巡る言葉
陽が傾き始め鈴木が途方に暮れていた時に声をかけられた。
「待たせたね、じゃあ行こうか」
途方に暮れ過ぎて、いい大人が体育座りで半泣きになっていたところに、ミーシャが声をかけてきた。
「あんた!遅過ぎるじゃないか!」
「悪いね、でもまだ日中じゃないか、それに女は準備に色々時間がかかるのさ、男が小さい事を気にするんじゃないよ」
悪びれる様子の無いミーシャの態度に、怒りと不安を覚えたが、ものの数分で評価が180度変わった。その戦闘スタイルは女性の柔らかさ繊細さを残しながら、モンスターを圧倒するパワーも秘めている。また余りにも身のこなしが美しい為、鈴木には舞っている様に見えた。数度の戦闘を終え洞窟の入り口にさしかかる頃には、もうすっかり陽が落ち、時刻は宵になっていた。
「じゃあこれから、洞窟に入るから松明を用意しな」
「松明...」
鈴木は松明を買っていない事に気づくものの、言い出せずに荷物袋を探す振りをした。
「あれっ?おかしいな確か入れといたはずなんだけど。おかしいなー」
などとミーシャに聞こえる様にわざと大きな声でアピールした。ミーシャは鈴木の様子を片手間に聞きながら、大きな溜め息を吐くと松明を一本渡してくれた。
「信じられないね!洞窟探索で松明も持たず、魔法使いも連れて来ないで来るなんて」
荷物袋は探索では邪魔になるので、洞窟の入り口付近の人目につかない所へ隠した。ミーシャが言うにはそこら辺に置いておくと、戻って来る頃には置引にあってるそうだ。世知辛い気持ちになりながら、持てるだけの装備品を持ち出すと、ミーシャを先頭に洞窟に潜入した。
「気をつけろよ、洞窟はリザードマンやゴブリンの巣穴になってる事が多い、それと人食いコウモリや最悪ドラゴンに出くわして、パーティーが壊滅なんて事も起こるからな」
ミーシャは物騒な事を言っているのに、今日一のテンションで話しかけてくる。この人は冒険が大好きなんだなと思いつつ、ミーシャが照らす松明の光に先導されながら、洞窟の深部へと歩みを進めた。幸い探索を始めて2時間程が経つが、ゴブリン数匹となんか気持ち悪い巨大なムカデ、一番驚いたのは人食いコウモリで人一人よりも巨大だった事だが、ミーシャ曰く雑魚にしか会ってないらしい。運が良いのか深部に近づくにつれ変な冷気を感じていた。
「寒くないですか?」
「まぁここは6階層位だから、外より5度くらい低いんじゃないか」
そう言うミーシャの首周りには洞窟に入った時には、着けていなかったモフモフのマフラーが巻かれていた。
「いつの間に」
「準備をしていない自分を恨むんだね、皆こうやって学んでいって一人前になるんだ。嫌なら冒険者なんて辞めてしまいな」
ミーシャの叱咤激励を受けつつも、ようやく目的のアリアケ草群生地に到着した。
「じゃあ私は休んでるからさっさと済ませな」
「あのー、手伝ってもらえると助かるんですが」
ミーシャがキッとひと睨みすると
「甘えんじゃない、あんたが受けたクエストだろ?私が受けたのはあんたのお守り。それを手伝うなら追加報酬を払えるんだろうね?」
「あんたには情が無いのか!少しは人助けしてもいいだろ」
「まさか払うもの払おうとせずにそんな事を言っているのかい?これだから貧乏人は嫌なんだ」
ミーシャはブーツを脱ぎだすと自分で足のマッサージをしだした。鈴木を助けるつもりは一ミリも見せず、ソッポを向くと松明の火に何かの香を焚いて、煙りが立ち上るのを見ていた。
「クソ!何にも役に立たないくせに金ばっかり取りやがって」
鈴木が小さい声で悪態を吐いていると
「なんか言ったかい?」
「...いえ何も」
「喋ってる暇があるなら早く済ませな」
「はい」
ミーシャの言動は外見には似つかわしくない、女性が冒険者をするとこんなに粗野で粗暴になるものなのかと、鈴木はげんなりした。