ギフト
「アンナ!アンナ!」
鈴木の呼びかけにアンナが一瞬視線を合わせるが、知らない人間を見る様に直ぐ視線を逸らして行ってしまった。
「.....」
「どうかしましたか?」
メドラウトの問いかけに。
「あのアンナ、何か変だった気がする」
共に旅をした古参の仲間の微かな違和感に鈴木は気づいたが、それが何なのかは分からない。髪型を少し変えた様な、微妙な違和感だった。
「兎にも角にも俺達パーティーメンバーへの説明が無い以上、どうしようも無い。好き勝手にするなら、仲間である必要が無ぇな」
キッシュは何処からか調達した酒を呑みながら、リーゼに続いて早々に会場を後にした。
「リーダー。気を落とさないで下さい」
「ありがとう、メドラウト」
鈴木はモヤモヤしたが、どうにか出来る問題でも無いので宿屋へと帰った。しばらくして夕食時の事。
「アンナは黎明の旅人を離脱したと考えて良いだろう。アンナは放っておいて、次の神託を受けにシューリケに戻るなり、近隣の村に向かって神託者と会うべきだと思うんだが」
キッシュが提案する。
「.....」
リーゼはスープをスプーンで掬い音を出さずに上品に啜る。
「キッシュ。もう少しアテナに居て、様子を見ても良いんじゃない?」
メドラウトは鈴木の顔色を見て、キッシュにアテナに、もう少し滞在するように促した。
「義兄弟はどう考えてるんだ?」
イラ立ったキッシュが鈴木に迫った。
「そうだな...。勝手だが理由だけでも聞きたい、離脱なら離脱で良いし、理由があってこうなっているなら原因を解決してやれば良い」
「悠長な...」
「あと何日かは滞在で良いだろ?」
「はい!」
「異議ありませんわ」
「有りだね!大有りだ!異議を申し立てる」
「却下」
静かに鋭い声でリーゼが、騒ぐキッシュを沈黙させた。
「頼むよ義兄弟。とびきり良い酒をご馳走するから」
アメとムチで鈴木のアメにキッシュは渋々納得した。
「しかし、国家の超要人様だぜ。簡単に会えないし、どうやって事実確認するつもりだ?」
「任せてくれ、何とかしてみるから」
鈴木は食後、街にある酒場を渡り歩き、炎舞王の住居が何処にあるかを特定した。
「よし、やるか!」
鈴木は不可視のスキルで炎舞王の住居に侵入した。門を潜り玄関を抜け、廊下を渡った。途中何度も息継ぎを行い、一つ一つの部屋を聞き耳スキルを駆使して、部屋の中の様子を伺った。
「...で良いわ」
微妙に声が低い様に感じる風邪でも引いたのだろうか、多分この部屋にアンナがいると思われる。部屋の気配が一人になったので、鈴木は静かにアンナの部屋へと入った。
「これは...良し。明日の制圧は正門から」
「アンナ」
「誰!」
「俺だ」
「?」
記憶喪失にでもなったのか、アンナは鈴木を見ても全く警戒を解かず、不審者を見る目で睨んだ。
「何故、こんな事をしてるんだ?強化魔法の訓練をしに来たんだろ?それが何故、炎舞王とかよく分からないものになってんだよ」
鈴木はアンナを咎める様に問い詰めた。
「ごめんなさい!えっと何処から話したら良いのか私も分からなくて」
アンナは突然、記憶を取り戻した様に話し出した。
「実はこの国は腐りかけていて、私がいないと駄目なんです!私を探しに来てくれて本当に嬉しいんですけど、もう戻りませんから帰って下さい」
「それが本心なのか?」
アンナはコクリと無言で頷く。
「そうか分かった」
鈴木が部屋から出ようとした時。
「なあ」
「はい?」
「俺があげたダイヤのネックレスは大事に持っていてくれているのか?」
「当たり前じゃないですか!貴方から貰った大事なプレゼントですもの」
「...そうか」
鈴木が退室しドアを閉めようとした瞬間。
「待って!」
アンナだと思われる女に呼び止められる。
「さっきのダイヤのネックレスってブラフでしょ。本当は何をあげたの?」
「貝殻のペンダントだ」
「そう...。お姉ちゃんは逃げた癖に青春してたんだね」
「お姉ちゃん?逃げた?何の事だ」
「まあいいや。そいつを捕らえて」
鈴木を囲む魔法使い達、アンナに会いに来た為、愛剣を持って来なかったのは、下策だった。弱体化の魔法を幾重にも掛けられ、三人の男に捕まってしまった。地べたに抑えつけられ、アンナらしき女を見上げると。
「良く見ると中々良い男じゃない。お姉ちゃんの男なら目の前で奪うのも良いかもね」
アンナらしき女は鈴木の顎を人差し指と中指でクイと上げると、妖艶な笑みで微笑む。
「お前は一体?」
「事を為すまで眠ってなさい」
アンナらしき女の言葉の後に急激な眠気に襲われる。多分魔法の効果だろう、精神集中で眠気と戦うが健闘虚しく意識を失ってしまった。薄れ行く意識の中で、エメラルダマリーが悲しそうに鈴木を見つめていた。




