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囚われの姫君

「あああ」


義妹(エメラルダマリー)は目を真っ赤に充血させ頬を濡らした。


鈴木の後をユミ、アルテ、カルロが続く。


「私が倒すわ。女の敵!」


「主の前に立ちはだかる障害は全て排除します」


「別に誰でも良いけど、さっさと殺っちゃおうよ」


「コイツは俺がやる」


「馬鹿が!お前等雑魚が幾ら群れようとも俺を殺す事など」


道化師が止まる。いや、部屋全体が止まっているようだ。唯一、男だけがゆっくり動いている。


「で..........き.........ま.......!!!」


鈴木のリピートアクセラレーションの速度に対応出来ず、道化師の魔王は胴体をふき飛ばされた。


「兄様...」


道化師の魔王はその後何度も立ち上がるが、ユミやアルテ、カルロの手に掛かりやがて消滅した。


「来い!我が愛しき妹よ」


「はい!私は貴方の兄妹分身、兄様が居なくなっても必ず貴方を見つけてみせます。だから私は悠久の刻を生きて、形が変わろうとも側に置いてもらえますか?」


「当たり前だろ!俺に付いて来い」


鈴木はエメラルダマリー(囚われの姫君)に力強く応えた。


魔神が顕現して一年、世界は荒廃し人類は滅びに抗っていた。魔獣や魔物は跋扈し、魔王が暗躍している時代。とうとう人類は最後の聖戦に挑むべく、聖騎士団連合(マテリオール)を結成。一点集中突破による進軍を開始した。この戦は千年後(後世)に聖書として綴られるが、本とは違い苛烈を極め、血生臭い戦いであった事は知られていない。


「ここまでは簡単に来られましたね」


「そりゃ、マテリオール様達が道を作ってくれてるから楽だわな」


「しかし此処からは気を抜けないわ。魔神を支持する魔王達が支城を固めているだもの」


鈴木達一向の先には魔神城の南を守護する支城が不気味に立ちはだかっていた。カルロがコロコロと音を立てて鉄球を片手で回しながら城の様子を窺う。


「カルロ、それ気になる」


「すまん。癖なんだ勘弁してくれ」


「とは言うものの、ここで立ち往生しても話が進まない。行くしかないだろう」


鈴木の言葉に仲間()が頷く。出来るだけ激戦区を避け、敵兵に見つからない様に進む。時には不可視のスキルでステルスキルをしながら、着々と支城へと辿り着いた。


「静かだな」


攻城戦真っ只中にありながら、平時の様な穏やかな空気が城内を包んでいた。


ゴクゴク


鈴木は荷物袋から水筒を取り出し喉を潤した。休憩は重要だ、小休憩を挟み進軍を再開する。鈴木達は不思議に思っていたが、支城の最上階に到着した時、納得した。それは覇気。部屋から漏れ出る強者のオーラが足を竦ませた。実質よりも重く感じる扉を開くと、身の丈大きな重装騎士が玉座に座っていた。


「よくぞ辿り着いた。我、自ら相手をしてやろう」


重装騎士が立ち上がると2メートルを超える身長に、重そうな武具が威圧感を放つ。


「我が名はゼッド。我こそが魔神を殺す者なり」


ゼッドはツヴァイヘンダーの様な大剣を構え、四人と対峙した。


「皆さん、マテラの御加護を」


アルテにより身体能力強化スキルが付与される。カルロが同時にゼッドに渾身の力で大戦斧を振り下ろしたが、難なく片手で受け止められ逆に弾き飛ばされた。


「ふっ!」


カルロが遮蔽物になり死角となった影からユミが、刹那の一閃を繰り出す。兜と鎧の間を見事に通し、首を刎ねたかと思った瞬間。


ゴッ!


ゼッドのガントレットがユミの鳩尾にめり込む。


「かはっ!」


ユミは2、3メートル後ろに殴り飛ばされた。


「大丈夫ですか?」


アルテはユミに回復魔法を掛けた。


「ふしゅーーー」


室温が低いせいか兜の隙間からゼッドの吐く息が白く漏れ出た。


「インフェルノ!」


ゴオオオ!


業火がゼッドを激しく燃やし尽くそうと猛るが。


ドス、ドス、ドス


草木を掻き分ける程度にゼッドは鈴木の炎から容易に出た。


「なら」


鈴木はアクセラレーションで鎧の連結部の隙間を剣で狙い刺し込んだ。が確かに隙間に入っている、入っている筈なのに金剛鋼を斬り付けているかの如く、全くゼッド身体を貫ける気がしない。


バジーン!


ゼッドの張り手で鈴木の体が少し浮き、受け身を取れず大きくぶっ飛んだ。


「太助様!」


「大丈夫、ユミを頼む」


鈴木はアルテに支持を出し、ゼッドを警戒した。ユミのダメージは大きかったが、アルテの回復魔法のお陰でもう少しで戦線復帰出来そうだ。


「その程度で魔神に挑もうと言うのか?我でさえ倒す事能わず。それは我に対する不敬である死ぬがいい」


ゼッドから禍禍しい闘気が放たれ、部屋全体の空気を重くした。


ガン!!


「しゃっ!どうだ馬鹿野郎」


カルロの奇襲によりゼッドの兜が弾け飛ぶ。


「そんな...」


鈴木達一向は目を疑った。そこに立っていたゼッドと言う()には、鱗と角があり人ならざるものだった。


「竜...人...」


遥か太古に絶滅した筈の亜人。絶対強者にして食物連鎖の頂点である竜の血族である。竜人は見た目が人に近いが、竜の外見も混ざり初めて見た者でも、それが竜人である事を理解させる雰囲気(オーラ)を纏う。


「何故?竜人が...」


ゼッドの正体を知った鈴木を除く三人が、戦意喪失状態に陥り掛けた。


「立て!」


鈴木が奮い立たせようとする。


「立て、ここで挫ければ待つのは死だ。戦え!」


鈴木のスキルで若干士気を戻したが、竜人との対峙は絶望感を煽った。


「竜人がナンボのもんじゃーい!」


鈴木は一撃二撃三撃と剣撃のコンボを決めるが、ゼッドは蚊に刺されたかの様に、撃ち込まれた箇所をポリポリと掻いてアクビした。


「矮小で愚かな猿よ」


ゼッドはアクビをしていた口から炎を吐き出した。


「あっつ!アチチ」


鈴木は体に燃え移った炎を転がりながら消火した。

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