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閑話

さて、気になる所で目を覚ました鈴木さんは、空気が読めてませんね。聞き手が歌い手の詩を聞きたがってるじゃないですか。


代わって私が時空の千里眼で皆様にお見せしましょう、あの続きを。


しかし、謎が一つ残ってますね。そこからご覧頂きたいので10年程時間を遡りましょう。


エメラルダマリーと言う女性の物語を!





始まりは私が7歳の時だった。


「お前!また家臣に色目を使ったな!」


「やめて下さい、エメラルダの前ですよ!」


「このアバズレが!」


「いい加減にして!こんな弱小国が生き残る為に、私がどれ程こころを砕いているか知らない癖に!!」


「それが男に股を開く事か!」


人目を憚らず毎日の様に父様と母様は喧嘩をしていた。私は耳を塞ぎ目を閉じた。だって見なければ、聞こえなければ幸せな家族だから。


「おい!エメラルダ!!何故私の子なのに、そんなに出来損ないなんだ!やっぱりコイツは俺の子じゃないんだろ!」


「やめて!エメラルダは貴方の子よ」


毎日毎日喧嘩して飽きないんだろうか?皆で森に遠足したり、盟友国のハデスに旅行に行った方が楽しいのにな。


「エメラルダ、貴方はあの人の血は入って無いのよ」


母様は日頃の鬱憤を晴らす様に、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日、父様の悪口を私に吹き込んだ。


「今日も呼ばれたのか?」


「ああ。すきものだな、あの夫婦は。毎日取っ替え引っ替えさ」


やめて!父様と母様の悪口なんて聞きたく無い!


