邂逅
鈴木の意識が戻ると昨晩見た夢の世界が広がっていた。目の前にはあの老人、ただし少し変わった事が起こった。
「死んでしまうとは情けない奴じゃ、無理はせずに精進せよ。ヒントが欲しいのか?ならば最初は北の草原を目指すが良い、レベル上げには向いておる」
壊れたオーディオプレーヤーの様に、同じ事しか喋らなかった老人が違う事を言ったのだ。
「なら最初から言ってくれよ!」
鈴木が抗議したが、また老人は同じ話を繰り返し始めたので諦めた。鈴木はポケットに違和感があった為、手を入れ探ると出てきたのは、銀のコインが125枚、銅のコインが50枚しかなかった。
「減ってる?」
「だから言うたじゃろ、デスペナルティがあると」
老人のローブから少し見える口元が笑っているのが分かる。鈴木は薄気味悪くなり、日が照りつけ暑いにもかかわらず冷や汗が出て来た。
「もしも死を意識させる程の強敵に遭遇して戦いたくない場合は、一目散に逃げるがいい。勇者太助よ」
「ゲームバランスがおかしいだろ!なんで序盤の村でそんな奴等がいるんだよ。なんだこのクソゲーは!ふざけるなよ」
鈴木が叫んでも虚しく周辺に声が響くだけで、状況は一つも変わらなかった。鈴木は抗議は無意味だと悟ると、とりあえず村長の家に向かう事にした。
「戻ってきたか、昨晩戻って来なかったから心配してたんだ」
「すいません、色々ありまして」
「そうか無事ならいいんだ、それよりお前さん身なりが冒険者だが、モンスターと戦えるのか?」
「分かりませんが、前に野犬みたいなのに数匹襲われましたが撃退しましたよ」
「どんな色の奴かね?」
「紫色の大型犬くらいの大きさの牙が大きかったです」
「ほう、それは凄い。特徴からしてスカーウルフだな、この周辺ならかなり手強いモンスターだ。本当にお前さん一人で倒したのか?」
「ええ」
「決まりだ、仕事の話だがこの村の北にある洞窟にアリアケ草という薬草が群生している、生えている半分を取って来てくれ。納期はいつでもいい頼んだぞ」
「アリアケ草?」
「ああ、調合すると眠気を飛ばしてくれて、頭がスッキリするんだ。眠り薬の原料のコゲツ草と一緒に売るととてもいい値段が付く」
「わかりました、準備が整い次第出ますね」
「それともしも一人で行くつもりなら、村の酒場に寄って行くといい。この村を訪れている冒険者がいるから、力になってくれるかもしれない」
村長の話を一通り聞き終わると、物は試しと鈴木は村の酒場に立ち寄る事にした。酒場の店内は真昼なのにかなり暗く夜とあまり変わらなかった。またアルコール臭が蔓延し雰囲気は殺伐としており、店内を見渡しても荒くれ者や得体の知れない、人間モドキばかりがいた。鈴木はコミニケーション能力をフルに活用し、仲間の勧誘を試みるものの、駆け出しの冒険者に耳を傾ける者はいなかった。
「時間の無駄だったな」
「あんたはパーティーを作りたいのかい?」
鈴木が諦めようと酒場を出た直後、声をかけて来たのは鎧を着た女だった。髪はアマランサス、左目だけは紫色のオッドアイ。容姿端麗とは彼女の事を言うのだろう、これ程の美女を見た事はなかった。鈴木が呆気にとられていると美女が続けた。
「どうした?仲間を探していたのだろ、違うなら行くが」
「そうです、一緒に北の洞窟に行ってくれる人を探していました」
「私はミーシャ、あんたは?」
「鈴木です」
「変わった名前だね、よろしく。今回は助っ人として行くからそうだね、北の洞窟なら3日で銀貨100枚にモンスター討伐で得た金はあんたが4、私が6でどうだ?」
「えっお金を取るんですか?」
「何言ってんの、当たり前だろ。私は戦士であり冒険者であり、傭兵だよ。それとも一人で行くかい?」
ミーシャは鈴木の目を睨みつけるとその場を後にしようとした。
「待って下さい、その条件でお願いします」
鈴木はポケットから、なけなしの銀貨100枚を取り出すと、ミーシャに差し出した。
「じゃあ日中に村の入り口で落ち合う、それまでに準備しときな」
「はい」
鈴木は残りの銀貨と銅貨で回復薬や毒消し草を買い、村の入り口でミーシャが来るのを待っていた。1時間経ち2時間経ち、時計がないので正確な時間はわからないが、多分4時間は待っているだろう。待てど暮らせどミーシャは現れなかった。
「もしかして俺はとんでもない過ちを犯してしまったのか」
チェック1