死の都 ハデス
南南西にある死者の都ハデス。道中に色々アンナから教えてもらった。死者の都は幻想的で神秘的なんだそうだ、普段から霧がかかっていて霧が晴れる日は年に数回しかないらしい。話しを聞いて鈴木は一抹の不安を感じた。湿度が高すぎるのではないか、カビがすごいのではないかと内心ドキドキしていたが、流石は神秘の力、アンナはケタケタと笑いながらカビについて否定し、涼しくて過ごし易いと付け加えた。都が放つ荘厳な雰囲気は教会の中に居る様だと語る。アンナが幾度か訪れた時、人の往来が無く、話声さえ聞こえなかったらしい。しかし宿屋や魔法ギルドに行くと人はいたとの事だった。
「少し休憩しよう」
「はい」
最初の村を出て30キロ位歩いただろう、少し疲れたので休憩を取る事にした。鈴木は適当な木に寄りかかり座るとアンナはバスケットからパンやチーズを出して、紅茶を淹れてくれた。
「ありがとう」
「いえいえ」
こう言ってはなんだか、アンナは確かに魔法使いとしては優秀だが、しっかり者に見えるところもあるし、天然に見えるところもある。この短い付き合いでは本質はわからない、ただ道中にバスケットを持って来て紅茶を淹れてくれるのは素敵だなーと思いながら、小腹を空かせた状態でパンにチーズを挟み紅茶と一緒に舌鼓を打つ。解放感のある屋外で食べるというのも冒険の醍醐味だ。
「あとどれくらいで着きそう?」
「あと半分くらいですかねー」
「まだ半分?」
「ええ、ここから徐々に坂道が増えますから、地味に今からの方がしんどいですよ」
「マジかー」
鈴木は歩いて怠くなった足をバンバンと叩くと、立ち上がってミハイルを背負った。
「ご馳走様でした」
「お粗末さまです」
二人の冒険は夜間になっても続いた、この辺りになると前足4本で目は赤く光り、牙がセイウチの様に大きく剥き出しになっている熊や黒い狐。巨大ないも虫みたいな奴と遭遇した。熊は耐久性に優れ、なかなか手強かったがミハイルの斬撃と属性付与の効果が発揮されなんとか撃退出来た。多分三匹くらいで襲われたら危ないレベルだった。黒い狐は口から炎を吐き出して攻撃してきたが、アンナの水魔法で炎ごと包まれ敢えなく溺死。強敵という意味では無く本当に戦うのが嫌だったのが巨大ないも虫。見た目が生理的に受け付けない上に、魔法耐性があるのかアンナの魔法を無効化してくる。仕方無くミハイルで斬るとぶにょっとした感触が、手に残り緑の返り血で鈴木のテンションを大幅に下げた。夜間の戦闘は避けたいところではあるが、ハデスは見えている。黎明の旅人は強行軍で一気に都へと向かうのだった。
「はぁはぁ、ここまで来れば大丈夫だろ」
「そうですね都は目前、モンスターが出現する可能性は低いです」
黎明の旅人がハデスの門前に辿り着いた時、違和感を感じた。立っている門番は色白で生気が感じられない。挨拶をしても上の空で返事が無い、とりあえず都に入ると目を疑う光景に遭遇した。
「なんだこいつ等?」
鈴木達の眼前で人魂やゾンビ、骸骨にゴーストと呼ばれる類のものが街中をフラフラ歩き或いは飛び回っていた。
「アンナ、これは?」
「私も来たのは仕事で、夜は出歩きませんでしたから」
鈴木は唾を飲み込むと一歩前に進む、すると何匹かの骸骨とゾンビ、お化けがこちらに気づいたようだ。ジリジリと近づいて来ると思いきや、ゴーストが一気に間合いを詰め鈴木の中に入り込んだ。
「ぐおっ!動けない」
鈴木は必死に身体を動かそうとするが、金縛状態となり小指も動かせなくなった。
「これまずい!」
「太助さん逃げましょう!早く早く」
「身体が動かないんだよ」
「そんなぁ」
骸骨やゾンビが不気味な音を立てながらゆっくりと近づいてくる。身体が動かず腐った死体と理科室にあった骨格標本が近づいて来る恐怖は得も言われぬ体験だ。するとアンナが詠唱を始めた次の瞬間、炎が舞い上がる。魔王が放った火柱より数段小さいがゾンビを燃やすのには充分だった。
「助かったー」
安堵したのも束の間、炎から焦げた骸骨が出てきた。
「もしかして、アンナさーん。骸骨には炎効かないんじゃないですか?」
「わかってますよ!集中してるんですから静かにしていて下さい!!」
アンナは次の魔法の詠唱に入った。
「急いで!急いで!来ちゃう来ちゃう」
鈴木の2メートル内くらいに骸骨が歩み寄る、すかさずアンナが魔法を放つ。
「ブリザードロック」
骸骨はみるみる氷に包まれ動かなくなった。そこに間髪入れずアンナは杖を大きく振り被りフルスイングすると、氷ごと骸骨を砕いたのであった。砕け散る骸骨と氷を見ながら、この子ロックだなーと鈴木が思っていると、炎やら杖で氷を砕くやら大騒音を聞きつけたモンスターが、ワラワラと黎明の旅人の元に集まりだしてしまった。
「これヤバくない?」
「もうっ!太助さんいつまで動けないんですか?早く前衛に立って下さいよ」
「そうは言われても、身体が言う事をきかないんだ」
鈴木はトライしてみるが身体は全く動かない。
「初見殺しじゃん」
鈴木は諦め作戦を切り替えた。
「アンナ、すまない一人で逃げてくれ!」
「太助さんを置いて逃げられる訳ないでしょ!」
「俺はなんとかなるから早く!このままじゃ全滅する」
「そんな事にはさせませんよ!」
アンナの瞳が薄っすら蒼く輝きだすと、魔力がアンナに収束するのが目視出来るほどだった。
「とっておきですよ!!」
アンナが古代呪文を高速で詠唱しだすと、周辺の空気の流れが変わる。アンナの周りには光の柱が一本また一本浮かび上がり四方を囲む。魔法のイロハがわからない鈴木でも鳥肌が立ち、この魔法がヤバい事は本能で理解した。
「いきますよーー」
アンナが魔法を発動させようとした瞬間、人影が現れアンナの首元に手刀を見舞うとアンナを失神させた。




