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1 : ドラゴンと姫君

はじめましてです、よろしくです



  ◇◆◇





 ァボンッ!

 と、音を立てて、お城の屋根に、極大の爆発が起こった。



「……」




 プリンセスは、真っ白のお城が、真っ赤な炎に包まれ崩れていくのを静かに、見上げていた。


 その顔は能面のようにクールで無表情であった。


「……私、今まで知らなかった。」



 乙女は隣にいるドラゴンに、静かに告白する。




「……悪いことって、楽しい!」

 



 その言葉を聞いて、真っ赤な色のドラゴンは明るく笑った。



「どあははははははっ! よく言ったプリンセス! そら燃えろ燃えろぉ!」



 ドラゴンが、口から金色の熱戦をビビッと吐く!


 ポンポンポンポンッ!


 「正義」の名を冠されたギリシャのお城、そしてそのとなりに建っている白い壁の食糧庫が余熱で炎上!



 エーゲ海の暑い潮風とともに、中にたっぷり蓄えられていたパンが爆発して、空からパンの雨が降ってくる。



「ありがとうございます! ありがとうございます!」


「もう一週間も何も食べてなくて」


「まさかドラゴンに、メシをおごられることになるなんて……」



 近くに居た枯れ枝のような体の町民たちは、正義から解放されて、口いっぱいに甘いパンをほおばっていた。


みんな、満面の笑顔だ。



国の定めた、食料制限は、正しいこととされていたが、苦しかった。



だから、 窮屈な「正しい」は、もういらない!



「ルール守って正しく清く生きるのは、疲れるぜ!」


「……悪なら、心のままに、自由に生きられる!」




「へへへへ!」

「……くすくすくす」



 ドラゴンと姫君は、大火事の炎に照らされて、邪悪に笑いあっていたが、


 その瞬間!






 ッドォ――――――ン!


 崩壊する城の壁を突き破り、轟音と神聖な鎧をまとった女が、パン屑と共に飛び出してくる!



「貴様ァァァ! 兵士のための貴重な食料をよくも! 絶対に許さんぞぉぉぉぉぉぉぉ!」



 背中には光輝く翼が映えて、頭の上には光のリングが浮いている!

 豪速で落下しながらこちらに向かって突っ込んでくる女!

 その顔は!



「……勇者サマ? 魔物戦争の最前線に行っていたはずでは!?」


「テレポートだ! セーブポイントに戻って来やがった! 上級魔法つかえるぞアイツ!」



「ルールを破り、魔物からパンを受け取ったものは全員、有罪だ! ドラゴンと一緒に叩き斬ってやる!」



「うわーっ!」


「逃げろ、殺されるぞ!」



 やせ細った町人たちが、慌ててクモの子を散らすように逃げていく。

 ドラゴンが、プリンセスの前に出る!


 

「おいお前、せっかくのパンが埃でド汚れるじゃないか!」


「……食べ物、大事。」




「うるさい! 攻撃魔法を覚えられない出来損ないが!」



 キンッ!


「おっと、」


 落下と同時に突き出された剣先を、ドラゴンは片手を天に上げ、爪先で受け止めた。


 ビビビビビッ!


 バチバチと、アーク溶接のようにツメと剣の切っ先から火花が飛び散る。


 20代の女性とは思えぬ豪腕!



「邪悪なドラゴンめ! 後ろに居るプリンセス、そして非国民もろとも、正義の剣で、叩き斬ってやる!」


 勇者が裂迫の激昂、つばぜり合いの剣に力を込める!

 剣に魔法の光が集まる!


 必殺技の準備モーションだ!

 300発の魔法弾を放ち、直後に剣で相手をめった打ちにする、凶悪スキル!




「シィハァ――――――――ッ!」



 後ろに向かって放たれた大量の準備・魔法弾を、尻尾を振ってポンポンはじき落とす邪竜!


 ダムン!


 プリンセスのまさにすぐ足元に、光球が炸裂した!



「……くすくすくす……? あれ、もしかして私、今、命のピンチ?」


「気づくのド遅せーよ反逆のプリンセスぅ!」


 ドラゴンが、剣と爪でつばぜり合いをしながら、ツッコミ入れる。

 さらに、光り輝く勇者の後ろに人影が、3人も現れた!

 全員、血色がよく、筋肉質でお綺麗な鎧を身にまとっている!



「……あぁまずい、勇者の仲間たちも、テレポートしてきた!」


「ど何い!?」



 「正義の味方」たちが叫ぶ。


「勇者さま! 邪竜が全力出せない今がチャンスだ! 行っけ――――ッ! 全員殺せ! 滅ぼせ!」



「破ァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ! 滅びよ! 鬼! 悪魔! サタン!」


 カッとまばゆい光が走り、覚悟!

 とばかりに、少女と竜に向かって、空中から正義の剣が振り下ろされた。




「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っ!」


 プリンセスは、悲鳴を上げた! 


 が!




 ガキンッ!




 しかし、ドラゴンは、勇者の必殺技で全力の一撃を、素手、それも「片手」で受け止めた。


「ば、バカな!」


 顔面蒼白になる勇者!


 その顔をちらりと横目に入れて、ドラゴンは、後ろのプリンセスを振り返った。



「一瞬でも、ピンチだと、思ったか?」



 ――大丈夫だ。お前には、オレがいる。



 プリンセスの目を見て、ドラゴンははっきり、そう言った。



 

お前は、この先、たとえ世界の全てを敵に回しても! 何も怖くない、



 なぜならオレは――、





「サタンだからだ!」






 悪魔【サタン】。

 今となってはもうずいぶん昔の言葉で、" 敵 " を意味する単語である。

 魔物。悪魔。人間。精霊。そして神ですら。

 すべては舌の上で、サタンになった。



 これは、昔々、ドラゴンとプリンセスが沢山いたころ。


 まだ悪魔と神々が区別なく、地球上で人間をブッ殺していた頃のお話である――

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― 新着の感想 ―
[良い点] 展開早ッ! 目まぐるしい場面展開や、多分早口だろう台詞回しが脳内で再生されますなッ!
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