噂話
自宅に着き汗を流す為に、シャワーを浴びる。火照った身体をぬるま湯で冷ますと、牛乳を一気飲みする。一息着いたところでソファーに寝転んで歯磨きを行う。明日は休みだ映画でも観たいところだが、まぶたが熱くて重い、夜更かししたい気持ちはあるが眠い我慢出来ない。
「眠い寝る」
鈴木が目をゆっくり開くと宿屋の壁が入ってきた、寝返りをうつとアンナが寝息を立て眠っていた。鈴木はベッドの掛け布団をそっとアンナにかけるとフロントに向かった。
「おお、起きたか。おはよう」
宿屋の主人が鈴木を見つけると挨拶がてら体調を確認した。
「昨日はありがとうございました、宿泊費は必ずご用意します」
「いいって気にすんな、困った時はお互い様だ」
宿屋の主人はニカっと笑うと優しい口調で返事した。鈴木は一礼すると部屋に戻り冒険の準備を整えアンナを置いてハデスを出た。
「狩りの時間だ」
鈴木は見つけるモンスターを片っ端から、退治していく。3時間程で銀貨を53枚回収した。鈴木は戦闘である事に気づく、アシッドレインで敵を倒すと溶けてしまいお金をドロップしないのだ。一匹一匹ミハイルで焼き、斬り倒していくしかないようだ。一宿分稼いだのでとりあえず宿屋に戻り主人に昨晩分の宿泊費を支払い終えると部屋に戻った。
「太助さん!どこに行ってたんですか?」
アンナが起きていてビシッと身なりを整えていた、鈴木は狩りを行い路銀を都合していた事を説明すると。
「申し訳ないが、今日の宿泊費もままにならんのでモンスター狩りについて来てくれ」
「水くさいですよ、私達パーティーなんですから遠慮なんかしないで下さい」
アンナの膨れっ面が笑顔になると、満開の桜を見ているような美しさと活気に溢れた姿を連想させる。自分を信じ、付いてきてくれるパーティーメンバーにこれ以上あんな思いをさせてはいけない、鈴木はそう固く誓うのだった。腹が減っては戦は出来ぬ、二人は朝食を食べに裏の店にやってきた。厨房の女将さんが昨日と変わらず優しく出迎えてくれる、二人が席に着き料理を待っていると何やら気になる噂話をしている席がある。
「おい聞いたか?魔王十将軍の代替わりがあったらしいぜ」
「知ってるよ、朝からその噂でもちきりだろ」
「新しく十将軍になった魔王はなんでも規格外に強いらしい、魔神になるかもしれないってよ」
「はーこの世の終わりだね、王様はどうする気なのか、亜人王なんかと争ってる場合じゃねーっての」
「最近野良が増えたのもそいつのせいだろ、商売で北の都ガイアに行かないといけないのに、おちおち外にも出られやしない」
「勇者は何してんだ、ってか勇者って実在するのか?一回も会った事も無いんだが」
「勇者は中央都市の王都ゼウスに団体でいるって話だぞ、ゼウス王が片っ端から貴族の称号と富、女や男を与えて私兵として囲ってるんだと」
「本当かよ?」
「ゼウス近辺でモンスターも亜人も魔王もいないのはそういう事」
「自分達が良ければそれでいいのか、中央の奴らは貴族から王まで腐ってやがる」
「しっ!滅多な事は言うんじゃない、奴らスパイをどこに送ってるかもわからん、ゼウスに入国した途端に反逆罪で捕まったら裁判無しに死刑だぞ」
「世も末だな」
朝から項垂れながら酒を飲む行商人らしき男達は支払いを終えると店を後にした。しばらくして料理が運ばれてくる。
「いただきます!」
アンナは元気良く挨拶をすると髪をかきあげながら、スプーンでスープを啜った。鈴木はテーブルの中央に置かれたパンに手を伸ばし鼻に近づけると香りを嗅いだ。
「美味そうだ」
パクっと口に入れるとパンの甘みや香ばしさが広がり味覚が美味であると報告してくる。鈴木はその報告を無言で頷きながらもう一口もう一口と食べ進めた。
「ご馳走さまでした」
テーブルに置かれた料理を残す事なく、食べ切るとアンナと鈴木は銅貨一枚を渡して店を出た。2、3歩歩いたところで女将に声をかけられた。
「よかったらコレ持ってお行き」
カゴにはパンにソーセージとトマト、チーズがサンドされている。所謂お弁当をくれた。
「いいんですか?」
「見ていて食べっぷりがいいからね、遠慮しないで」
「ありがとうございます」
鈴木とアンナ両名は女将に一礼すると、ハデスを出た。
「早速魔物退治と行きましょう!」
「待ってくれ」
やる気満々になっているアンナを一度制止する。
「どうしたんですか?」
「さっきの話しを聞いていたか?」
「野良が増えたって話しですよね」
「ああ、絶対遭遇したくない相手だ。気をつけよう」
「わかりました、視界が開けている所にいれば近づかれる前に逃げられるので、深追いしないようにしましょう」
鈴木とアンナは意思疎通を図り、本日の宿泊費を稼ぐ為、ハデス周辺での魔物狩りを始めた。




