五年の月日
遡る事、鈴木が千年前の魔神大戦へと赴く少し前。武闘会から五年の月日が流れていた。
「将軍、こちらでしたか」
「ああ、すまない。どうかしたか?」
「陛下がお呼びです」
「...そうか。直ぐに支度をする」
「はっ!」
鈴木は漆黒の兜鎧を身に纏うと足早に王城へと向かった。鈴木を背に乗せ歩くジークフリードは誇らしげに見える。アドニスより返還された強馬は一段と逞しくなり、洗練された気品と威厳を兼ね備えるまでに成長していた。
「ありがとう、少し休んでいてくれ」
戦友に話しかけるように鈴木はジークフリードを労る。ジークフリードを一撫ですると鈴木は煌びやかなゼウス城へと登城した。
「良くぞ参った。死神将軍」
鈴木が跪く先には、ゼウス王が居り、支配者の高みから見下ろしながら声を掛けた。
「お呼びと聞き馳せ参じました」
「殊勝なり。では早速だが本題に入ろう」
ゼウス王の横に控える宰相が話し出した。
「今日まで其方は高給をゼウス王陛下より賜り、ゼウス国の一近衛騎士から将軍職、また男爵位も頂き厚遇を受けて参った。ゼウス国に対して陛下に対し忠誠を示さねばならん」
「はっ、ゼウス王陛下には厚くご温情を頂いております。私如き微力ではありますが、必ずや王陛下のお役に立って見せましょう」
「ならばゼウス国の南東、自治を主張する豪族どもが騒いでおる。彼奴らを黙らせよ、勧告もしくは必要であれば武力にて制圧しても構わん」
「.....」
「将軍?如何致した」
「かしこまりました!必ずや解決して参ります」
「ならば兵は一万程与えよう」
「宰相様、私を侮って貰っては困ります。地方豪族如き、100騎いや30騎居れば十分です」
「ははは、やはり堪らんな。其れでこそ一騎当千、万夫不当の騎士よ。だからお前には凡人では一生稼げぬ程の賃金を、一度の戦に出すだけの価値がある」
ゼウス王は満足そうに鈴木を見つめる。
「貴様の忠誠心を見せよ」
「はっ、直ちに出立致します」
数日の後
「おい、聞いたか?死神将軍がまた地方豪族を根絶やしにしたそうだぞ」
「ああ、村を全て焼き払い。追従した騎士達が余りの残酷な行いから吐いたそうだ」
「さすが死神だ。あの成り上がりが来てから幾つの村や街が滅んだか」
「汚れ仕事がお似合いさ」
「おい!」
噂をしていた文官達の後ろを鈴木がすっと通ると、文官達はばつの悪そうな顔で苦笑いで愛想笑いをする。
「失礼」
鈴木は軽く会釈すると歯牙にもかけぬ態度で通り過ぎた。
「ふん!人殺しの下民が」
「地獄に落ちろ」
文官達の陰口が聞こえるが、鈴木にはハエの羽音程度にしか聞こえなかった。出世は妬み嫉みを集めるが、大志を持つ者には陰口を真に受け聞いている暇は無いのだ。カツカツと鈴木の踵が鳴らす足音が矮小な話声を掻き消す。
「見事だ。今回は火攻めか、中々良い趣味をしておる」
「有り難きお言葉」
「それにしても、豪族の遺体はおろか骨まで無いのはどう言う事か?」
宰相が訝しい目で鈴木を睨む。
「申し訳ございません宰相様。我がインフェルノは骨を焼き尽くす故、戦場に残らないのです。もしも宰相様の趣味に合わないのであれば、今度から一人一人串刺しにして村の入り口に飾りましょう」
「う、うむ。王陛下が喜ぶ事をする事が、我ら臣下の喜び。謀反人どもは骨さえも残らぬよう、存在を消しされ」
宰相はゼウス王へ一礼してご機嫌を取る。
「そうだ。将軍」
思い出したかのように鈴木にゼウス王が話しかける。
「はっ!王陛下」
「お前をゼウスの軍最高幹部へとしたいと思っておる」
「身に余る光栄」
「その前に一つして欲しい事がある」
「なんなりと」
「ガレスに謀反の兆しがあるのだ」
「それは何かの間違いでは!?」
「いや間違いない。密偵の報告で軍備を不当に強化している。また一度交戦までしているのだ」
宰相が口を挟む。
「そこよ。非情なる死神将軍が未だ古巣のガレスとなると、人間に戻ってしまう。将軍、私はな人間の将など腐る程持っておる。欲しいのは死神の将軍なのだ、分かるな?」
いわゆる踏み絵だ。鈴木はゼウス王に試された、元の主君を手に掛け身も心もゼウスへ捧げる覚悟はあるのかと。
「我が忠誠は唯一人に」
鈴木はゼウス王へ頭を垂れる。
「そうか。それを聞けて安心した」
ゼウス王は満足そうに満面の笑みを浮かべると。
パンパン
二度手を叩く。すると一人の女性が連行されて来た。
「ならばこの魔女も斬れるな」
ゼウス王と鈴木の間に連れてこられた女性はアドニスだった。
「この魔女は属国の姫でありながら男装して、ガレスの謀反を煽りゼウスを危険に晒したのだ。今、私にお前の忠誠を見せてくれ」
「かしこまりました」
鈴木は躊躇う事なくアドニスへと歩み寄る。
「タスケ様、どうか目をお覚まし下さい。ゼウス王は民を虐げ私腹を肥やす奸賊です」
「ガレスの雌犬が吠えよるわ」
ゼウス王は自分が用意した座興を心から楽しむ様に和かだ。
「さあ、死神将軍。ゼウスを取るか、ガレスを取るか選べ」
「その様な事、悩む必要もありません」
鈴木は腰から剣を抜くとヒュンとアドニスの首に下ろした。




