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花売りの少女

「何なんだアイツは?」


鈴木は荷解きの続きを開始した。


コンコン


「しつこい奴だな」


鈴木がドアを乱暴に開けると、そこには小さな女の子が立っていた。


「あの...」


ドアが突然勢い良く開いたので驚く女の子、鈴木もハルトレーゼとばかり思い込んでいた為、険悪な表情に女の子は萎縮してしまった。


「ごめん、ごめん。どうかしたかい?」


鈴木は表情を180度変え、和やかに女の子を迎えた。


「よければ花を買って下さい」


女の子は一生懸命に籠に入っている花を差し出した。


「花か...」


女の子が差し出した花は元気が無く萎れていた。よく見れば女の子の服もボロボロで、少し顔が痩けて食事もままならないのが窺える。鈴木は売り物にはならないであろう花と女の子を交互に見ると。


「よし、全部貰おう」


「全部ですか!」


女の子の表情が一気に明るくなる。


「幾らだい?」


「えっと...銅貨10枚です」


「銅貨10枚だね」


鈴木はサイフ袋から銅貨を10枚抜いて女の子に渡した。


「ありがとうございます!」


女の子は代金を受け取ると深くお辞儀した。


「そうだ、一つお使いを頼まれてくれないか?」


「お使いですか?」


「ああ、肌着の予備が無くなってね。お駄賃は上げるからお願い出来る」


「はい」


「ありがとう、じゃあこれで3枚くらい手配してくれる」


鈴木が銀貨を一枚渡すと花売りの女の子は服屋へと向かった。鈴木は先ほどの女の子を気の毒に思った。服はボロボロ、体は痩せ髪も整える余裕が無いのだろう。宿屋の窓から見るベルトロの街を行き交う同世代の子達を見て一層不憫に思った。


「ただいま戻りました」


「ありがとう」


鈴木は花売りの女の子から肌着を受け取ると。


「これはお駄賃だ」


鈴木は何泊分かの宿泊費と食費を抜いて数日の間、魔物狩りで手に入れたお金が詰まったサイフ袋を花売りの女の子に手渡した。


「こんなに頂けません」


花売りの女の子が恐縮するので。


「いいからそれで美味しいものでも食べなさい」


「.....。あの本当に頂いてもよろしいんですか?」


「ああ」


「ありがとうございます。このお金で母の薬が買えます」


花売りの女の子は何度も何度もお辞儀した。


「この御恩は決して忘れません!」


女の子が立ち去ると。


「あんなに若いのに苦労してしっかりしてるな」


鈴木は花売りの女の子に感心した。鈴木は萎れた花を花瓶に飾り窓際に置く、外は夕日が落ちて来て夕暮れに明るいお月様が顔を出す。茜色に染まる背景に萎れた花が何とも侘び寂びを醸し出していた。


「買って正解だったな」


鈴木は満足そうに夕陽が地平線に落ちるまで萎れた花を眺めていた。


翌朝


「さてポセイドンに向かって、黎明の旅人(みんな)と合流するか」


鈴木は革鎧を装備して荷物袋を持つとポセイドンに進路を取った。実は昨日装備転送がアイテムにも適用が出来ないか、試したが失敗した。恐らく真名を与える為には鍛冶屋で名を与える必要がある様だ、逆に言えば真名さえ与えてやれば、アリアケ草でさえ呼び出せるであろうと仮説を立てた。


「真名を与えるスキルがあれば便利なんだけどな...」


一本道の大樹に差し掛かった頃、鈴木が考えていると途中魔物に襲われている集団と遭遇した。


「かなり押されてるな」


形勢不利な騎士らしき集団に助太刀する為、鈴木はオンリースイートを装備転送すると、魔物に奇襲を掛けた。


ザクー、ガシュッ!


兵器の覇者のスキルによって、オンリースイートが軽々と振り回せる様になって、剣との一体感を感じる。


「きゃー!」


護衛されていた馬車から悲鳴が上がる。馬車の窓ガラスを割り、魔物が中の人を襲おうとしていた。


「インフェルノ!」


鈴木は直ぐ様魔物を焼き払うと馬車の警護に着いた。


「貴方は?」


「通り掛りの者です、ご助力致します」


「かたじけない」


隊長であろう老騎士と若い騎士四人が鈴木と共に馬車を守る。数分の交戦の後、魔物は金貨や銀貨に姿を変えていた。


「どなた様かは存じませんが、お助け頂き感謝致します。それ程の武力の持ち主ならば、さぞ高名な方なのでしょう」


「いえ、そんな事は」


「ジャン」


「はっ!姫様」


馬車からの呼びかけにジャンと呼ばれた老騎士が、直ぐに馬車のドアを開ける。中から現れた美女は大樹の葉から溢れる木漏れ日に照らされ、絶世の美女いや傾国の美女と称しても恥ずかしく無い、唯美と見比べても甲乙付け難いほどの女性が現れた。


「この度は危ないところを助けて頂き誠にありがとうございます」


美女は美しい所作で一礼した。


「...いえ、当たり前の事をしたまでです」


鈴木は美女に見惚れてしまい一拍遅れて返事をする。


「なんと高潔な方なのでしょうか、ねぇジャン」


「はっ、姫様の仰る通りです。彼の者こそ英傑と言えましょう」


大絶賛されて鈴木は心がむず痒くなったが嬉しい気持ちだった。


「名乗り遅れました。私はガレス領領主の娘」

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