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虜のアドニス

拉致されたアドニスはマリアンヌが支配する地、アフロディーテ国に連れて来られた。


「ちょっと待っててねー」


マリアンヌは客人をもてなすかの様に菓子と紅茶を出した。


「ふふっ、ありがとう。貴方も綺麗よ」


アフロディーテ城は極めて異質で不穏だった。城下町は活気は無かったが人間が住んで居た。しかし城内に一歩踏み込んでからはメイドや城兵、庭師に至るまで誰一人として人間は居らず、木製の人形がマリアンヌ(彼女)の身の回りを世話していた。故にマリアンヌが話をしている様は側から見て不気味である。


「.....」


木製人形は返事を返さず、軽やかに一礼して立ち去った。


「お砂糖は?」


「殺しなさい」


「殺せとは穏やかじゃないなー。お姫様は人質だよ、簡単に殺す訳無いじゃん」


マリアンヌは木製人形が淹れた紅茶に砂糖を2サジ入れてかき混ぜた。


「ガレス父王は私なんかの為に判断を誤る愚王ではありません。無駄ですよ」


「そうかな〜、案外神託者を差し出すかもしれないじゃない。それよりティータイムなんだからお茶を楽しみましょうよ」


マリアンヌは甘めの紅茶を一口含むと軽く息を吐いた。


「.....」


アドニスは菓子様に出されたフォークを取ると自分の喉に向け突き刺さそうと自殺を図った。


「無駄だよー」


アドニスの動きに給仕担当の木製人形が、いち早く反応して自殺を止めた。


「離せ!」


暴れたアドニスが拍子に紅茶入りのカップを落とし割ってしまった。するとマリアンヌは無言で立ち上がりアドニスに歩み寄ると、暴れるアドニスを平手打ちにした。


「だから人間をお城に招くのは嫌なのよ。本当に汚いし臭いし鬱陶しい。アンタが死のうが生きようがどうでも良いんだけど、ここに居る時は立場を弁えなさいよね」


マリアンヌはアドニスの後頭部の髪を乱暴に掴むと眼前で説教した。


「しぬなら勝手に死ねば!でもアドニス(アンタ)が自殺してもしなくても何も変わらない。もっとガレスの人が苦しむだけだから、分かった!!」


マリアンヌは強い口調でアドニスを諫めた。


「これ以上騒いだら地下牢に打ち込むかんね!」


マリアンヌはアドニスの髪を離すと元の席に着座して黙々とディナーを食べた。アドニスは木製人形に連れられ客室を充てがわれた。良く手入れされマリアンヌ意外が居住していない事を忘れてしまいそうだ。窓や扉には鍵は掛けておらず、いつでも出入り出来る様になっており、侵入者や脱走者への自信の現れだろう。


「どうすれば...」


途方に暮れるアドニス。


その頃ガレスは国葬後の通夜の様に静まり返っていた。


「アドニス様を何とかお救い出来ないものか」


「ガレス王は何と軽薄な、実の娘を見殺しにするのか」


アドニスを心配する声が徐々にガレス王への不満に変わっていく。


「おい!貴様ら不敬だぞ」


「何だ?お前等だって兵士の癖にアドニス様を守りもしないなんて、税金泥棒が抜け抜けと寝言を吐くな」


「何だと!」


町の治安を守る衛兵隊とガレス王の判断を心良く思わない市民が一部で衝突を始めた。


「ええっと、あっち見て来てくれるか?」


「はい」


衛兵隊に配属している鈴木は治安維持の為、夜通しガレス城下を走り回った。鈴木が感じたのはアドニスの極めて高い人気、主君であるガレス王よりも、市民はアドニスに忠誠を誓っているのではないかと思うほどであった。


「馬鹿を言うな!陛下が我が子を愛していない訳が無いだろ!!」


一際大声で叫ぶ男が居た。


「陛下はお妃様を失ってから後妻も取らず、一人娘であらせられる姫殿下に愛を注いだのだ!貴様ら何も知らぬ者風情が知った口をきくな」


近衛隊隊長のジャンが市民と殴り合いの喧嘩をしていた。


「ちょっと落ち着きましょう」


鈴木が興奮するジャンを制止する。


「こ、これはお恥ずかしいところをお見せしました」


我に返ったジャンを見ながら、この礼儀正しく冷静な男をあそこまで怒らせるとはと鈴木は感心した。


「とにかく落ち着きましょう。国が割れかねない事態です」


「そうですね」


アドニスへの市民の忠誠心はかなり高く、このままだと暴動が起きかねない事態にまで緊張感が膨れ上がった。

一夜明け鈴木が城内を見回りをしていると奴隷にされていたエルフの親子を目にした。二人の親子は仲睦まじい様子でアドニスに保護された館の庭で幸せそうに暮らしている。


「あれほど人族からの施しを嫌がっていたのに、アドニスは何をしたんだ?」


鈴木はアドニスの人柄がエルフの親子の保護(それ)を成したのだろうと信じずにはいられなかった。鈴木はアドニスの人徳に敬意と興味を抱いた。


「アドニス姫を迎えに行くか」


鈴木は衛兵隊長に1日の休暇を申請し受理された。傭兵と言えど人員を減らしてしまう為、突発休みにせずにしっかりと休みを取得する。補填人員があるかは定かではないが、正直知った事では無い。それは衛兵隊長の仕事だ。


「そろそろ行くか」


面倒だと思いつつも、エルフの生き残りを保護してくれた恩返しとして、鈴木はアドニスの救出を決行する事にした。

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