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悲愴

「本来であればこの時世なので入国を拒否するところだが、神託者からの手紙を持参しリーゼ姫を随行させている事からお主を勇者と認め、アポロンの国賓として迎える。本来であれば酒池肉林で歓迎するところだが今は戦時中、申し訳ないがしばらく我慢してくれ」


獅子王が深く頭を下げる、鈴木は萎縮して応えた。


「そんな恐れ多いです、頭を上げて下さい」


獅子王の真摯な対応に感服した鈴木は獅子王のカリスマ性の虜になりかけてしまった。


「あまり豪華なもてなしは出来ないが、ゆるりと休まれて行かれよ」


獅子王がパンパンと手を、いや肉球を鳴らすと近衛兵に王宮内にあるゲストルームへと案内された。1人一部屋で三十畳はある広い部屋に所狭しと置かれる調度品は絢爛豪華な彩りを添えていた。ベッドはふかふかのもふもふで身体が自然と沈む、部屋自体も多分村の宿屋と一緒の属性付与がなされていて涼しくて快適だった。鈴木は一休みすると荷物袋を広げアイテムを整理整頓した。要らないものは捨て小さく纏まるものを纏めた。次に武具の手入れに入ろうとした時、ドアがノックされた。


「はーい」


ドアを開けるとアンナがいた。


「太助さん、私達これからどうなるんですかね?」


不安そうにしているパーティーメンバーに鈴木は優しく語りかける。


「戦争は俺も経験した事が無いから分からないけど、黎明の旅人なら最悪魔王軍から逃げ切れるさ。リーゼとメドラウトもいれば俺達は無敵だろ?」


「そうですよね、私達なら大丈夫ですよね」


アンナは少しだけ安心したのか強張った顔がいつも通りの可愛らしい表情に戻った。


「明日はどうするんですか?」


「とりあえず魔王軍が来る前にキッシュと言う人物に会っておきたい」


「分かりました、明日は人探しですね」


アンナは笑顔で相槌を打つと自室へと戻って行った。時刻は未明から夜明けにかけて、流石に一日中動き回り山岳地帯を一気に踏破したお陰で眠気は限界を迎えている。ふかふかのもふもふベッドに横たわると瞳を閉じて眠りについた。


目を覚まし出社前のルーチンをこなす、いつも通り仕事をこなす。いつも通りでは無かったのは患者さんが1人手術中に亡くなった事だ。彼には妻子がいてまだまだ働き盛りだったのにガンのステージが末期で取り除いても取り除いても転移するばかりだった。今回もガンの切除だったが手術中に容態が急に悪化して戻らぬ人となった。泣き崩れる奥さんと父親の死を理解出来ない幼子を見て救う事の出来ない己の不甲斐なさと申し訳無さが胸を締め付け、家族を残し亡くなった故人の無念を察すると心が張り裂けそうで1人誰も居ない所で鈴木は男泣きした。それでも医師は時間に追われる、傷ついて感傷に浸る事など出来ない。次の患者が俺を待っている、鈴木は自分を奮起させると次の戦場に向かった。


「お疲れでしたー」


看護師に見送られて病院を出たのが9時過ぎ、ヘトヘトになりながら車に乗り込む。今日は一切何もしたくない気持ちになっていたので、外食をする事にした。この時間だとチェーンのレストランが良い、最近は精神が安定してきたのか偶に味がする事がある。近い感覚で言うと風邪の時に鼻水が全部出て味が微かにするような感じだ。味がするなら美味しいにこした事はない、鈴木は帰宅途中でレストランによりハンバーグステーキとライス、ドリンクバーを注文した。


「今日は味がしない日か...」


鈴木は残念そうにハンバーグステーキとライスを掻き込み会計をして店を出た。ジムに行く気にもならず今日は大人しく自宅に帰る事にした。自宅に着くとシャワーを浴びてアルパカの夢の二話を見ながら晩酌をする。


「例え99人が要らないと言っても、私のデザインを好きだと言ってくれる1人の人に届けたい!」


「いやそれは駄目だろ、プロとして。売れるデザインを考えるのがあんたの仕事だろ」


とオッさんの様にほろ酔い気分でTVにツッコミを入れてしまう鈴木。今日の患者さんの事が頭を過ぎり晩酌が少し深酒になってしまった。二話も見終わり歯を磨き酒の力を借りて眠りについた。


城の一室で目を覚ました。天井には煌びやかなシャンデリアが吊るされキラキラしていた。かなり眠い、そう感じた鈴木は裏技を使う。固有スキル 不眠不休を有効化し、もう一度目を閉じた。狙い通り不眠不休を発動するか確認してくるので、はいを選択すると嘘の様に眠気が消えた。


「よしっ、今日はキッシュを探すとするか」


カーテンを開けてみると早朝のようで外は薄暗かった、眠いのは当然で何時間も寝てないように思われる。鈴木はスキルでギンギンになった目をシパシパさせながらトイレに向かった。日本の住宅とは違いトイレが幾つもあると言っても一番近い所でも100メートル以上離れていた。廊下は蝋燭で照らされ風で蝋燭の火が揺れる、廊下に飾られている甲冑が今にも動き出しそうで不気味だ。


「朝方は寒いしトイレ近くなるとこの距離は堪えるなー」


鈴木はぶつぶつ文句を言いながら近いトイレを目指した。怖い時に歌を歌ったり、独り言を言うのは常套手段で恐怖を中和させつつ、トイレで用を足しひと段落着いて廊下に戻ると異様な雰囲気に気づく。


「何か動いたような」


良く見えないので目を凝らすがまだ良く見えない。鈴木は固有スキル 猫の目を有効化し発動させると何やら奥の方でごそごそ動くシルエットが見えた。


「何だろあれ?」


鈴木がシルエットに気づかれないように近づいていくと。


「わぁ!」


「わっ!ビックリした」


そこにいたのはメドラウトだった。


「どうしたんですか?こんな所で」


「それはこっちのセリフだ、何してたんだ?」


「トイレ探してたんですが見当たらなくて」


「確かに広いもんなこの城、丁度トイレに行ったところだったから案内するよ」


「ありがとうございます!助かりました。漏らすところですよ、暗くて良く見えないし」


「だよな、薄暗くて不気味だし」


鈴木はメドラウトをトイレに誘導してやると、用が済むまで待ってやった。


「それにしてもこんなに大きな城なんだから使用人の1人や2人、衛兵の3人や4人は配置しておいて欲しいものですね」


「全くだ、トイレに行くにも迷子になる」


「ありがとうございました、もう一眠りします。おやすみなさい」


鈴木とメドラウトは自分の部屋の前で解散した。

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