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神の僕

「...そうね。一回退きましょう」


深呼吸して冷静さを取り戻したユミは鈴木の助言に従い退却した。


「待て!逃げるのか?」


キングサイクロプスギガントが挑発してくるが、聞こえない振りをして空き家に隠れ、時間稼ぎをする。


「大丈夫か?」


「ええ、少し擦り剥いたくらい」


ユミが擦り剥けた肘を見せる。


「これで消毒をしておいた方が良い」


鈴木はポケットから薬品をユミに投げて渡す。


「ありがとう...」


「それにしてもアルテさん、そろそろ方陣の完成してくれないかな。流石にキツくなってきた」


「もう少しの辛抱、頑張りましょ」


ユミが弱気の鈴木を元気づけていると。


バキバキバキ


屋根が剥ぎ取られキングサイクロプスギガントが顔を覗かせた。


「見つけたぞ虫どもめ」


キングサイクロプスギガントは空き家の家屋ごと、2人を潰す様に斬撃を繰り返した。崩れ落ちる家屋から鈴木とユミは大急ぎで脱出する。


「ふん!虫にしてはやりおる。だがこれは防げるか?」


巨大な口から火球が生成され、猛烈な速さで吐き出す。避け切れないと悟ったユミは神経を集中させると。


「やっ!」


(夜桜)で火球を正面から切り裂いた。


プスプシュー


ユミの服から煙が昇り、火球の熱さを物語っていた。


「大したものだ。我が攻撃を尽く防ぐとは、侮っていた事を謝罪しよう。女よ、次の一撃はお前への敬意だ」


キングサイクロプスギガントは四本の手で握る剣を振り回し、ユミを目掛けて突進した。


ドズン!ドズズン!ドドズズン!!


一歩また一歩近寄って来る度に足音が大きくなる。キングサイクロプスギガントがユミの眼前に迫る中、ハデス全体が淡い光を放ち青白く光った。


「これは...!?」


キングサイクロプスギガントが戦況が覆っている事に気付く頃には、くるぶしまで石化が進んでいた。


「な、何をした!?」


「間に合ったようだな」


「間一髪ね」


青白い光がキングサイクロプスギガントの身体を這い上がる様にゆっくりゆっくり包み込んでいく。


「クソ!何故この巨人の覇王である俺がやられねばならんのだ!!必ず必ず戻ってこの世界を征服し...て...や...」


キングサイクロプスギガントは完全に石の棺桶に封印され四角柱の石柱と化した。


「かなり際どい戦いだった」


鈴木が胸を撫で下ろしていると。


「お疲れ様」


ユミが少し疲れた顔をしながら鈴木に微笑みかけた。


「やばい、こんな若い娘に...」


「どうかしたの?」


「なんでもない!」


鈴木は顔が赤くなっている事を悟られない様に顔を背けた。


「あっ!お二人ともご無事でしたか」


アルテが一拍遅れてやって来た。


「グッジョブ!」


「ありがとうございます。助かりました」


「いえいえ、お二人が時間稼ぎしてくれていたから、何とかなったんですよ。此方こそありがとうございます」


今までゴーストタウンの様に人気が一切無かったのに、キングサイクロプスギガントが石柱と化した後、何処からともなくハデスの住人達が姿を現した。


「ありがとうございます。我々を苦しめていた巨人の王を倒して頂き」


代表者らしき人物が挨拶に来た。


「あの化け物は倒せてはいませんが、千年ほど目を覚さないので安心して下さい」


鈴木がやつれた代表者を優しく労う。


「今回あれを封印出来たのは、このアルテの功績です。礼ならアルテに言ってやって下さい」


「アルテ様、我々をお救い下さり誠に有難う御座います」


「マテラの信徒として当たり前の事をしたまでです。それより聞いても?」


「はい」


「宝物庫にある筈の聖具が見当たらないのですが、持ち運ばれましたか?」


「そんな!...申し訳ございません。あの混乱の中で自分達の命を守るので精一杯でした」


「不届き者には必ず天罰が下るでしょう。だから気になさらないで下さい」


謝罪するハデスの人々に優しく微笑み、振り返り鈴木とユミにしか表情が見えなくなると、アルテは般若の様な形相になっていた。


「1匹残らず見つけ出して天罰を与えてやる」


アルテが鈴木とすれ違う瞬間、かなり物騒な事を呟いていた。


「あっ!そうだ。その石柱を修復した神殿に納めておいて下さい」


「かしこまりました。必ず貴方様達の功績を忘れぬ為に、この石で石像を作らせて頂きます」


「それならアルテが一番重要な役割を果たしたので、彼女の像にして下さい」


「必ず」


二人がハデスを出るとアルテが何かしている。


「何をしてるんだ?」


「結界を強化してるんです。あれ程の怨霊を放置していたら一か月もしない内に、ゴーストや死霊を呼び寄せてしまいますからね」


アルテが外壁に印を付けて、膝をつきマテラに祈りを捧げると、ハデスを包む青白い光の輝きが増した。


「これで当分は大丈夫。ところで」


アルテは膝に付いた土を払いながら提案した。


「良かったら私もお供させて下さい」


「えっ!」


鈴木が驚いていると。


「貴方が来るのを待っていました。勇者よ、私は神の僕にして神託者です。貴方を導きましょう」


「アルテって神託者なの!?」


鈴木とユミが驚いていると。


「それに...貴方について行けば、神の宝物庫を荒らした不届き者を改心させるのに丁度良いんですよ。宝を取り戻したらハデスに戻り、より強固に保管しないと...」


アルテの口角は上がっていたが、目は笑っていなかった。

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