巨星再び
「それにしても、報われませんな」
深く同情した様子で話掛ける一人の中年の勇者。
「仕方あるまい。馬鹿でも親不幸者でも息子は息子。可愛いし愛おしいものだ」
寂しそうな背中で語る初老の勇者。
「あの義娘には散々手を焼いたが、死して尚、わしの手を煩わせるのだから大したものよ」
カランとグラスに注がれたウィスキーを一口グイと飲み干すと。
ダンッ!
力強くグラスを置く初老の勇者。
「して如何致しますか?」
「ゼウスは馬鹿息子に任せる。しかし、前回は皇太子妃故に死を賜わらせただけで済ませてやったが、あの忌々しい売女の生国は滅ぼさねば腹の虫が治らん」
「ならば妙案があります」
「お前に任せる。あと、裏切り者も一緒に滅せよ」
「鈴木太助ですね」
「確か世捨て人になったらしいが、途中で舞台を降りる事は許さん!わしを裏切った者の末路は死あるのみ」
「此方と彼方、どちらで?」
「愚か者、直ぐ勝負が着いては興醒めであろうが」
「御意。主上に誓い必ず奴を引きづり出してご覧に入れます」
高層ビルから見下ろすテールランプ群が、先に起こる大乱で流れる血の河を彷彿とさせた。
「起きた?」
ベッドから起き上がるのを母親に介護して貰う鈴木。
「母さん」
「朝ご飯作ったから食べなさい」
母親は優しく微笑むと肩を貸して席に着かせる。
「.....」
父親が無言で新聞を読む傍ら、忙しなく母親は鈴木を介助した。鈴木はバツの悪さを感じたが不思議と安心感も感じていた。父親は一度も視線を合わせなかったが、母親を通して鈴木を気に掛けている事が伝わってくる。
「ありがとう」
鈴木は泣きそうになりながら、朝ご飯のトーストとウィンナーを口いっぱいに頬張った。腹を満たした後は母親に連れられ買い物に出る。町内の奥様方に好奇な視線を送られたが、母親がこれでもかと胸を張って歩くので、鈴木の羞恥心は段々と薄れていく。
「ごめんよ」
「何を謝っているの?変な子ね」
外の空気を吸い、塞ぎ込んだ気分が少し軽くなった。母親と公園で談笑し、次回は都心に行って買い物する約束をして帰宅した。久しぶりに身体を動かしてので、心地よい疲労感を感じる。ゆっくり時間を掛けて風呂に入り懐かしい母親の手料理で腹を満たす。
「そろそろ寝るよ」
「おやすみ」
鈴木は父親の帰宅前に自室へと戻る。鈴木は気付いていた。2歳の我が子を持つ親として、今の自分でさえ両親は誇りに思っている事を。それでも自分への不甲斐なさから、父親に顔を合わせるのを躊躇させた。
「温かい」
鈴木は自室の布団に包まれると、物理的な温度だけではないものを感じながら眠りに就いた。
「そこの方」
流浪を続けていた鈴木に一人の神託者が声を掛けて来た。
「宗教なら他所でやれ」
鈴木がボソリと返事すると。
「待って下さい」
慌てて駆け寄る若き神託者。
ザワザワ
与える者が慌て走る様子は周辺に居合わせた人々を驚かせるには十分だった。
「貴方はこれから」
神託者が言い終える前に立ち去ろうとする鈴木。
「ちょっと!ちょっと待って!」
明らかな体格差があるのに必死に歩みを阻もうとする神託者。
「貴方は!これから!ハデスに!向かって!下さい!」
鈴木は何事も無かった様に歩き続ける。
「伝えましたからねー!行かなかったら大変な事になりますからねー!!」
若き神託者は大声を張り鈴木の背中を見送った。
肌に染みる寒さが和らぎ、太陽が上着を温め過ごし易くなる頃、鈴木はポセイドンの辺境にある集落に滞在していた。
「旦那、良いのが入ったから食べてくれよ」
「あんた、いつもボロ着てるから作っといたよ」
ある日、神託者を失った集落を助けて以来、気の良い村人達に誘われるがまま、腰を落ち着かせた鈴木は村人から神託者程では無いが、慕われ敬われる存在となっていた。
「そう言えば、この村にとうとう冒険者ギルドが出来るって話だよ」
「アタシは反対だよ!冒険者なんかが入り浸ったら治安が悪くなる」
「いんや、私は賛成だね!冒険者が常駐してくれたら神託者様が不在のこの村にとっては天の恵みさ」
あーだこーだと井戸端会議中のマダム達が舌戦を繰り広げる中、一人の通行人が議論を終結させた。
「こんな田舎にギルドなんか出来る訳ねーべさ。出来んのは冒険者専用の宿泊所。金にならない場所にギルドなんか作る訳ねだろ。お前達は田舎者だな、ははは」
「村外れのゴンゾに馬鹿にされるなんて!」
「でも言い分は最もだよ。。」
井戸端会議のマダム達は井戸から水を汲み終えると各々の家に帰って行った。こんな平凡な日常の噂話とは裏腹に鈴木の耳には入って来ていないが、大陸を揺るがす大事件が起こっていた。その大事件を知る事になるのはもう少し後のお話。




