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蛮勇

「助けに来たぞ」


「アンタは?」


右翼の指揮をしている将軍の元に駆けつけた鈴木は挨拶を済ませる。


「姫君の弟子だ」


「...。分かった、今は猫の手も借りたい。右側の陣列に綻びが出来つつある、あそこを担って貰いたい」


「了解」


鈴木は右翼の右側の戦列に参加すると、魔法対弓矢の戦場と化していた。強力な魔法は敵の盾を貫くが、盾を持たない魔法使いは弓兵の格好の的だ。互いに兵力を削り合う消耗戦を繰り広げていた。


「これは崩れるわ」


鈴木が呆れていると弓矢が飛んで来た。鈴木は飛矢を片手で掴み取り折った。


「おい!お前何処に行くつもりだ?」


鈴木が戦列から離脱し、敵陣に単身で近づく。


「放てー!」


鈴木に向けタナトス軍からの斉射が開始された。


「インフェルノ」


業炎が矢を燃やし、炎の壁を通過する頃には燃え尽くしていた。


「第二射、って〜!」


「インフェルノ」


徐々に近づいて来る敵兵に、不気味さを覚えるタナトス軍の兵士達。


「第三射、射てー!」


「インフェルノ」


敵陣まで50メートルと言った辺りで、鈴木は全速力でタナトス軍に突撃した。


「重装歩兵、前へ!」


鈴木の突撃に対しタナトス指揮官は、重装歩兵を置いて防ぐようだ。


「インフェルノ!」


「ぐあああ」


前線に配置された重装歩兵は鈴木の業火に焼かれ、重装備の防具以外がみるみる灰塵に帰す。


「ぐっ!ならば魔法小隊前へ」


鈴木の突撃を魔法使いの部隊が食い止めようと前線へと出て来た。


「ファイアアロー」

「フリーザーアーマー」


「ウィンドソード」

「アースアーマー」


「ファイアストーム」

「インフェルノ」


初撃と二発目は魔力量によりダメージが軽減し、三撃目は、より上位魔法でインターセプトをした為、逆にファイアストームを放った魔法使いと、その周辺を焼いた。


「ソイツを止めろ!」


インターセプトと剣による攻撃で、敵陣深く突入した鈴木は、大隊の指揮官を見つけ出し討ち取ってしまった。


「やべーだろ」

「にっ逃げろ。殺されるぞ!」


パニックに陥る一部敵兵。参戦から程なくして鈴木は、右翼の大隊の一つを瓦解させた。


「俺ツエーじゃん」


「そこのアホを絶対逃すな!殺せーー」


タナトス軍右翼の将軍が戦車の上で鈴木を指差し、絶叫した。叫び声は戦場に木霊し、その後、津波の様に激しく呼応する声が押し寄せた。腹に響く低音、鈴木は直感的に命に関わる事を察知し、素早く捕まらない様に自陣へと走り抜けた。


「逃すなー!」


「殺せー!」


死に物狂いで追撃してくるタナトス兵達。


「インフェルノー!」


走りながら炎の分身を出すと、追走して来る兵士達を迎撃させた。しかし三分の一くらい擦り抜けて来た、タナトスの兵士達に囲まれてしまった。


「覚悟しろ」


血走った瞳が殺意を放つ。


「死にたい奴から前に出ろ」


鈴木は見回す様に睨みつけ威嚇した。


「おおー!」


勇気ある男が鈴木に襲い掛かったが、一刀の元に斬り伏せられた。続いて三人の兵士が同時攻撃を試みたが、鈴木は上手く往なしながら斬りつけた。


「何なんだコイツ?」


鈴木がにじり寄りながらゆっくり近づくと、タナトス兵はその速度に合わせて後退して行き、とうとう包囲網は破れ退路が出来た。


「退けー!!」


鈴木の一喝にタナトス兵は戦意を喪失し、自軍へと退却した。堂々と敵の包囲網を破って帰還する鈴木の姿にアテナ軍の士気は高揚した。


「危なかった〜」


鈴木は小声で呟くが声を震わせていた。内心、修業による成果を試したいのと気が大きくなり、無謀なスタンドプレーをしてしまった事を後悔していた。


うおおおぉぉぉーー!!!


鈴木の反省とは裏腹にアテナ軍の士気は上昇し、各戦場は徐々にアテナ軍優勢に傾いた。劣勢だった右翼は拮抗し、主翼と左翼は時間をかけながらタナトス軍を押していった。


「一気に押し切るわよ!」


エメラルダマリーの号令で一気に攻勢に出るアテナ軍。本陣が突撃を開始した。


「敵総大将がノコノコ出て来たぞ!討ち取れ」


「俺がその細首を斬り落としてやる」


敗戦が濃厚になりつつあるタナトス軍の中にも勇猛な兵卒がいた。起死回生の一手として、先陣に立つアテナ軍本陣に突貫した。


「下がれ下郎!誰の前に立ち塞がっている」


エメラルダマリーは歌詠唱を開始、タナトス軍の先駆けが目前に迫った時、大地が揺れた。


「タルタロスの門」


突如、無機質な空間から巨大な門が現れ、門の中から百は下らない戦車が駆け出た。戦車には悪魔の様な風貌の戦士が三人乗っており、一人は御者、残りは左右に構え魔法を無茶苦茶に放ち、タナトス軍の陣地を縦横無尽に駆け回る。悪魔の戦車軍団によりタナトス軍の被害は甚大になった。


「我々は悪夢を見ているのか...」


開戦から二刻が過ぎる頃、大勢は決しタナトス軍は退却して行った。


「お疲れ様」


姫殿下がとても珍しく労ってくれた。


「エメラルダマリーもお疲れ」


鈴木は鎧を外し、汗と泥と煤塗れになった顔を布で拭った。


「中々良い仕事してたじゃない」


姫殿下がかなり珍しく褒めてくれた。


「あ、ああ。ありがとう。てか姫殿下が最初から出たら、楽勝だったんじゃないか?」


「馬鹿ね。練兵には実戦が1番なのよ」


「えー」


最初から作戦通りだった感を出しながら、エメラルダマリーが答えた。鈴木は喉までツッコミがこみ上げたが、また浮かされても嫌なのでグッと呑み込んだ。そうこうしている内に、タナトス軍が3里以上後退したのを確認して、アテナへと凱旋した。


「姫さま〜!」


「エメラルダマリー殿下、万歳!万歳!」

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