、良い匂いするなぁ……」
その瞬間、シュッ! と長いしっぽが伸びてきて、お姫様の身体にぐるぐる巻きついた!
「……! なんかわからんけど腹減ったし、人間たちとド戦争する前にオヤツ、食っとくかー!」
言葉は通じる、
しかし、価値観が通じなかった!
だめだ! これでは取引など出来ない!
パクリと食べようと、ドラゴンは口を開けて、お姫様を巻きつけた尻尾を持ち上げて顔の前に運んだ。
首の骨がミシミシ音を立ててきしんだ。
「……ぁっ!」
プリンセスの顔が痛みにゆがんだ。
悪魔はやはり敵のままなのか!?
背骨が、嫌な音を立てて、曲がった。
「……ーーっ!」
次回、大ピンチからの華麗な逆転!