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生死を分ける作業

「粗方片付いたな」


鈴木は洞窟入口と洞窟内の魔獣を殆ど倒し終え、洞窟の最深部へと足を踏み入れた。


もちゃもちゃ


口に水気を含みながら餅を食べる様な音が響いて聞こえる。


バキ!もちゃ、バキ!もちゃ


時折骨が折れる音が混じっていた。絶対気持ち悪いやつじゃんと覚悟を決めて鈴木が覗き込むと、大きな芋虫の様な魔獣が糸で身動きの取れない人間を捕食している最中だった。


「最悪だよ」


見るだけでも鳥肌が立ち悪寒が走るフォルム、体長は5メートルと目測した。食事に夢中になっているので奇襲のチャンスだ。鈴木はギザ砦で支給された一日一本のスタミナドリンクを飲むと静かに深呼吸した。


「うしっ!」


鈴木は全速力で芋虫魔獣に駆け寄ると思い切り、大剣(オンリースイート)で斬りつけた。


ブシャー


紫色の血飛沫を上げ、言葉では表現し難い悲鳴を上げる芋虫魔獣。


「もう一丁!」


ザシュー


芋虫魔獣の体が半分くらいまで切れ、身体から大量の血と臓腑が出て来た。勢いに任せ芋虫魔獣を斬殺して戦闘を終えると、とても臭い刺激臭が辺りを覆っていた。戦闘中は興奮して気づかなかったが、返り血だけでもむせ返る臭いだった。


「こんな時にアンナが居てくれたら...」


鈴木はアンナのプロフェッショナルな洗濯魔法が切に欲しいと思った。酷い臭いの為、さっさとずらかろうとしたが、糸に巻かれた死体が他に三体ほどあったので、冒険者登録の認識票など無いか確認する。死体を傷付けない様に口呼吸で優しく糸を丁寧に切っていく。


「ああ」


2人目に差し掛かった時、生存者がいた。


「生きてたか、良かった」


鈴木は糸を全て除去すると吐き気を催す臭いがしない場所まで生存者を連れて行く。


「あの...」


「すまない、ここで少し待ってくれ」


鈴木は救った男性を残して、未確認の死体を確認し終えると男性の元へ戻った。


「気分はどうだ?」


「ええ、すいません。...大丈夫です」


「そうか」


「.....」


「アンタは一体どうしてこんな所に?」


「私達はギザ砦に雇われた傭兵です」


男は身の上を語り出した。


「元々は冒険者をしておりましたが、一党の仲間にスサノオ出身の者がおりましてソイツの提案で、魔獣の大量発生で稼げると聞き、ギザ砦にて傭兵として雇われました。最初は下級や中級魔獣程度は駆除出来たのですが、上級魔獣に捕らえられ先程の巣に運び込まれた次第です」


鈴木が持ち出した和名が刻まれた冒険者の認識票を悲しげに見つめながら語る男に哀愁を感じる。冒険者は命がけで何時何時死んでもおかしくない世界に生きているが、仲間の死は辛いものがある。たとえ己の手で殺めたとしてもだ。鈴木は震える男の肩に手を置き無言で慰めた。


「助けて頂きありがとうございます。私はガヴェインと申します」


男泣きを済ませるとガヴェインは礼儀正しく挨拶した。


「俺は鈴木太助だ」


「鈴木様、命をお救い頂いた事一生忘れません。必ずこのご恩に報います」


ガヴェインは仲間の認識票を受け取ると最深部に残された遺体を回収する為、鈴木と別れ戻って行った。


「今回の最大の成果はベオウルフとメデューサ、フェニックスを従わせた事だな」


鈴木はストレージ(メドラウトの武器庫)で待機している三体の上級魔獣の鼓動を感じながら満足そうに独り言を喋った。しかし神託者が予言したものが違うものを指していた事に気付くのはもっと後の事だ。


「とりあえず、この洞窟の魔獣は離散したから任務完了だな」


鈴木は洞窟を出るとセキが駆け寄って来た。


「大将!大丈夫ですか?」


「待たせたな。一応親玉みたいな奴は殺っといたから、これで大丈夫だろ。ギザ砦に戻って報告するぞ」


鈴木とセキは念の為、討ち漏らした魔獣が近辺に居ないか、遠回りしながらギザ砦へ帰った。


「大将!」


「どうした?」


セキは満面の笑みでパンパンに詰まった財布袋を鈴木に差し出した。


「これは?」


「大将が討伐した魔獣からドロップした金銀貨を拾っておきました」


「そうかありがとう」


鈴木は一度セキから財布袋を受け取ると直ぐにセキへ返した。


「えっ!?」


セキが困惑していると。


紅き獅子団(お前の所)も被害が出てるんだろ、それで労ってやれ」


鈴木は詰所で怪我をしている傭兵達を沢山目撃した。紅き獅子団は大所帯の為、特に目立つ。


「余ったら他の傭兵(奴ら)にも分けてやれ」


「大将、一生付いて行きます」


セキの熱烈コールに。


「付いて来なくて良いよ」


鈴木はクールに手をヒラヒラと振って自室へと戻った。部屋に戻ると荷物袋からアイテムを取り出して整理する。次は汚れた服や装備品の洗濯、メドラウトの武器庫から使用した大剣(オンリースイート)名槍(ワールドオブアート)を研いだ。鈴木は長い冒険の間でこの作業がルーチンとして身体に染み付いていた。特に剣と槍の研磨は入念に行い夜更にまで及んだ。


コンコンコン


ノックで目を覚ます。


「大将!おはようございます」


「おふぁようさん」


鈴木は徹夜で目の下にクマを作りながら、来客を出迎えた。


「本日も宜しくお願いします!」


「おう」


鈴木が着替え砦の中庭に出た時。


「おお!英雄殿」


「ありがとうございます。貴方のお陰で国家存亡の危機が免れました」


鈴木を取り巻くギザ砦の兵士と傭兵達。どうやらセキが話に尾ひれはひれを付けて大袈裟に言いふらした様だ。セキ曰く。


「僕は見たままを伝えただけです」


と言っているが怪しい。何人かは聖人を見るような眼差しを向けて来る。困ったものだ。

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