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超絶エリートの俺が異世界に行くなんて  作者: 吟遊詩人F
冒険と変わりゆく日常
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戦いにならない戦い

アンナとの連携も少しづつ練度が上がってきた、初めの村を出た時は大分チグハグな戦い方をしていたが、前衛と後衛の役割分担がはっきり出来る様になり、無駄の無い戦闘が続く。


「私達、なかなか強いんじゃないですか?」


「油断をしたら、デュラハンの時の二の舞いになるぞ。気を引き締めてかかれ」


「はいはい、かしこまりました」


アンナは火と風の魔法が得意なようで、屋内よりも屋外の戦闘の方が派手で明らかに強い。大体の魔物を火と風で覆い、焼き殺すか窒息させていた。戦闘の時にちらっと彼女に視線をやると紅梅色に染めた頬に微笑を浮かべながら焼け落ちる魔物を見てほほえむ姿は背筋が凍った。絶対敵に回してはいけない人種だと鈴木は思った。ひとしきり周辺の魔物を狩り尽くし路銀も余裕が出てきたので、一度ハデスに戻ろうとした時に背筋に氷を滑らせる様にゾッとする気配を感じた。鈴木は一度その感覚を経験していた。


「目立たないように逃げるぞ」


「急にどうしたんです?」


「魔王が近くにいる」


アンナが見渡しても人影は無く、安全に見えるが鈴木の尋常じゃない冷や汗を見て冗談ではない事を悟ると身を屈めながら小走りでハデスに向かう。走って逃げているにも関わらず、危険信号はどんどん強くなるばかり、鈴木は魔王に発見され追跡を受けている事を肌で感じていた。


「間に合うか」


ハデスの出入り口付近に来ると視線は消え冷や汗がゆっくり終息していく。助かったと思った瞬間、鈴木に激痛が走った。


「ぐあぁぁああ」


苦痛のあまり悲鳴が漏れる、痛みの原因を確かめようと左に視線を向けると前腕から手にかけて血飛沫を上げながら宙を舞う光景をスローモションで撮影した様に鈴木には見えた。


「きゃあああ」


一足先にハデスに入っていたアンナが絶叫する。痛みを堪え現場の状況を冷静に判断する為に回復魔法で麻酔を注射するイメージで痛覚を麻痺させた。パニックになりながらも周辺を警戒すると鈴木の目の前に悍ましいオーラの男が剣を持って立っていた。


「見ーつけた。ボーナス発見」


この男が何者なのかは本能でわかる、あの日洞窟ですれ違い、あの日遭遇し抵抗も出来ずに殺された。俺を殺した奴とは違うが同じ気配を感じる、本能が警告を出し続けるこいつは間違いなく魔王であると。


「ノラか」


「ピンポンピンポン!正解でーす、正解者にはご褒美として」


魔王は愉快そうにドラムロールを口で表現しながら鈴木の背後に回り込む


「ジャン!死んでもらいまーす」


鈴木が自分の前腕を拾ってハデスに駆け込もうとするが既に魔王によって退路は塞がれていた。


「駄目でちゅよー、逃げてちゃ強くならないでちょ」


魔王はニヤニヤしながら圧倒的優位な立場を満喫しているようだった。鈴木は恐怖を感じつつも前腕を腕に当て縫合とギプスを付けるイメージで回復魔法の詠唱を始めた。


「リカバリー」


切断面がみるみる塞がっていき、腕から指にかけ血が通うと鈴木は左の腕から前腕、掌や指に力を込めて両手持ちでミハイルを構えた。


「何それ!キモ、あんたやる気なの?馬鹿なの?俺魔王なんだけど何それ!かっこいいと思ってんの」


魔王は鈴木を揶揄うように構えの真似をしながら、ゆらゆら小刻みに挑発を繰り返してくる。


「それにしても俺って超ラッキー。こんな雑魚が勇者なんて、何貰おうかなー」


鈴木は圧倒的な力量差がある中でこの修羅場をどうくぐり抜けるか思案していた。


「とりあえず死んどけよ」


目を離していないのに魔王が視界から消えた、一拍すると魔王が目の前に突如現れた、反射神経で相手の動きを察知してギリギリで避ける。間合いを取り直すが、一瞬で間合いが詰まって回避する。後手に回り逃げるので精一杯だが一つ状況を判断すると、この魔王は何かしらのスキルもしくは魔法でこのような事をしていると思われる。間合いを詰める際に視界から必ず消えるのだ、これなら初手で前腕を切り落とされた事も仕方がない。


「そろそろゴチでいいしょ、無駄な足掻きはみっともないよー」


魔王は鈴木を追い込んでいく、このままでは確実に死あるのみ起死回生の一手を鈴木は探るのであった。

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