表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/352

五年の月日

遡る事、鈴木が千年前の魔神大戦へと赴く少し前。武闘会から五年の月日が流れていた。


「将軍、こちらでしたか」


「ああ、すまない。どうかしたか?」


「陛下がお呼びです」


「...そうか。直ぐに支度をする」


「はっ!」


鈴木は漆黒の兜鎧を身に纏うと足早に王城へと向かった。鈴木を背に乗せ歩くジークフリードは誇らしげに見える。アドニスより返還された強馬は一段と逞しくなり、洗練された気品と威厳を兼ね備えるまでに成長していた。


「ありがとう、少し休んでいてくれ」


戦友に話しかけるように鈴木はジークフリードを労る。ジークフリードを一撫ですると鈴木は煌びやかなゼウス城へと登城した。


「良くぞ参った。死神将軍」


鈴木が跪く先には、ゼウス王が居り、支配者の高みから見下ろしながら声を掛けた。


「お呼びと聞き馳せ参じました」


「殊勝なり。では早速だが本題に入ろう」


ゼウス王の横に控える宰相が話し出した。


「今日まで其方は高給をゼウス王陛下より賜り、ゼウス国の一近衛騎士から将軍職、また男爵位も頂き厚遇を受けて参った。ゼウス国に対して陛下に対し忠誠を示さねばならん」


「はっ、ゼウス王陛下には厚くご温情を頂いております。私如き微力ではありますが、必ずや王陛下のお役に立って見せましょう」


「ならばゼウス国の南東、自治を主張する豪族どもが騒いでおる。彼奴らを黙らせよ、勧告もしくは必要であれば武力にて制圧しても構わん」


「.....」


「将軍?如何致した」


「かしこまりました!必ずや解決して参ります」


「ならば兵は一万程与えよう」


「宰相様、私を侮って貰っては困ります。地方豪族如き、100騎いや30騎居れば十分です」


「ははは、やはり堪らんな。其れでこそ一騎当千、万夫不当の騎士よ。だからお前には凡人では一生稼げぬ程の賃金を、一度の戦に出すだけの価値がある」


ゼウス王は満足そうに鈴木を見つめる。


「貴様の忠誠心を見せよ」


「はっ、直ちに出立致します」


数日の後


「おい、聞いたか?死神将軍がまた地方豪族を根絶やしにしたそうだぞ」


「ああ、村を全て焼き払い。追従した騎士達が余りの残酷な行いから吐いたそうだ」


「さすが死神だ。あの成り上がりが来てから幾つの村や街が滅んだか」


「汚れ仕事がお似合いさ」


「おい!」


噂をしていた文官達の後ろを鈴木がすっと通ると、文官達はばつの悪そうな顔で苦笑いで愛想笑いをする。


「失礼」


鈴木は軽く会釈すると歯牙にもかけぬ態度で通り過ぎた。


「ふん!人殺しの下民が」


「地獄に落ちろ」


文官達の陰口が聞こえるが、鈴木にはハエの羽音程度にしか聞こえなかった。出世は妬み嫉みを集めるが、大志を持つ者には陰口(雑音)を真に受け聞いている暇は無いのだ。カツカツと鈴木の踵が鳴らす足音が矮小な話声を掻き消す。


「見事だ。今回は火攻めか、中々良い趣味をしておる」


「有り難きお言葉」


「それにしても、豪族(反逆者)の遺体はおろか骨まで無いのはどう言う事か?」


宰相が訝しい目で鈴木を睨む。


「申し訳ございません宰相様。我がインフェルノ(業炎)は骨を焼き尽くす故、戦場に残らないのです。もしも宰相様の趣味に合わないのであれば、今度から一人一人串刺しにして村の入り口に飾りましょう」


「う、うむ。王陛下が喜ぶ事をする事が、我ら臣下の喜び。謀反人どもは骨さえも残らぬよう、存在を消しされ」


宰相はゼウス王へ一礼してご機嫌を取る。


「そうだ。将軍」


思い出したかのように鈴木にゼウス王が話しかける。


「はっ!王陛下」


「お前をゼウスの軍最高幹部(大将軍)へとしたいと思っておる」


「身に余る光栄」


「その前に一つして欲しい事がある」


「なんなりと」


「ガレスに謀反の兆しがあるのだ」


「それは何かの間違いでは!?」


「いや間違いない。密偵の報告で軍備を不当に強化している。また一度交戦までしているのだ」


宰相が口を挟む。


「そこよ。非情なる死神将軍が未だ古巣のガレスとなると、人間に戻ってしまう。将軍、私はな人間の将など腐る程持っておる。欲しいのは死神の将軍なのだ、分かるな?」


いわゆる踏み絵だ。鈴木はゼウス王に試された、元の主君を手に掛け身も心もゼウス()へ捧げる覚悟はあるのかと。


「我が忠誠は唯一人に」


鈴木はゼウス王へ頭を垂れる。


「そうか。それを聞けて安心した」


ゼウス王は満足そうに満面の笑みを浮かべると。


パンパン


二度手を叩く。すると一人の女性が連行されて来た。


「ならばこの魔女も斬れるな」


ゼウス王と鈴木の間に連れてこられた女性はアドニスだった。


「この魔女は属国の姫でありながら男装して、ガレスの謀反を煽りゼウスを危険に晒したのだ。今、私にお前の忠誠(誠意)を見せてくれ」


「かしこまりました」


鈴木は躊躇う事なくアドニスへと歩み寄る。


「タスケ様、どうか目をお覚まし下さい。ゼウス王は民を虐げ私腹を肥やす奸賊です」


「ガレスの雌犬が吠えよるわ」


ゼウス王は自分が用意した座興を心から楽しむ様に和かだ。


「さあ、死神将軍。ゼウス()を取るか、ガレス(過去)を取るか選べ」


「その様な事、悩む必要もありません」


鈴木は腰から剣を抜くとヒュンとアドニスの首に下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