「エメラルダ!何をしている!?早く立て」


「国王陛下。これ以上は姫様が危のうございます」


「知るか。我が妻の不貞の子なぞ死んでも構わん。せめて戦地で役に立って死ぬ様に躾よ!良いな」


「ご無体な、それでは姫様が余りにも不便」


「貴様、誰に物を言っている。おい!衛兵、此奴を捕らえ処刑せよ」


この日から私には優しい先生は居なくなり。毎日、鬼の様に厳しく訓練する新しい先生が来た。


「やっぱり出来損ないですわ、陛下」


「じゃろう。こんな不良品は我が子では無い」


「私が責任を持って鍛えますわ」


「頼む。お前だけが頼りだ。それと...」


「かしこまりました。今夜伺いますわ」


「うむ。エメラルダ、何だその目は!」


「ふふふ。良い度胸です、たっぷりしごいてあげる」


この日から一日12時間を超える修行が日課となった。


「またアイツは神羅の森に行ったのか!?」


「はい。最近は言うことを聞きません」


「この役立たずが!この女を処刑せよ」


「えっ!?そんな」


8歳になる頃には神羅の森でサボるのがルーチンだった。見たく無いものを見ずに済むのは幼心でも救い...。


「誕生日なんて何もめでたく無いわ!年を取って老けた私を笑い者にしたいだけでしょ」


「せっかくの座興なのだ、見ていけ」


「気分が悪いので部屋に戻ります」


「女が枯れていくのを見ると哀れで仕方無いな」


父の取り巻きが母を笑う。


「道化師よ、妻が一つ死に近づいたのだ。祝ってくれ」


その頃には悪口を聞き過ぎて、聞こえていても聞こえ無くなっていた。


「お嬢さん」


「誰?」


「道化師です」


神羅の森でサボっていた時、母の誕生日に招かれた道化師が話しかけて来た。


「力が欲しいですか?」


「力?」


「ええ。あの不義の塊りである両親を更生させましょう」


「無理よ。あの人達は壊れているの、愛し合って夫婦になった筈なのに傷付け合ってる」


「大丈夫です。私が力を貸しましょう、但し一つ、姫様にお願いがあります」


「何?」


「力を貸し願いが成就した暁には、是非姫様に私の花嫁になって頂きたいのです」

高を括っていたのか...多分7才で捨て鉢になっていたんだと思う。


「良いよ」


「おほほほ!かしこまりました、ならば貴方は10年の後に我が妃となるのです。それまでは清い身体でいて下さいね」


道化師が立ち去る前に光を私にくれた。その日から私の魔力は著しく上がり、私を虐める人は居なくなった。


「エメラルダマリー、ひっ!」


目を合わせれば怯える母。


「.....」


姿も見せず隠れて過ごす父。


「こんな親なら要らない」


ポツリと呟いた言葉が父の耳に入り、私は暗殺者に狙われた。


「国王の命で、お助け下さい」


「黙りなさい」


その日初めて人を殺した。1人殺したら2人も3人も同じ、気づいたら血の海に死体の山。玉座に座る厚顔無恥な両親を私は殺した。


そう私は親殺しだ。


そして私は新しい両親を作る事にした。だって子どもは親を選べないのに親は産むか産まないか選べるなんてフェアじゃないと思う。


私が産んだ両親(創生魔法)は竜の力強さと子に慈しみを与える人だった。


私は幸せ、だって優しい両親に愛されているんだから。

「えっ!?」


道化師が放った魔法の後には勇者の塵一つ残らなかった。


「我が魔法の力を見たか!いや見れる筈も無いか。この世から消え去ったのだからな。くくっははは!」


道化師は大笑いし、エメラルダマリーは肩を落とし、消えた義兄を虚な瞳で探した。


「さあ参ろう、我が姫君よ。沢山、子を成し産むが良い」


卑劣な笑みで微笑む道化師。


「.....」


城内が絶望で染まった時、一縷の光が差し込む。空は曇天、希望は消え失せ深海の光届かぬ筈の絶望の中、扉が開く音と共にそれ(希望)は現れた。


「待たせたな」


息を切らせながら現れた一人の男。


「お前は!?死んだ筈じゃ」


「あああ」


エメラルダマリーは目を真っ赤に充血させ頬を濡らした。


男の後ろには三人の従者。


「私が倒すわ。女の敵!」


「主の前に立ちはだかる障害は全て排除します」


「別に誰でも良いけど、さっさと殺っちゃおうよ」


男は手を出して三人の従者を止めた。


「コイツは俺がやる」


「馬鹿が!お前等雑魚が幾ら群れようとも俺を殺す事など」


道化師が止まる。いや、部屋全体が止まっているようだ。唯一、男だけがゆっくり動いている。


「で..........き.........ま.......!!!」


道化師が言い終える前に胴体から真っ二つに斬られ激しく吹き飛んだ。時間の流れが正常に戻る。


「...兄様」


「エメラルダ。良く覚えておきなさい、大人は簡単に約束は守らないんだ。だが家族との約束は絶対守る。必死に守るんだ、愛する者の為に。お前を守るって言っただろ?」


「はい」


「ぐうぅ!よくもやってくれたな!」


今度は眩い光の中から、小学生くらいの道化師が立ちがった。


「そのまま死んでいなさい」


(勇者)の従者の侍が、男よりも早い剣速で魔王の首を刎ねた。


「貴様等、生かしておかない!」


魔王は今度は幼児くらいの道化師に生まれ変わった。


「貴方の血に染まった両手は、罪を償う為に使って下さい」


(勇者)の従者の弓使いの矢で喉を射たれ、魔王は絶命した。


「ま、待ってくれ。もうエメラルダには近づかない、だから命ばかりは助けて下さい」


もう喋れるギリギリまで若返ってしまった魔王に、(勇者)の従者の斧使いの戦士が引導を渡す。


「生まれ直して来い」


「やっやめ!」


大戦斧で真っ二つにされた魔王は二度と蘇る事は無かった。


「皆、ご苦労様」


少しの沈黙。


「あの兄様」


「何だ?」


「私、隠してる事が」


「.....」


「私は魔王を利用して」


「別に関係無いな。何があったかは知らねーが、家族と変態野郎、どっちを信じるか言うまでも無いだろ?他人なら買う奴も買われる奴も悪いって、どうでも良いから言うが、妹の話なら別だ買う奴が悪い!俺はそう言う男だ」


「?」


「つまり世界がお前が悪いと言っても関係無いって事だよ」


エメラルダマリーの真っ赤に充血した瞳から溢れる涙を、親指で優しく拭うと。


「来い!我が愛しき妹よ」


「はい!私は貴方の兄妹(分身)、兄様が居なくなっても必ず貴方を見つけてみせます。だから私は悠久の刻を生きて、形が変わろうとも側に置いてもらえますか?」


「当たり前だろ!」


(勇者)の従者は四人になりました。


一振りの剣と全なる魔法に悪なる友人と善なる奴隷を引き連れて、魔神との決戦に向け旅立ちましたとさ。

幼い子どもにとって、両親が不和で喧嘩をして醜い部分を見せられるのは、地獄に等しかったかもしれません。


彼女にとって新しく産んだドラゴンこそ、壊れゆく良心を繋ぎ止める役割を担っていたのかもしれませんね。


魔導の旋律は何を奏で、何を魅せてくれるのか。


では私は一旦失礼致しますが、黎明の旅人の大冒険はまだまだ続きます。お楽しみに!


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