ロリコン魔王と紳士
「アンタなんかの妻にならないわ!妻になるくらいなら死んであげる」
「ふふっ、その跳ねっ返りのところも素敵だ。早く初夜を迎え子を作ろう」
「キモっ!じーさん、吐き気がするぜ。孫より年下の少女に手を出したら犯罪だぞ」
「何だ?お前」
「ロリコンに名乗る名は持ってねーよ。全国の紳士に謝れ、変態」
「くっくっく。そうか、お前勇者だな。何を怒ってる?ロリコンなんてこの世界じゃ合法なんだよ」
「黙れよ下衆。良いからかかって来い。こっちは可愛い妹が虐められムカついてんだ!やろうぜ!!」
鈴木と道化師のやり取りを観ていた、エメラルダマリーから一雫の涙が溢れた。
「やろうか、若僧。魔神の一翼、序列第ニ位、大復活のザルザイド参る」
「下がってろ!」
「姫様は我々が守る」
「悲しむんだよ、アイツが。アンタらが死んだら」
鈴木の言葉に、はっとした兵士達が背後にいる守るべき者に視線を向けると、少女は両手で口を抑え涙を流しながら、嗚咽していた。
「魔王退治は勇者の仕事、ってのは昔から決まってんだよ」
「もう良いか?この世とのお別れは」
勇者と魔王が対峙する。
チリチリ
互いの殺気がぶつかり合う。
「シャァー」
道化師は無詠唱で魔法を放つ。
「テンペストアーマー」
水飛沫を巻き上げながら鈴木が一足飛びで、道化師の間合いに飛び込む。一閃、左切り上げを繰り出すが、道化師の首を捕らえる前に土壁に阻まれた。
「インフェルノ!」
土壁を業火が溶かす。次の瞬間、剣の様な鋭利な氷柱が眼前に飛んで来た。
「テンペストアーマー」
間一髪インターセプトで凌ぐが、完全に威力を相殺出来ず、鈴木の腕に数本の小刀くらいの大きさの氷柱が刺さり出血した。
「ははは。どうだ小僧、己が無力を思い知れ」
「煩せー、ロリコンジジイだな。まだ始まったばかりだろ?それより息上がってんじゃねーか」
道化師は年のせいか肩で息をして苦しそうにしている。
「黙れ!殺してやる」
道化師の傍らから炎の分身が現れた。
「インフェルノだな、なら」
無詠唱の為、道化師の魔法が何なのか分からないが、良く見た炎の分身に鈴木は魔法を特定した。
「アシッドスコール!」
鈴木のアシッドスコールが炎の分身を消火し、道化師の左手にかかった。
「ぐああああ!いっ痛いいぃぃ」
酸に触れた道化師の左手は煙りを上げ大火傷を負った。
「許さないぞ、よくも俺の左手をよくも!!殺してやる殺してやるぞー」
刹那、鈴木の剣が道化師の首元に当てられチェックメイトとなった。
「助けてくれ」
「命乞いか?」
「老い先短い命だ、頼む」
「お前は生かしておいたら、この国の災いになる」
「後生だ!命ばかりは。助けてくれエメラルダ、婚約者の私を助けてくれ」
道化師はエメラルダマリーを見つめながら懇願した。
「たっ助けてくれ〜。あの時、助けてやったじゃないか。お前が森で泣き暮れていた時、お前の父と母を殺す力を与えたじゃないか!なっ、あの時の恩返しだと思って」
何を口走ってるんだコイツ?と思っている時、強烈な風の槍が鈴木の頬を掠め、道化師の心臓を抉り貫いた。
「狂人の世迷言は充分だわ」
ボタボタと血溜まりの海に膝立ちする道化師。
「な...ぜ.....」
道化師は心臓を失い絶命した。
「エメラルダマリー?」
振り返った鈴木の瞳に映ったエメラルダマリーの表情はとても冷たかった。
「終わったか?」
「皆さんお疲れ様でした。さあエーちゃん、アテナ城へお帰りなさい。もう安心よ」
玉座に居た、エメラルダマリーの両脇を固めていた、両陛下が警戒を解いた。
「どう言う事だ?エメラルダマリー」
「.....」
鈴木の問いに無言で答えるエメラルダマリー。道化師の死体改めに近づいた衛兵が壁に激突するほど吹き飛ぶ。
「いやー。やはり俺の妻はお前しかおらん。その役に立たなくなった人間はゴミの様に切り捨てる性格、正に魔王の妻になる為に生まれて来た女よ」
道化師がむくりと立ち上がり、拍手した。
「何だ!?」
「殺したと思った?思ったでしょ?そう、その恐怖と混乱に見せる絶望の顔が大好きなんだ!俺を殺してくれてありがとう」
道化師が眩く光、再び姿を現した時には青年になっていた。
「これは!?」
「我が二つ名は大復活の魔王。あと少しで老衰してしまうところだったが、お前と妻のお陰で、この通り若返る事が出来た。ありがとう」
道化師は美しい歯並びに、今まであったシワが綺麗さっぱり無くなって別人に見えた。
「消えろ!」
エメラルダマリーが炎の弓矢や風の刀を放つが、若返った道化師に尽くインターセプトされた。
「さあ、若くなり年も近くなった。もうロリコン等と謗りを受ける事も無い、行こう我が魔王城へ」
道化師がエメラルダマリーに手を差し出す。
「いや」
「我がままを言わないでおくれ」
「待て」
鈴木が止めようとした瞬間。
ヒュッ ドゴーーン!!
鈴木は宙に浮き壁に叩きつけられていた。
「ぐっ、はあぁ」
激痛で息が止まった。鈴木は気を失いかけたが気合いでなんとか意識を留めた。




