予習復習、準備が大事
食事を終え席を立ち、支払いをしようとすると女店主に銅貨一枚を請求された。鈴木は察した、提携店の実質のモーニングサービスなのだと。満腹で店を出ようとすると女店主が声をかけてきた。
「また今日も宿に泊まってくれたら、ディナーは付いてくるからね」
商魂がたくましい、一礼すると店を出た。はっきり言って都心の超一流ホテルのロイヤルスイート位の宿泊費だが、戦場と化す場所で安全に休めて、元冒険者の主人から冒険に重要なアドバイスが貰える上に、飯が美味いとくれば納得せざるを得ない料金だ。鈴木は宿泊費の高さにモヤモヤがあったがコスパを考えると、とても満足した。
「美味しかったですね」
「ああ」
「また今日も泊まりたいです」
「そうだな、しかし路銀が馬鹿にならない、今日ハデスでお金が稼げなかったら街の外に出て野営するしかない」
「世知辛いですねー」
「だから昨日の失敗を糧に聖水とロザリオを買うぞ」
まず道具屋に入ると所狭しと物が置かれ、珍しいものが沢山あった。お目当ての聖水を買い溜めしたら、装飾品屋に向かった。
「ロザリオはここで買う事は出来ませんよ」
「えっ!?」
「ロザリオが欲しいのであれば、教会に寄付して下さい」
アクセサリー屋は棚卸しをしながら黎明の旅人を教会に誘導した。鈴木は朝の散策で見かけた教会へ向かうと神父にロザリオを譲って貰う為に寄付を申し出た。
一人金貨一枚、旅路で得た熊やら狐やら、いも虫やらを倒したお金が全て飛んで行った。これでお金が入らなかったら野宿確定になってしまう、お金に困った事が無い鈴木にとって、今の状況はカルチャーショックだった。
「なんとかロザリオを手に入れましたね」
「よし。これで準備は整った、夜まで待とう」
各自、夜に備えて武具のチェックや手入れを行い、あっと言う間に日が暮れ、逢魔時がやってきた。通りに人の気配は無く、不気味な骨の擦れる音が何処からともなく聞こえ始めると、黎明の旅人の前にまたCGの様に突然モンスターが現れた。鈴木はミハイルに聖水をかけると甲冑を着ている髑髏、スケルトンナイトに斬りかかった。聖水の効果かスケルトンナイトはカタカタカタと音を立て崩れ落ちた。次にゾンビと戦ったが火属性との相性も良く、易々と片付けた。一番警戒していたゴーストに憑依されそうになったが、その度にロザリオが輝きゴーストを退けた。
「まずい」
「どうしましたか?太助さん、どこかやられたんですか」
聖水をかけた杖でスケルトンやゾンビにフルスイングしている、アンナの問いに鈴木は答えた。
「こいつら、全然お金をドロップしないぞ」
「そういえば、そうですね銅貨ばっかり」
黎明の旅人が積み上げた死屍累々が消えた後には銅貨が残り、スケルトンナイトで銀貨10枚をドロップした。
「このままじゃあ、今日は野宿だな。テントを立て野営する必要が出てくる」
「それはちょっと嫌ですね」
アンナは眉をひそめると魔法の杖に更に聖水をかけ、杖を鈍器として振り回していた。野球選手の様に腰を入れてスイングする様は、形容するならメジャーリーガーだ。アンナはボウリングでストライクを取った時のような、ダイナミックで耳心地の良い音を出し続けた。
「ふぅー、ストレス発散には丁度良い運動ですね」
ある程度周辺のモンスターを片付けたところでアンナと鈴木は手分けしてドロップしたお金を回収した。山盛りだが所詮は銅貨、銀貨20枚にも満たなかった。ゾンビはドロップするだけマシで、ゴーストに至っては倒しても1円にもならなかった。周辺を見渡すがこの辺りのモンスターは一掃してしまったようなので、黎明の旅人は街の中央にある神殿に向かってみる事にした。道中何度もモンスターにエンカウントするが、対応策を講じた2人の敵ではなかった。割とスムーズに神殿に辿り着いた。
「あら、あなた達まだこの街にいらしたの?」
声の主を見ると、夜中なのに黄金に煌めくオーラは、流石一流冒険者と言っても過言ではないだろう。黄金郷の踏破者が神殿の入り口に立っていた。
「ここまで来れたという事はある程度準備をなさったようですわね。でもこれ以上進むのは強くお引き止め致しますわ。命を粗末にしたいならお好きになさって下さいな」
リーゼロッテは素っ気なく話すとスタスタと神殿の中に入って行った。カルも続き、アマンダだけは笑顔で会釈してくれると2人を追って神殿に入って行った。




