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超絶エリートの俺が異世界に行くなんて  作者: 吟遊詩人F
冒険と変わりゆく日常
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月夜の逢瀬

騒然としたオーガのノラ魔王襲撃事件を目の当たりにした鈴木は、あの男性が村の結界に弾かれオーガに連れて行かれる瞬間の絶望に染まった顔が脳裏から離れなかった。助けられたかも、いや魔王だから助けるべきでは無い。この難問に対して表裏の回答がチラチラと浮かんでは消えた、寝ようとしてもなかなか寝付けなかった。目を閉じる度に男性の顔が過ぎるからだ。医師である鈴木は一般人よりも人の死に慣れている、だが苦悶に満ちた死刑囚を見た事は無い。大きく溜息を吐くと気晴らしに外に出てみた。


「夜は寒いくらいだな」


時刻は深夜、村人が全員寝静まり静寂が村を包み込む。鈴木の服装は薄着なのですぐに身体が冷えてしまう、でもこんな時は寒い方がクールダウン出来て気分転換には良い。村の標高が少し高い為、空は高く星々が己の輝きを誇るかの様に眩しく光、吐く息が白くなって消えていく。1人宿屋の隣りに設置された馬繋ぎに背をもたれ自分の吐く白い息を眺めていると思いがけない人物に声をかけられた。


「奇遇ですわね」


声の主はリーゼだった。鈴木はこの時間に人に会うとは思わなかった為、ほんの少しだけ驚いたが返事をした。


「リーゼこそこんな夜更にどうしたんだ?」


「空をご覧になって」


リーゼが指差す方角に目をやると雲に隠れた月が見えた。


「月がどうかしたのか?」


リーゼと問答している内に気流に流された雲から、いつもより大きく強い月光を放つ赤い満月が現れた。満月の出現により先程まで華やかにアピールしていた、星々は身を潜め満月の1人舞台となった。


「疼き渇きますの」


「リーゼ...」


リーゼの瞳は情熱の色に染まり、普段の理性的な姿からは想像出来ないような妖艶さを纏っていた。いつもは彼女の身嗜みが整っているところしか見た事が無いが、着衣は緩み呼吸は乱れ小さく漏れる吐息は官能的で鈴木の雄としての本能を擽る。ブラッドムーンが照らす中、2人の距離が一歩また一歩と近づくに連れ鈴木の心拍数は急上昇して自分の鼓動が聞こえてくる。


「太助、いいでしょ?」


リーゼが甘えたように聞いてくる。その声は恋人に向けられるような猫なで声で鈴木は惚けて頷いた。首筋にチクリと何かが刺さり血が抜けていく感覚だった。


「くっ」


鈴木は必死に全身の力が抜けていくのを堪えた。吸血行為における脱力感は想像以上でリーゼを抱きしめていないと倒れてしまうのを予見した。鈴木はリーゼが吸血行為を満足するまで強く抱きしめていた。


「ほぅ」


リーゼが満足し小さく呼吸を整える、口元から滴り落ちる血液は先程まで鈴木の体内を循環していたものだ。ふとリーゼは我に返ったようで顔を真っ赤にし、顔を逸らすと抱きしめていた腕をゆっくり解いて鈴木の身体を引き離した。


「私...たまに自分をコントロール出来ない時がありますの。貴方を傷つけてしまって本当に」


リーゼが鈴木に謝罪しようとした時。


「血を抜いて貰って身体が軽くなった気がするよ、また必要になったら声をかけてくれ。喜んで協力するから、ありがとう」


鈴木はフラフラになりながら精一杯痩せ我慢をした。そんな鈴木の姿を見たリーゼは一雫の涙を溢し鈴木を抱きしめた。


「貴方という人は」


リーゼとの逢瀬を満喫した鈴木は丁度良い具合で力が抜けたので宿屋の自室に戻りベッドで目を瞑る。就寝するのにあの魔王の顔はフラッシュバックしなかった。


目を覚ますと目覚ましが鳴っていた。どうやらベッドから寝相が悪く落ちたらしい。


「落ちたのに起きなかったのか」


鈴木は目覚ましを止めて掛け布団をベッドに戻す。寝癖を手櫛で直そうと試みるも全く歯が立たない為、目覚ましも兼ねて朝シャンをした。スッキリしたところで出社前の身嗜みルーチンをこなし病院へと向かった。病院では毎日変わらない業務をこなしていく患者のカルテのチェック、問診に会議。看護師との共有すり合わせを終え本日の就業時間はあっと言う間に終了した。いつもはコンビニに寄って飯を買って、食って寝るだけだが毎日がそれでは余りにも張り合いが無い。鈴木はドライブする事に決めた。大分遠回りしながら下道をネオンやライトアップされたお店を見ながら道行く家族連れに目がいってしまう。親子揃って外食の帰りだろうか、皆んな笑顔で歩いていた。


「…………」


DAPから流れる音楽が打ちひしがれる心に更に鞭を打った。妻や子どもが居なくなって楽だと思った、自分の時間が出来て嬉しいと思った。だが失ったものは比較にならないほど大きい、自由も時間も要らない、ただ家に帰って来て欲しいと願うばかりだった。しかし時すでに遅し鈴木の願いは叶うはずも無く虚空を掴むようだった。帰路の途中、ファーストフード店でドライブスルーに入り車内で夕食を済ませると急遽数日振りにジムに行く事にした。


「今日はウェイトトレーニングをするか」


鈴木はダンベルやバーベル、マシンを使い筋肉に負荷をかけ続けた。1時間経つ頃には汗だくになりシャワーもジムで済ませた。

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