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国士無双

リーゼがひとしきり調べ終わると援軍でカーテンウォールの胸壁から降りてきた兵士達に顛末を共有した。


「もしかして貴方達は勇者様一行では?軍内で噂になっております、今回の魔王軍との戦いに勇者様が神託を受け駆けつけてくれたと。今回の戦は楽勝であるとアルス王子が演説しておりました」


ここにきて鈴木は自分の役割とアルスの思惑を理解した。


「なるほど、俺は士気上げの旗にされたと言う事か。ならば好き勝手に暴れさせて貰うとしよう」


鈴木はニヤリと笑うと近くにいた傷ついた兵士達を回復魔法で癒した。


「リカバリー」


一瞬で負った傷が消える奇跡の力を目の当たりにした兵士達は勇者がいれば戦に負けないと鼻息荒く興奮した様子で口々に仲間を鼓舞し合った。この場にいる兵士全員の士気が天を突く勢いになった時。


ドオーン!


先程よりも大きい衝突音と衝撃が黎明の旅人と近くにいた兵士達を襲う。土煙と砕け散った氷の奥から一匹の魔物が現れ出でた。


「グランドキマイラ!」


山羊の身体は漆黒、ライオンの立髪は金色に光り尻尾の蛇は紅くて不気味だ。体長はおよそ10メートル、体感はその何倍にも感じる。グランドキマイラに気を取られていると大きな翼を羽ばたかせる音が近づいてくる。


「まさかあれは!?」


翼の音の正体がグランドキマイラの近くに着陸した。


「カースグリフォンまでいるのか」


カースグリフォンと呼ばれた魔物はグランドキマイラよりも巨大で威圧感がある。ワシの頭にライオンの身体は紫色で神話に出てくるものよりも凶悪な顔つきをしている、こんな奴に暴れ回られたら一溜りも無い。


「ヒッポグリフの親玉なだけあって、ヤバそうですね」


アンナが固唾を飲んで魔物を刺激しないようにゆっくりと杖を構える。


「竜に比べればこんなの雑魚ですわ、但し夜ならですけど...」


リーゼは語勢を強めるが、冷や汗が額をつたう。


「怖いの僕だけですかね、明らかに無事じゃ済まないやつですよコレ」


逆に言葉は自信が無さそうな事を言っているが、メドラウトの口元は緩み、出会ってから1番楽しそうな顔を見せた。コイツはピンチや苦境が好きなタイプなのかもしれない。鈴木がそんな事を考えているとグランドキマイラが咆哮を上げる。並の者はこの咆哮で身体が硬直し動けなくなった、黎明の旅人を除いて。


「行くぞ!」


鈴木の掛け声を合図に4人はグランドキマイラとカースグリフォンに戦闘を仕掛けた。


「カースグリフォンはアンナとメドラウト。グランドキマイラは俺とリーゼだ」


「了解!」


「よろしくてよ」


「頑張ります」


鈴木の指示に従いそれぞれのターゲットと対峙した。カースグリフォンは翼を羽ばたかせ宙に舞い上がる、巨大生物が空を飛行する姿はゲームや映画の世界を彷彿とさせた。カースグリフォンは空から標的に狙いを定めると急降下を始めた。


「アイスバレット!」


メドラウトが放つ魔法のツララがカースグリフォン目掛けて飛んでいく。カースグリフォンは急降下を止め急旋回でアイスバレットを回避した。


「ウィンドソード」


アンナはカースグリフォンの動きに合わせ魔法を唱える。超高圧で放たれる風の剣がカースグリフォンを捕らえかけた時、カースグリフォンは空中で急停止した。


「あれほどの巨体であんな芸当が出来るなんて反則ですよ」


「これは長期戦になりそうですね」


アンナとメドラウトは魔法で牽制しつつ、カースグリフォンに致命傷を与える機会が訪れるのを待った。


「リーゼ!」


「やってますわ!太助こそ蛇如きに何を手こずってますの、しっかりなさい」


鈴木とリーゼは前後からの挟み撃ちで攻撃を繰り返して与え続けていた。致命傷は与えられ無いものの確実な手応えを感じながら、ヒットアンドアウェイ戦法で着実にグランドキマイラの体力を削り取っていく。


「ガラ空きですわ!」


「グルルル、ゴォ!」


グランドキマイラがリーゼの挑発に乗って態勢を崩した時。


「アシッドレイン」


すかさず鈴木が尻尾の蛇に酸の雨を降らせダメージを与える、ある程度弱った所で尻尾の蛇をミハイルでバッサリと斬り落とした。尻尾を切り落とされた事によりグランドキマイラは苦痛の余りよろめいた。戦争が始まり早数時間が経過し辺りはすっかり薄暗くなっていた。


「可愛い子猫。母の傍らで静かに眠りなさい」


時刻は薄暮。闇の眷属が力を解放する時間になり、リーゼの瞳は真紅に染まり闇夜でもハッキリと浮かび上がっていた。リーゼが軽く大戦斧を振るうとグランドキマイラは安らかに息を止めた。


「さぁ、こちらは片付きましたわ。アンナ達を助けに参りましょう」


リーゼの圧倒的な強さと闇夜でも美しく輝く姿は神々しささえ感じる。その心強さを起爆剤にして鈴木も発奮する。アンナとメドラウト、カースグリフォンは互いに決め手に欠け持久戦になっていた。


「待たせた」


「助かります、魔法が中々当たらなくて」


「あんなに大きいのに動きが俊敏で手こずってます」


「ならば私に任せて下さいませ」


リーゼから羽が生えた、と言うよりは服に格納していたものを解放したのだろう。


「我々吸血族の亜人は空も飛べましてよ」


リーゼが羽を大きく広げると瞬きしている内にカースグリフォンの眼前に到達し、刹那の間に月を背にしたカースグリフォンの身体と血飛沫が爆散し花火の様に宙に華を咲かせた。


「リーゼが本当は異世界転生チート主人公なんじゃないのか...」


リーゼの冠前絶後の無双振りに脱帽していると、空中からリーゼが降りてきた。


「お疲れ」


鈴木がリーゼを労いに駆け寄ると戦闘の興奮のせいか、呼吸が荒く彼女の頬は薄くピンクに染まり紅潮していた。


「なんでもありませんわ」


リーゼは続いて駆け寄って来たアンナとメドラウトにも明るく振る舞った。とんでもないお金が落ちているが回収は兵士に任せ、戦闘の疲れを癒す為、一度城に戻る事にした。ふとグランドキマイラが倒れた場所を見てみると見た事の無い鉱石があったのでそれだけは拾っておいた。


「さて戻るか」


勇者一行の戦い振りにあてられ周辺にいた兵士の士気は異常な高ぶりを見せた。


「こちらの部隊の指揮官は誰ですか?」


「私です、勇者様」


「魔王軍がこれ以上入って来れない様に、至急この穴を補修して下さい」


「はっ、只今!」


城壁の補修を依頼し終わってアポロン城へ帰還する。

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