裏ボス?現る
神殿内は静かで昨日の豪雨のせいか滴が垂れる音がピチョン、ピチョンと木霊する。冷んやりしていて心地よいか少し肌寒いくらいに感じる。丁度昨日トラップに引っかかった部屋に着いたので部屋の内部を探索してみる。昨日と全く同じ場所に未開封の宝箱がおいてあった。鈴木とアンナは互いに顔を合わせると苦笑いをした。
「流石に今日は開けませんよ」
「苦労の割に合わないからね」
黎明の旅人は宝箱を無視して先へと進む。神殿内は外観と同じ様に青白く光、松明が無くてもはっきり内部が見渡せる明るさだった。すると一人向こうから神父が現れた。
「迷える子羊よ、こんな時間に巡礼ですかな?」
最初は突然現れた人間に驚いた。黄金郷の踏破者が入って行ったので無人のダンジョンとばかり思っていた。ゴースト系の魔物からデュラハン等、お化け屋敷を具現化したような神殿に一般人がいる事は想定外だった。冷静なふりをして返事をした。
「すいません、夜分に来てしまって」
「神はいつでも迎えて下さります」
神父は十字をきると一礼して立ち去ろうとした時、思い出したかのように告げる。
「そうそう、神殿に不届き者を懲らしめる仕掛けがあるのであまり神殿内のものには触らない方がよいですよ。では」
神殿の青白い光と相まって神父の顔が不気味に笑っている様に見えた。あのトラップは懲らしめる領域ではない、確実に殺しにかかっている。神殿なのに心霊スポットに行った時の様な悪寒と息苦しさを感じる、数多の盗賊や無法者、冒険者ときには勇者の生き血を啜ってきたのだろう。神父を見送ると鈴木とアンナは神殿の深部へと歩みを進めた。神殿の一番奥には大きな像が祀られていて一際青白い光を放っていた。夜目に慣れた瞳には眩しく手で直射を避けて近づく。
「これは?」
「月の神アルテですね」
「アルテ?」
「月の神、アルテは旅人達が夜の闇に飲み込まれないように守護を司る神です。その昔、1000年前に人間を大量虐殺した巨人の王、キングサイクロンプスギガントを当時最強の勇者パーティーに入り一緒に討ち取り果たしたとか。勇者と他の仲間と共に神格化したそうです」
「昔のレジェンド級の冒険者って事か」
「きっとアルテ様は女神様のように優しく清らかで強かったんだと思います。まだ私、自分の守護神を決めていないから入信しちゃおうかな。なんて私達も神格化してもらえるくらい頑張って冒険で功績をあげましょう!」
アンナはそう言っているが、このアルテと言う女神は信仰したくない。あんなトラップを配置するような神父もしくは関係者。もしかすると本人がしていると考えると優しくは無いし、寧ろ残虐でドSと鈴木は思うのだった。
「あなた達ここで何をしていますの?」
後ろを振り返ると黄金郷の踏破者のリーダー、リーゼロッテが立っていた。後ろには二人の従者を引き連れいつものようにアマンダが遠慮気味に頭を下げて挨拶をしてくれる。
「ここは半人前が立っていい場所ではありません、早く立ち去りなさい」
「貴方達はここで何をしているんですか?」
「好奇心は猫も殺すでしたかしら、昔の方は言い得て妙ですわ」
黄金郷の踏破者は全員臨戦態勢に入るとカル、アマンダ両名がリーゼロッテのサポートに入り強化魔法を幾重にも重ねていく。
「今宵は満月、キングサイクロプスギガントが倒され1000年、封印が解放されます。お願いですから死なないで下さいまし」
リーゼロッテは少し悲しそうに黎明の旅人を一瞬見つめると、アルテ像に向き直った。アルテ像が音を立ててヒビが入ると空間が歪む、自分の感覚がおかしくなったのかと思ったが、神殿のこの空間が物理的に変異した。アルテ像が完全に割れると中から15メートルはあろうかと思われる片目の巨人が猛々しく姿を現した。その姿はボロボロの古い鎧に4本の腕に錆びた剣を携えギョロっとした殺気立つ瞳で対峙する冒険者を睨んでいた。キングサイクロプスギガントが吐く気炎で臓腑が焼かれるような感覚に陥る。
「忌々しい奴らはどこへ消えた?小さき虫ケラ共」
「あらあら1000年もの間、惰眠を貪ったからボケたのではなくって?貴方は敗れ封印されましたの」
「笑わせるな小娘、我が貴様ら小虫に負けを期する訳がなかろう」
「本当に哀れな化け物です事、今度は封印では無く消滅させてご覧にいれます」
鈴木は目の前で起こっている、ハリウッド映画級のCGを前に浮世離れし過ぎて頭がついていけてなかった。必死に考えようとするが、頭が考える事を拒否する。なるほどこれが現実逃避か、そんな事を考えているとアンナが鈴木にビンタを張り正気に戻す。
「隠れますよ!」
アンナは鈴木を柱の影に隠すと自分は違う柱に身を潜めた。
「生意気な小娘よ、小虫が神に唾吐いた事を悔いて死ぬがよい」
「亜人の亜種が神を名乗るとは不遜の極みですわ。化物、妖怪の類いの分際である事を思い出させてあげますわ」
リーゼロッテとキングサイクロプスギガントの激闘が始まった。巨体に任せた絶対的な暴力でリーゼに襲いかかる。しかしリーゼは難なく避け大戦斧でキングサイクロプスギガントの腕を一本飛ばした。
「ぐあぁぁ、この忌々しい奴め」
「お言葉ですが、何世代にも渡り貴方が復活した際は封印をしろと言われ続けた我が一族の胸中を察して下さいまし」
戦闘は終始リーゼが優勢に進んだ。伝説級の相手でも圧倒する強さは凛として輝やく月の様だった。




