生存本能
「参りました!」
ゴンゾはボンっ!と人狼の姿から狼のシルエットへ変化し、仰向けにお腹を見せる。
ヘッヘッヘと息を吐きながら完全降伏の意を表すゴンゾに鈴木が睨み付けながらにじり寄る。
「勘弁して下さい旦那。もう歯向かったりしませんから」
さっきまでバチバチに殺気をぶつけ合っていたが、漆黒の狼の姿で鈴木の足にスリスリと毛並を押し当ててくる。
「俺がお前を許すとでも?」
「旦那ほどの漢だ。度量を見込んで舎弟にして欲しいと思っております」
「人間を喰う様な奴をペットにしろと?」
「旦那。こう言っちゃなんですが、人間だって牛や豚を食べるでしょ?何故イケないんで?」
悪気なくゴンゾは鈴木に問うた。
「俺は人間で、お前は人間を喰うだろうが」
「なら金輪際、旦那の舎弟の間は人間を食わない様にします」
ゴンゾは凄く良い笑顔で答えた。狼種のゴンゾは鈴木を主人と認識し忠誠を誓った。
「お前な!」
鈴木が強い剣幕でゴンゾを身体から引き剥がそうとするが、テコでも動かない意地をゴンゾも見せる。暫くワタワタとしたが、結局鈴木の根負けで魔獣使いの権限でダークフェンリルを使役する事になった。
「もう悪さするなよ」
「かしこまりました!旦那の言う事を聞きます」
鈴木に対してゴンゾは翁風の喋り方が抜け、弟子が師匠に話し掛ける様にハキハキと話をする様になっていた。
「と言う訳だ!!解散!」
ゴンゾが吠えると村の英霊達と激闘を繰り広げていた魔物や魔獣が散開して暗闇に消えて行った。
「これから宜しくお願い致しますよ旦那。私の真名はシュルト」
鈴木の装備転送スキルによりゴンゾが格納空間へ足元からゆっくり送られた。
「何が起こってるんだ?」
アレンとフィーネが呆気に取られていると、ボロボロになったエプロンをパンパンと叩きながら歩み寄る鈴木。
「大丈夫か?」
鈴木は優しく微笑む。
「貴方は一体?」
フィーネが驚愕して鈴木に目を釘付けにし、アレンも痛みを忘れ凝視していると。
「ほら、立てるか?」
鈴木はアレンに右手を差し出してアレンを引っぱり起こす。
「何者なんだよ、おっさん」
アレンが困惑していると。
「久しぶりじゃない」
凛とした声が掛かる。
「師匠!」
「お師匠様!!」
鈴木がアレンとフィーネ越しに視線を向けると懐かしい姿を見つけた。
「元気にやってたの?」
髪はアマランサス、左目だけは紫色のオッドアイ。容姿端麗とは彼女の事を言うのだろう、これ程の美女を見たのは久しぶりだ。
「ミーシャか」
美しいアマランサスの髪が月光を乱反射させ、鈴木は右眼を細めた。
「アレン、フィーネ無事かい?」
「はい!」
「やられましたが、死んでません!」
二人のリーダーはミーシャの様で、さすが人狼種、ミーシャの問いにハキハキと体育会系の応答を見せた。
「ところで今まで何処で何してたの?」
ミーシャは傷だらけの鈴木の顔を優しく撫で心配そうに見つめる。出会った当時は若気が垣間見えたが、今や落ち着き払い女侠客の風格を纏っている。今の彼女にピッタリの言葉は姐さんだろう。
「積もる話もあるから、私の家に来る?」
ミーシャは優しく微笑むと帰路に着く為に振り返る。
ギン!!
「おい、女。旦那に何しやがる」
コンマ何秒の世界。ミーシャの刀が鈴木の首を飛ばす前に、シュルトの爪が辛うじてミーシャの刀を阻んだ。微動だにしない鈴木。妖艶な笑みとは裏腹にミーシャの背後に夜叉が映る。
「アンタ。何をするつもり?」
ギリッギリッと刀と爪が鍔迫り合いで拮抗する。
「旦那。コイツ殺して良いか?」
「止めろ。昔の仲間だ」
ドンッ!!
シュルトにミーシャは数メートル吹き飛ばされた。
「手前ぇ!師匠に何しやがる」
アレンがいきり立つが直ぐにゴンゾに組み伏せられた。
「勘違いすんなよ雑魚ども。旦那が止めなけりゃお前ら全員、今ごろ俺の腹の中に居るんだよ」
六大魔獣の凶悪な暴力で師弟を制圧するダークフェンリル。
「ミーシャ。俺を殺そうとしたのか?」
「しばらく見ない間に世界を滅ぼすつもり?」
「何の事だ?」
「一国を滅ぼすのも容易いと言われているダークフェンリルを使役するなんて。そいつは人類の敵。そんな凶悪な魔獣を従えると言う事は、太助も全人類の敵になるつもり?」
「人類の敵になるつもりは無いが、いい加減世俗の煩わしさに辟易はしているな」
「貴方がどう思おうとも六大魔獣は不倶戴天の仇。アリスに知られる前に私が殺してあげる」
「残念だがミーシャでは俺を殺すどころか、傷一つ付けられないよ」
鈴木は寂しそうにミーシャを目に焼き付けると、長らく厄介になっていた集落に別れを告げずに去った。
「師匠、あの人は一体誰なんですか?」
フィーネがミーシャを助け起こしながら質問した。
「世捨て人気取りの馬鹿リーダーさ」




