アンナマリー
鈴木は酒場に着くと大声で叫んだ。
「東の都ポセイドンを目指す、パーティーに参加してくれる人はいるか?」
田舎の村のしかも場末の酒場にやる気のある冒険者などいる訳がない。そんな事は鈴木も気づいていたが、ミーシャがいたのだ。一縷の望みをかけパーティーの募集を行ったが、手をあげる者などいなかった。1人を除いては。
「あのー、良ければご一緒します」
立候補した人物に鈴木は驚き、その人物を二度見した。
「魔法ギルドの受付さん?」
「いやーちょっと失敗してしまいまして。お客様達から預かった服を乾かすのが面倒で風では無く、火魔法で乾かそうとしたら上司の見てる前で全部燃やしてしまって」
テヘペロしながら恥ずかしそうに言っているが、やっている事は大分可愛く無い。だが彼女のパーティー加入は僥倖であり、魔法技術(特に洗濯スキル)は鈴木にとって重宝するものだ。迷わず受付の人を受け入れた。
「では改めまして、アンナマリーです、アンナって呼んで下さい」
「鈴木太助です、よろしくおねがいします」
「私は冒険者稼業が初めてなので、色々教えて下さいね先輩!」
明るい茶髪にクリクリっとした瞳、人懐っこい表情は見てて明るくなる印象だ。
「俺も冒険者になってそんなに日が経って無いので、至らない事もありますが頑張りましょう」
「何をおっしゃいますやら、洗濯に銀貨払っちゃう人がよく言いますよ。冒険で稼いでますよね」
小悪魔的な笑顔でアンナは手を差し出した、鈴木とアンナは握手をして酒場を後にした。新規メンバーを加え次に向かったのが武器屋だ。アンナの装備品を買いに来た。
「あれなんかどうですか?」
アンナの指先す方向にはRPGで見かける、セクシーなビキニアーマーが展示されていた。
「あんなの着られても困る、それにアンナは魔法使いなんだから装備出来ないでしょ」
「あっ今、想像したでしょ?太助さんのエッチ」
「銀貨30枚で買えるのは...」
鈴木が杖を物色していると。
「杖は自前がありますよ、だーかーらーあの」
アンナが指先にはビキニアーマーがあったが、鈴木は無視して武器屋の店主に話を聞いた。
「銀貨30枚だとどれが買えますか?」
鈴木の質問に武器屋の店主は無言で二種類のローブを差し出した。
「ローブには特殊な糸が使われていて色んな耐性が付与されているんですよ、こっちは精神攻撃に耐性がついてます、こっちは沈黙無効ですね」
「どっちの方がいいと思う?」
「そうですね、沈黙なんかさせられたら魔法使いは役立たずです。こっちにしましょう」
アンナは赤茶色のローブを置き、薄い緑色のローブを腕にかけた。ローブを購入しアンナが羽織ると。
「どうですか、似合います?」
自分に似合っている。確信していながら聞いてきている、そんな笑顔で鈴木に微笑みかけるアンナに。
「似合ってるよ」
鈴木は返事をした、鈴木の返事にアンナは満足そうに頷く。一連のやりとりを終えると鈴木とアンナは鍛冶屋にミハイルを取りに向かった。
「すいません」
「出来てるよ」
鍛冶屋がミハイルを持ってきた。鈴木は違和感を感じたがすぐに鍛冶屋が答えてくれた。
「鞘は燃えない様に特殊な加工した物に取り替えている」
ぶっきらぼうにそう言うと鍛冶屋はまたトンテンカンと武器を打ちだした。鈴木はドキドキしながらミハイルを鞘から抜くとほぅっと暖かい、しかし刀身を全て抜身にすると熱い。ガンガンに熱した鋼のように刀身は紅く光る。鈴木がミハイルを振ろうとした時
「おい!村の外でやれ!危ねぇだろ」
鍛冶屋に怒鳴られた。
「すいません」
「太助さん、村の中で剣抜くとか危ない人ですか?」
アンナが少し引いていた。鈴木は気をとり直して村の外に出て人が近くに居ない事を確認した後、ミハイルを振ってみる。普通に振ると炎が刀身を包み燃やす、今度は大きく振りかぶって思い切りミハイルを振り抜くと刀身から盛炎が上がり、炎が3メートル先の空気まで巻き込んで燃え上がった。
「すごいですね!私、属性付与された武器見るの初めてです。魔法使いが使うフレイムという魔法に似てます」
男が憧れる火属性の剣、炎の熱に当てられ顔が火照ってしまった。アンナのリアクションとミハイルの出来に鈴木は大いに満足した。




