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世知辛い世の中

「なあエルフってどんな感じなんだろうな、楽しみだよなフレイ(お前)もそうだろ?」


鈴木は未だ見ぬ森人(エルフ)に想像を馳せフレイを駆りながら、道端でエンカウントする魔物をオンリースイート(愛剣)で一刀に斬り伏せつつ進んだ。ポセイドンから二つの湖と小さな砦を五つ、衛星都市を二つ経由してアルテミスの入り口付近にある村に到着した。駄馬ならば何頭も潰れているところ、フレイはたった1日と二刻で走り抜けてしまった。


「お疲れ様」


「ヒヒーンプルルッ」


名馬と云えど、フレイの身体は流石に汗ばみ息が荒い。疲労困憊のフレイ()をこれ以上無理させる訳にはいかず、一旦休息する事にした。鈴木はフレイから降りて手綱を持ちながら村の宿屋を探した。


「いらっしゃい」


宿屋の女将が出迎えた。


「一泊させてくれ」


「銀貨二枚だよ」


「晩飯は付くのか?」


「ウチは素泊まりだよ。メシなら四軒隣の所で食べな」


ど田舎の宿屋で素泊まり銀貨二枚は高すぎる、足元を見られてるのは明らかだが払うしかない。


「厩舎は?」


「あっちだよ」


女将は愛想無く親指で方角を指す。なかなか良い接客してんなコイツと思いながら、大人の対応で済ましてからフレイを厩舎へと連れて来た。


「あんのクソババア!」


鈴木の怒りの原因は厩舎だった。建物はボロボロで隙間風がビュービュー入って来て寒い。また藁が敷かれておらずゆっくり休める代物では無い。


「どうせ糞クオリティだから飼葉も用意して無いだろう。星ゼロだね!星一つも絶対やらん!こんな宿」


鈴木は文句を言いながらフレイを厩舎に休ませ、村の人から藁や飼葉を割高で売って貰い厩舎へと運び込むと、フレイのベッドを作った。


「プルルッ」


「そうかそうか、快適になったか。じゃあこれでも食べて休んでな」


鈴木はフレイの近くに飼葉を置いて、四軒隣の食事処へと晩飯を食べに向かった。


「いらっしゃい。何に致しましょう?」


ここでも値段に見合わないものを出されて鈴木はげんなりした。鈴木はこの村に来て冒険者に1人も会わなかった事に納得した。


「マジで早くアルテミスに行こう」


鈴木は決意を新たにフレイが待つ厩舎へと向かった。


「これじゃあ野宿と変わらねーな」


鈴木はフレイと寄り添って眠りに就く。


ピピピ、ピピピ


聴き慣れた電子音、スマホの目覚まし時計が鳴っているようだ。起きたくない気持ちを誤魔化して無理矢理上体を起こす。


「ふあぁ〜あ。しんどい」


疲れが全く取れないが今日がまた始まる。医師だった頃は目覚めも良かったし、しんどいなんて感じた事が無かったのに、そんな事を考えつつ鈴木は顔を洗った。


「バイト行きたくねー。休んじまおうかな」


鈴木は無精髭を剃りながら出来もしない無断欠勤を画策する。スマホにバイト先の電話番号を入力して最後の一桁で切る。そしてバスに乗って通勤するのだ。


「おはよう」


「はよーっす」


日が暮れ夜になり退勤時間になる頃。


「お疲れー」


「っしたー」


鈴木は廃棄寸前の弁当を格安で譲って貰い、晩ごはんとして持ち帰る。キラキラしていた医師の時代に比べて年相応、いや少し老けてさえ見える様になってきた。バスに乗って帰路に就いた。


「えーヤダー」


「ちょっと」


キャピキャピの女子大生もしくはフレッシュマンであろう若い娘に目を奪われていると。


「あの人、さっきからこっち見てない?」


「キモ」


鈴木は咄嗟に視線を外す。自分に自信があった時は寧ろキャーキャー言われていたのが、すっかり変質者扱いに変わってしまった事に感慨深い気持ちになった。最寄りのバス停で降りると不快溜息を吐いて自宅へと帰った。


「ただいまー」


返事がある筈も無くシンとしているリビングに入ると弁当を置いて風呂場へと向かった。面倒なのでシャワーで済ませて、強めのチューハイを空きっ腹にぶち込む。


「〜!たまらん」


酔いが一気に回るのが堪らない、嫌な1日がやっと終わり9時間後にはまた嫌な一日がまた始まる。


「それにしてもさっきのブス達には困ったもんだよ、自意識過剰だっつーの。鏡も持って無い原始人がよー。確かに少しムラムラしたけど、それがなんなんだよ!別に何もしてねーだろーが」


酒に酔いながら悪態を吐く、顔が熱くてクラクラする。鈴木は肴のスルメイカをしゃぶりながら気絶するように眠った。


「うう〜ん。世知辛い世の中だー」


鈴木は自分の寝言で目を覚ました。傍らにはフレイが眠っており、ほんのり温かい。鈴木はフレイの体温を感じながら。


「癒されるー」


鈴木はフレイにべったりくっついて二度寝しようとした時。厩舎の外が騒がしくなっていた。


「煩いなー。静かにしろよ」


鈴木は両耳を両手の人差しで差し込み塞ぐが喧騒は増すばかり、仕舞いにはフレイが起きてしまって鈴木の癒しは呆気なく幕を下ろした。

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