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騎士物語

「や、やめて」


捕縛された75%が村人から有罪の判決を受けた様だ。


「ありがとうございました」


「ここは戦場になっています。早く退避して下さい、ここより北西に向かって頂ければ安全に逃げられます」


「かしこまりました」


「村長さん」


「はい?」


オーディン兵(こいつら)の武具は回収して下さい。少しは損害の賠償になるでしょう」


「何から何までありがとうございます。騎士様もお気をつけ下さい」


戦火に巻き込まれた村人達は鈴木が指し示した北西へと移動を開始した。


「さて、生き残った諸君は獣では無いと言う事が証明された。おめでとう」


縄で身体の自由を奪われたオーディン兵達の前を鈴木は行ったり来たりして話かけた。一人一人の縄を丁寧に切っていく。


「この中に俺の軍門に下る者はいないか?」


鈴木の突拍子の無いスカウトにその場に居るオーディン兵は困惑した。


「戦争は人間の本質が出る。侵略した国の人間を自国民の様に扱える者は信頼に値する。戦争だから財産を奪っても良い、戦争だから家に火を付けて良い、戦争だから女性に乱暴を働いても良い。んな訳あるか!民間人を殺すな、犯すな、奪うな。それが出来る奴が俺は欲しい」


鈴木は兜を取り敬意を払って、その場にいるオーディン兵達の目を真っ直ぐに見据えた。


「馬鹿にするな!我々は誇り高きオーディンの国民だ。敵なんぞに寝返るくらいなら、この場で死んでやる」


「そうだ!そうだ!」


性根が真っ直ぐな者程懐柔は難しい。人を得るのは至難である。鈴木はニコリと微笑むと。


「そうか!ならば好きにすれば良い。お前達の同胞が村に迷惑をかけたんだ、連帯責任で武具は没収させて貰うが、後は本隊と合流するなりしろ。次に戦場で会った時は有無を言わさず命のやり取りだ」


鈴木は捕縛していた数十人のオーディン兵を解放すると道端に落ちている焼け焦げた人形を拾った。


「ふざけんな!何が戦争だ馬鹿野郎。やりたい奴が勝手にやってろよ」


鈴木は襲撃によって犠牲になった村人達を集めて、簡易聖油を作成した。油と十字架(クロス)を付けた水を混ぜ、聖油に火をかける。聖火に焼かれた村人達が白煙となって天へと還って行った。


「ムカつくな...」


鈴木はジークフリードを疾走させ、オーディン陣営の後方にある補給部隊を奇襲で叩いた。糧秣を奪い火をかける。途中にある占領された村々を解放しつつ、輜重隊と遭遇しては物資を奪い火を付ける。魔邪の湖畔戦が開始されてから3日目、漆黒の死神の噂がオーディン軍を席巻していた。


「不味いぞ。あと少しで魔神の使徒どもを全滅出来ると言うのに」


「開戦3日にして我が軍の食料が底を尽きかけていると言うじゃないか」


オーディン軍は魔邪の湖畔を囲む様に、両脇から侵攻してマリアンヌ軍をジワジワと押し込んでいたが、補給線を失い浮き足立っていた。


「失った糧秣は返って来ない。ここは大人しく退却しよう、魔王軍を侮っていた我々の負けだ」


「しかし、後もう少しです。食料は近くの村から徴収すれば」


「徴収?掠奪だろ。そもそも君は何故こんな事になったか聞いていないのか?」


「それは...」


「これ以上、後ろで暴れてる奴を刺激しない方が我々の身の為だ」


「魔王城まで後僅かのところで...」


総大将の副官が口惜しそうに呟くと。


「腹を空かせて戦うのかい?籠城戦はもっと時間が掛かるよ、まだ傷が浅い内に負けを認めて逃げよう」


「...かしこまりました」


冷静に退却の指示を出したのは今回の野戦における総大将聖騎士ザイオン。ザイオンの鶴の一声で圧倒的に優位であったオーディン帝国側の敗戦で幕を閉じた。今回の戦で何万もの大軍を一人の英雄が退けた事は誰も知らない。しかし救われた村人達が漆黒の騎士の物語を後世に末永く口伝した。


「貴様!何処へ隠れていた、この恥知らずめ」


帰陣早々、使者殿の罵倒から始まった。


「まあまあ。彼には遊撃隊で戦う様に指示したのは私なので」


「しかし、報告では戦中どこにも見当たらなかったと言うでは無いか!」


それはそうだ敵陣の後方に居たのだから、魔王軍がそこに居る訳が無い。


「さあさあ、勝利の宴といこうじゃありませんか」


文句を垂れ流す使者を上手く宥める魔王軍のアルツ将軍。去り際に目線で合図を送って来た、もしかすると鈴木の参戦(戦況が覆った理由)が分かっているのかもしれない。そんな雰囲気を醸し出しながらアルツは使者を連れ出してくれた。


「はあぁー、やっと煩いのが居なくなった」


途中何度か使者の首を想像で刎ね飛ばしてやったが、愚者の話ほど苦痛を感じるものは無い。鈴木は宴には参加せず、戦で共に大暴れしてくれたジークフリード(相棒)を労わりながらブラッシングした。


「気持ちいいか?」


この頃にはジークフリードは鈴木に心を許し、気持ち良さそうに身を委ねていた。


一夜空け。魔王軍の陣中が騒がしかった。


「このまま一気に!」


「それは無謀を通り越して無理です」


「退却している後詰めを追撃し、オーディン帝国の地を奪う好機ではないか!」


鈴木は使者がまた馬鹿な事言ってるなと思いつつ、聞かなかった事にしてゴリゴリと固い粗雑な保存食用のパンを朝食として食べた。中々飲み込めない、固い上に口の中の水分を容赦なく奪って来る。下手な敵兵よりも遥かに手強い朝食を倒して魔王軍の経過を見る。

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