商人達との悶着
「今東の王都では10年に渡る魔王連合の封鎖が緩くなってるから、王都に物を入れれば必ず儲かるんや」
「魔王連合?」
聞きなれないワードに首を傾げていると関西弁の男性が補足説明してくれた。
「魔王連合は魔王十将軍からなる魔王の連合体で長きに渡って王都の封鎖を行なってたんやけど、最近野良が増えたやろ」
関西弁の男性が入り口に親指を向けて視線を誘導する。
「魔王十将軍の一人が代替わりしたおかげと言うかせいで、一つのルートにどデカイ穴が空いたんや。今王都に物をいち早く流せた奴が勝ち組よ」
と関西弁の男性は鼻息荒く熱弁するのだった。鈴木は疑問があり質問してみる。
「10年も兵糧攻めを受けたら普通国民が飢えて国として崩壊するんじゃないのか?」
「あんた、ホンマに何も知らんねんな。ええか魔王はたまに突然消えおる、そこを見計らって決死隊が外に食料やら物資の買い付けに出るんや。見つかって連れ去られたり殺された奴は数え切れんけどな。だから外から物資を持ち込めれば子どもでも儲けられるって寸法よ!」
「ならハデスの外にいる奴もいつかは消えるのか?」
終始興奮気味に話していた関西弁の男性は突然クールダウンしてまた腰を下ろした。
「ホンマ、運が悪い。朝か夜のどちらかは消えるのが常識やのに、あいつは消えんからタチ悪い。やからハデスにいる連中が殺気立ってるのはそれが原因の一つや。ここに来て買い付けた分の支払いすらままならん。しかも自業自得やけどさっきのアレで破産や」
うつむいた男の地面の土がポタッポタッと小さな丸い滴で水玉模様が出来た。
「堪忍や情け無い息子ですまん」
誰に謝罪しているのかは分からないが、この人にも今日に至る物語があるのだろう。鈴木は塞ぎ込む関西弁の男性の肩を叩くと。
「ちょっと待ってて」
鈴木は宿屋に向かって走った、宿屋の部屋に戻るとアンナがまだ溜息を吐いて白金貨を眺めていた。
「ちょっと借りるよ」
鈴木がナチュラルに白金貨を回収するが、回収の途中で女性のものとは思えない力で制止された。
「どこに持って行くつもりですか?」
鈴木はアンナに今日の出来事を伝える。
「太助さん!正気ですか?意味が分かりません。えっ?大金を見ず知らずの人間に貸そうとするとか頭大丈夫ですか」
鈴木はアンナから叱責を受ける。アンナは鈴木から白金貨を全部奪いとりサイフ袋に入れると後ろ手に隠し、鈴木から守った。
「自分の言ってる事が分かってますか?他人に貸すという事は捨てるという事です。銅貨一枚すら返ってきません。このお金があれば宿屋に泊まれないなんて事も無くなるんです」
「分かって」
鈴木が答える前にアンナが被せて反論する。
「分かってませんよ!お金って大切です。大事にしてあげないと向こうから離れて行くんですよ」
アンナが涙を浮かべながら上目遣いで抗議してくる。彼女には苦労させたし今後出来るだけさせたくないとも思っている。だが鈴木は敢えて決意を口にした。
「アンナの言う通りだ、だが今回の騒動は俺達に原因がある」
「知らないんですか?魔王の襲来は古今東西災害扱いなんです、私達が悪い訳ではありません」
「それは俺達の言い分であって巻き込まれた人はそうは言わないだろう、人災を災害と言って逃げるのは無責任だと俺は思う」
「じゃあ太助さんは、今後魔王と遭遇して倒せなかったら責任を取り続けるつもりですか?」
「それは難しいと思う。だけど今は金貨を必要としている人がいて俺達の手には彼を救えるだけの金貨があるそれじゃあ駄目かな」
しばらくアンナが沈黙していると。
「しょうがない人。もともと泡銭だし黎明の旅人のリーダーはあなただもの判断に従います。でもこれは一個貸しですからね」
アンナは本当に名残惜しそうにサイフ袋を鈴木に渡した。
「アンナの好物なんでも奢るから」
「なら北の都にアイスクリームなるお菓子があるそうで、冷たくて甘いらしいです。立ち寄った時に必ず奢って下さいね」
鈴木はコクリと頷くと市場へ走って向かった、関西弁の男性と別れた辺りを見回すと一画にすごい人集りが出来ていた。その中心人物に声を荒げる者、誹謗中傷する者。言いたい放題で傍若無人な態度の者を押し退けて行く。
「手前ぇ!あんな偉そうにゴタク並べといて金を用意してないとはどういう了見だ!」
「さっきの威勢はどうしたんだ、半人前の小僧が」
商人達に野次や唾を吐かれながら懸命に堪え、土下座をする関西弁の男。何を言われても額を土に擦りながら謝罪を述べているのに、その場にいる一人として擁護しようとする者がいない現場を目の当たりにして鈴木の怒りは頂点に達していた。
「ボス!お待たせ致しました」
鈴木が商人と関西弁の男の間に割って入る。
「なんだお前?」
「どけ!ぶっ殺すぞ」
「殺すのは構いませんが、これを見てからでも遅くはないんじゃないですか」
鈴木はサイフ袋から白金貨を取り出すと高く掲げて後ろにいる商人にも見えるように提示した。白金貨を見た商人達の殺気が一気に変わる雰囲気を感じた。先程まで罵詈雑言の霰を降らしていた奴らが手のひらを返し、関西弁の男に敬語で話かけだしたのだ。
「なんだブラックスミスの旦那も人が悪い。最初から出して頂いたら俺達もこんな騒ぎを起こさなかったのに」
「ウチの品を全部買って下さるんですかい?」
「ブラックスミスと言えば老舗の看板。やっぱり若旦那は一味違うと私は思ってましたよ」
口々に勝手な事を囀る。鈴木は喫驚仰天した関西弁の男の手を握り立ち上がらせると。
「ウチのボスに荷を売りたい者はそこに並べ、しばらくしたら買ってやる!文句がある奴はここに出ろ」
鈴木は厳しく指示した。関西弁の男に対する商人達の扱いに憤慨しており、また忖度を得意とする彼らは口を噤み静かに列を作り始めた。
「さぁ今の内に白金貨を両替に行きましょう!」
「あんたは」
おでこには土が付いて、頬などに薄っすら血が滲んでいる関西弁の男は、鈴木を見てまだ自分に何が起きているのか理解出来ていないように見えた。鈴木は目で合図を出すと関西弁の男に両替屋まで誘導させた。




