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超絶エリートの俺が異世界に行くなんて  作者: 吟遊詩人F
冒険と変わりゆく日常
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思わぬ再会

ブクブク、ブクブクブク


「っぷはっー死ぬかと思った!」


鈴木は湯船から勢いよく出た、何時間入っていたのだろう。指がしわしわになり全身がふやけている。湯船に張ったお湯は時間と共にぬるま湯となり、鈴木の身体は冷えていた。


「さぶっ」


鈴木は夏なのにエアコンの暖房を入れ、暖かいココアを入れるとリビングの時計を見た。時刻は深夜の3時、湯船で5時間くらい寝ていたようだ。


「疲れてるのかな?」


鈴木は寝ぼけていたのか疲れているのかな、からの不用意による栄養ドリンクで眠気を飛ばし目がギンギンに冴えてしまった。こんな時間に起きても困るなーと思いつつテレビをつける。案の定こんな時間に放送されているのは通販番組くらいで。


「いや欲しくなるよ、なるけどそうじゃない」


そう言ってチャンネルを回してみる、鈴木の目にある番組が留まる。その番組はヒーリング効果のある音楽をかけながら雄大な景色を見せるもので鈴木はとても癒された。雲海に浮かぶ城の美しさはあのハデスに見劣りしないもので、もしかしてここも中に入ったら危ないのかもと有り得ない事を想像しながらボーっと見ていた。そうしているうちに朝のニュースが始まり、猫なんかが出てきちゃって、朝の占いも見ちゃってから仕事に行く準備を始めた。


「なんだろうこんなに心が穏やかな気分になったのは何時ぶりだろう」


鈴木は勤務している病院へ向かった。


「鈴木先生、おはようございます!」


「後藤さん、おはようございます」


「おはようございます」


「村山さんおはようございます」


鈴木は一人一人に丁寧に笑顔で挨拶を返した。患者にもただ事実だけを突き付けるのではなく、患者に寄り添いながら話しを聞いてあげた。


「最近の鈴木先生ってどうしたのかしら?」


「患者さんにもすこぶる評判が良いですよ」


「人が変わったみたいね」


ナースステーションではひと段落ついた看護師達が談笑していた。鈴木が入って来ると看護師達がヤンヤヤンヤ言ってくるので、カルテを回収するとそそくさと離れた。鈴木が回診に向かう途中、田中看護師長から呼び止められた。


「鈴木先生、あのー」


「どうしました?」


「例の患者さん、個室に移してあげられないでしょうか?実は」


田中看護師長が話し終える前に鈴木は即答した。


「ああ、あの人ですね。いいですよ個室に移動して下さい」


田中看護師長は驚いていたが、表情が明るくなり。


「あの患者さん、聴覚過敏の持病をお持ちで苦しまれていましたので」


田中看護師長は鈴木に何度もお辞儀して患者の部屋移動の手配をしに去って行った。田中看護師長の後ろ姿を見て宿屋の主人の事を思い出した。


「田中さん、あなたも立派な人だ。他人にそこまで心を砕けるなんて尊敬しますよ」


鈴木が回診を一通り済ませると刑事がやってきて、一課と名乗った。その後高木の事を根掘り葉掘り聞いてくるのに何が起こったのか全く教えてくれなかった為、鈴木は事実だけを伝えた。勤務態度は真面目、女遊びは自分と同じくらい派手だったが人様に迷惑をかけるような人物では無いと。刑事は事情聴取を取り終えると警察署に帰って行った。


「鈴木先生、どうでした?刑事さん」


刑事達は他の人からも事情聴取をしていたらしく、その事が病院内で噂で持ちきりになっていた。


「どうもこうも高木が何したって言うんですか!警察は何も言わないくせに」


中年の外科医が声を潜める


「噂ではあの日に運び込まれた大学生達が関係してるって話しですよ」


「そんな事、あいつが...」


鈴木は否定しようとしたが所詮他人、プライベートで何してるのかわからない、本当に違うと断言出来るのか言葉を詰まらせた。


「まったくいい迷惑ですよ。病院のイメージや品位に傷をつけられて」


中年の外科医はそう言うとまた他の外科医に話しかけていた。裏付けもしていない噂をペラペラと口の軽いオッサンよりも高木の方がよっぽど信用出来る。


「あいつとは悪友というか碌な事をしてこなかったけど、俺と違って人を傷つけるような事はしなかった」


鈴木は誰に言うでも無く、高木を擁護した。


一仕事を終えて鈴木はファストフード店にドライブスルーで入り晩ご飯を購入して車内で済ませた。少し期待していたが、やはり味が薄いというかしないような気がする。腹だけを満たし帰路に着いた。


「少し腹ごなしにランニングでもするか」


鈴木は明日は休みの為、サウナスーツを着ると夜中の住宅街を疾走した。息が苦しくなるほど全力疾走、頭が空っぽになるくらい走り続ける。家族の事を思い出しそうになると、自分を追い込む様に身体を痛めつける。そうする方が圧倒的に楽だからだ、鈴木は吐きそうになるくらい息が荒い様子だが、ゆっくり深呼吸して息を整えるとジョギングくらいの負荷で運動を再開した。


「ちょっと離してよ!」


「来いっつてんだろ」


繁華街の往来で男女が痴話喧嘩をしている。鈴木が走りながら、ちらっと男女に目線を向けると見た事のある顔がいた。


「このクソアマ、ヒィヒィ言わせてやるよ」


男が女性を車に連れ込もうとした時、鈴木が男の手首を掴み男の横暴を止めた。


「見っともない真似はやめた方が良い、嫌がってるだろ」


「あなた」


女性は鈴木に気づくと安堵と驚いた感情が入り混じった表情を浮かべていた。


「かっこいいねーお兄さん。自殺志願者なのかな」


男が車に合図すると、車に乗車していた暴漢が三人程降りてきた。


「何々やっちゃう?」


「うぜーな早くこいつ殺して、そいつ拉致ろうぜ」


なかなか体格の良い男達が鈴木に凄む。夜とは言え繁華街の道で騒ぎを起こしてるんだ、警察がすぐ来るだろうと高を括りつつ鈴木は男の手首を返し地面に倒した。


「痛ってー」


倒れた男の顎に一撃を入れる、あえなく暴漢の一人は気を失った。


「なんだこいつ、やっちまえ!」


三人いる中で囲まれてしまう前に鈴木は前に出て、二人目の鼻に肘を入れ激痛のあまり顔を低くした瞬間、かかと落としを見舞う。開戦の火蓋を切ってからものの1分にも満たない時間で暴漢二人は失神した。余りの早業と戦力が半分に低下した事により暴漢達の戦意はほとんど失せていた。鈴木がキッと睨みつけると及び腰になって、暴漢達は互いにいくように焚きつけた。


「来ないなら行くぞ」


鈴木が暴漢に凄むと、暴漢達は失神している二人を回収し悪態を吐きながらそそくさと退散した。


「大丈夫?」


道に座り込んでいる女性の手を引き、立ち上がらせると道に散乱した女性の荷物を拾い始めた。


「あの、ありがとう」


「当たり前の事をしたまで」


ひとしきり落し物を拾い終えると、サイレンが近づいてくる。誰かが通報したようだ、鈴木がサウナスーツのフードを被り直すと。


「じゃあ」


鈴木はジョギングを再開して走り去った。


「大病院の跡取りでこんなに強いなんて反則よね」


女性の熱視線に背中を焦がしながら、鈴木は自分の行動と判断に困惑していた。普通に考えれば傍観し警察が来るのを待っているのがセオリー。または通報しナンバーを伝えるのがベスト、しかし実際は暴力で解決した。打算はあったが何故そんな事をしてしまったのか、知っている女だったから?父親に文武両道をプログラミングされ勉学だけではなく、合気道や空手、柔道に剣道もみっちり仕込まれた故にあんな見てくれだけの半端者に負ける訳が無いという自負なのか。鈴木は熱くなる鼓動を全身に響かせながら自宅への帰路を全力疾走した。

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