リカバリーの価値
鈴木はこの一瞬、この為にリスクを冒し装備を外していた。格下相手にハヤトが気を緩め、攻撃が雑になるこの瞬間を。
「グギギ」
ハヤトは出血して手の甲の中頃まで裂けた拳を空に突き出して叫ぶ。
「おあいこだ、馬鹿野朗」
満身創痍の鈴木が不敵な笑みを返しハヤトを嘲笑した。オンリースイートにはハヤトの血がべったりと付き、光拳を発動していない唯の素手を易々と斬り割いた。
「な.に.が...おあいこだー!!ぶっ殺す...」
ハヤトの半分まで裂けた手からはダラダラと流血し、地面に小さな血の池が出来ていた。
「もう...殺す!絶対...殺す」
「語彙力無ぇーな、お前の辞書には殺すしか乗ってねーのか?」
鈴木は尚もハヤトを挑発する。
「殺す!!」
ハヤトは頭に血が昇り過ぎて我を失い猪突猛進で突っ込んで来た。
「アシッドスコール」
酸の豪雨がハヤトに襲い掛かる。
「馬鹿が!大いなる覇道を歩む者には魔法は効かねーよ」
ザザ降りのアシッドスコールを霧雨を受けるかの如く気にしないハヤト。
サーーー
アシッドスコールがハヤトの視界を一瞬奪うと鈴木の姿が消えていた。
「何処に行きや」
ハヤトが辺りを見回し鈴木を探していると、先ほど迄は消えていた鈴木が目の前に現れた。
「ふざけ...んな..よ。糞が」
ハヤトは鈴木に罵声を浴びせるが、既にハヤトの腹を槍が貫通している。
「助かったよ、オーバーロードは触れているものにしか作用しない。だろ?」
鈴木はハヤトとの戦いの中でインフェルノやアシッドスコールが発動した事、装備転送したものは消えず、不可視のスキルが通用した事からオーバーロードの攻略方法を見つけた。オーバーロードに有用な手段は騙し打ちの物理攻撃、寝込みを襲うのがベストだが今回は相手の油断を突いた奇襲で辛勝をもぎ取る。
「汚ねーぞ...」
「何とでも言え。そもそも襲って来たのはそっちなんだから、返り討ちにしただけだぞ」
鈴木はハヤトに突き刺さった槍を引き抜き、杖代わりにして立った。
「ぜってー、見つけ..出して殺し...てやる」
ハヤトは吐血しながら呪いの言葉を鈴木に投げかける。
「煩せーよ、さっさとクタバレ」
鈴木が見つめる中、半神であるハヤトの身体が光の玉と変わり泡の様に消えた。
「何なんだよ、痛ってー」
鈴木は折れた左腕と左上腕を庇いながら、診療所へと向かった。診療所とは回復系魔法使いが在籍しており、お金を払う事で治療してくれる所、つまり回復役が居ない冒険者パーティーにとっては駆込み寺だ。歩く度に骨に響きながら漸く診療所に到着した。
「すいません、治療をお願いしたいのですが」
「どうぞー、此方へ」
診療所の待合い室で順番を待っていると直ぐに呼ばれた。待ち時間約2分、座ってから直ぐ呼ばれたので驚きつつ診療室に入って理由が分かった。
「これなら一千万円だね」
まあ中々の高額、腕の複雑骨折の治療費が一千万円は高いような気もするし、直ぐ治るなら妥当な気がしなくもない。鈴木はサイフ袋からレアソウルのお礼にアリスから貰った金貨を10枚出した。
「足りないよ」
「え?7.8.9、ちゃんと金貨10枚ありますよね」
「アンタ、これポセイドン金貨だろ。レートはオーディン金貨で10枚、だからポセイドン金貨だったら12枚だよ」
「なっ!?」
治癒魔法使いはぶっきらぼうに言い放つ。
「そんな無茶苦茶な」
「いやなら、診断料銀貨3枚払って出て行け」
足元見やがってと思いつつ、鈴木は金貨12枚を机に叩きつけた。
「よし。そこでジッとしていろ」
「ヒール」
「ヒール?」
微弱な光が傷を包み癒していく。
「処置完了だ。お大事に」
「ちょっと待ってくれ」
鈴木は傷は癒えたものの左腕全体にかなりの違和感があったので、治癒魔法使いに質問した。
「何でヒールなんだ?リカバリーで治せばいいだろ」
ヒールは下級回復魔法で中級回復魔法のリカバリーと比べると回復量が格段に下がる。鈴木が回復魔法を習得した時、リカバリーを多用していたのもその為だ。
「はあ?馬鹿言わないで貰えるか、リカバリーが使える魔法使いなんて中央都市でも居るか居ないかだぞ。それに使えたとしたら桁が違うよ桁が、白金貨は出して貰わないと。眠たい事言ってないでさっさと出て行け、こっちは忙しいんだ」
鈴木は強制的に診療所から追い出された。




