風神の関根
「もう少し堪えろー!ここを抜かれれば我らの故郷が血の海と化すぞ」
守備隊長が必死に魔王軍の侵攻を食い止め奮戦していた。しかし奮戦虚しく徐々に削られていく戦力に粉砕覚悟を決めた。
「よく耐えてくれた、後はワシに任せよ」
聞き覚えのある声に振り向くとバルバロス王が馬上から戦場を見据えていた。
「なりません、バルバロス陛下。我々が食い止めます、どうかお下がり下さい」
「すまぬ、それは聞けぬ相談だ。もう我慢の限界なのだ許せ」
馬から降り守備隊長の肩を軽く叩くとバルバロス王は最前線に立つ。
「おい!総大将の首だ。バルバロスだぞ」
「あれを討てば、勝利だ。今こそ勝機ぞ命を捨てろ!!」
魔王軍の指揮者がバルバロス王に標的を定め一気に雪崩れ込んで来た。
「我が名はバルバロス3世 アポロン。第十二代アポロン国王である!!無知蒙昧の輩め成敗してくれる覚悟せよ」
バルバロス王の名乗りは咆哮に乗り、勢いづいた魔王軍の突撃の足並みを乱す程の衝撃波を放った。
「死にたい者から前に出よ!」
バルバロス王は城門の下に陣取ると、そこから一歩も引かずに、魔王軍を千切っては投げ、千切っては投げ、魔王軍は城門より一歩も中に踏み入る事が出来なかった。
「さあさあ、まだまだまだー!どうしたこの程度でワシに喧嘩を売ったのか?少しは根性を見せてみろ」
バルバロス王は死屍累々を積み上げ、死体の山から魔王軍を見下ろす。
「猫の大将、粋がるなら城から出て来いよ」
魔王アルフォンスがバルバロス王を挑発する。
「.....」
「子猫ちゃーん、おいでおいで。チッチッチ」
最初は無視していたバルバロス王も頭に血が上り。
「そこにいろよ!ぶっ殺してやる」
バルバロス王がアポロンから出ようとした、その時。
「出ては駄目ですよ、バル君」
戦場に一陣の風が吹くと、何処からともなく初老の紳士が現れた。
「セキさん」
バルバロス王と魔王アルフォンスの間に立ち塞がったのは、風神と呼ばれる魔王であった。
「邪魔するなよオッサン!この瞬間にどれだけの犠牲を払ったと思ってんだ。魔王十将軍の古参か何か知らねーが殺すぞ」
「アル坊も冷静になりたまえ、私が率いるオーガの民5000と山田さんが率いる5000。併せて10000の彼等を今相手に出来るのかい?」
風神が指差す方向には、戦闘態勢が万端のオーガの戦士の角が紫色に輝き、風神の戦闘開始の号令を待っていた。
「覚えていろ!この借りは必ず払わせてやる、お前達が庇護するオーガ族にもな」
魔王アルフォンスが負け惜しみで、風神に暴言を吐いた瞬間、空気が変わり風神の近くの風が、強く強く強く吹き荒れる。
「アル坊、思春期のガキでもあるまいし、言って良い事かどうかの判断も出来ねーなら、教育してやろうか?あんまりのぼせ上がるなよ」
風神そのものが万を超える、大軍をも一飲みにしそうなハリケーンを具現化した存在である。風神の身体を高密度の空気がまとわりつき、侍らせ従わせていた。
「クソ!今回は引いてやる。引け!」
魔王アルフォンスの退却の号令により、魔王軍は次々と退却を開始して、10分足らずでアポロンから手を引き自分達の陣営に戻った。
「バル君、悪いんだけどアル坊に兵糧分けてあげてくれないかい?このままだと飢えてしまうから」
「良いですよ、セキさんがそう言うなら」
「ありがとうございます、ほらアル坊もお礼を言いなさい」
「.....」
「ごめんね、頑固だからこの子」
風神の仲裁により完全に終戦を迎え、朝日が昇る頃には魔王アルフォンス率いる魔王軍は、跡形も無く消えていた。
「セキさんありがとう、助かったよ」
「なんのなんの、そうだ自慢の野菜を分けてもらえると嬉しいな。バル君が作る野菜はお日様の味がして美味しいんだよね」
バルバロス王と風神は、軽く二言三言、言葉を交わすと風神は風に乗り、山岳地帯にオーガの軍勢を引き連れ帰って行った。朝日を背に受けながら、飛び去る様は正に風神、バルバロス王は風神を見送りながら、今回の戦争の後始末の事を考えていた。
そして時は今に至る。
「と言う事があったんだよ」
「風神の関根さん、カッコいいですね」
「ヤマさんセキさんは先代からの付き合いでね、昔はオーガに手を出した命知らずの国が、滅ぼされる事案もあったんだよ。オーガ族を奴隷にしようとしたり殺したり、昔はそんな国が多かったからね」
鈴木は雷神の話を思い出し、差別を受けていた事を思い出す。
「雷神風神が現れてからアポロンと同盟関係になったし、魔王十将軍の庇護下にある、オーガに手を出したら国が消し飛ぶからね。今はそう言った事は起こらなくなったよ、偶に山が紫色に染まる時があるが、未だにちょっかいを出す輩もいるようだ」
バルバロス王の話で、あの目の前でオーガに連れて行かれたノラ魔王の顔が、フラッシュバックしながら、鈴木は自分の動悸が少し早くなるのを感じた。




