情報収集は酒場が基本
「では行って参ります」
「皆さんもお体に気をつけて下さい」
アンナとミーシャがパーティーから抜け、キッシュとリーゼ、メドラウトとの四人パーティーとなった。
「義兄弟、どうした浮かない顔をして」
「キッシュ、野暮ですわ」
「最古参の2人が抜けちゃったから寂しんですよね」
メドラウトに図星を当てられ、肩を落とす鈴木にキッシュが肩を組んだ。
「俺達が残ってるじゃねーか」
「そうだな」
鈴木は気持ちを切り替えて、街の様子や何か起こって無いか、確認しながら見回った。街は平穏で特に変わった事は無いが、鈴木はある事に気づいた。
「これは」
街にいる人の格好が統一されていて、多分だが階級か所属かで色分けされているようだ。年上から赤→緑→青→白の順になっているので、その順番に高位なのだろう。
「それにしても、魔法使いの国と呼ばれるだけあって、通行人の大多数が見事に魔法使いだな」
「とりあえず酒場に行きませんか?」
「情報収集には打って付けですわ」
満場一致で酒場へと向かう。
「さて」
「駄目です」
「まだ何も言ってねーだろ」
「あくまでも情報収集が目的ですから、お酒は飲みませんわよ」
「チッ!つまんねーな...」
「博打も禁止ですわ」
「ぐ!」
キッシュとリーゼのしょうもないやり取りを聞きながら、酒場に入って各々情報収集に努めた。
鈴木はカウンターに立ちながら、リーゼの言い付けを守り、フレッシュジュースを頼んで聞き耳を立てた。
「あそこの奥さん、唆るよなー」
「いやいや、俺はアール書房の娘が良い」
中々どうでもいい、下世話が耳に入って来た。違うところに集中する。
「魔法の本質は結局のところ戦争の兵器としての価値だ」
「違う!魔法は世の中の発展や生活を豊かにする為に存在する」
若人が魔法について激論を繰り広げているが、鈴木はその話を聞いて科学におけるジレンマを思い浮かべた。
「おい!聞いたか?」
若人達に合流した若者が、雑踏にかき消される声で報告した。
「今回の魔法戦祭は四光王が出るらしいぞ」
「マジかよ」
「しかも!しかもだぞ、全員出るらしい」
「嘘だろ?例年1人でも出ればラッキーなのに、全員かよ!」
「一生に一回。立ち会えるかの行幸に、お祭り騒ぎになってる。早くチケット買いに行かないと売り切れちまうぞ」
「行こう、行こう」
若者達は飲みかけの酒を置いて急いで出て行ってしまった。
「魔法戦祭か」
鈴木はもう少し情報収集の為、聞き耳スキルで周囲の会話を盗み聞く。
「アンタ飲んでて大丈夫なのかい?」
「良いんだよ、どうせ飲んでも飲んで無くても邪魔者扱いされるんだから」
哀愁漂うじーちゃんの会話が聞こえて来る。
「違う」
別の若いカップルの会話に耳を傾けると。
「嵐刃王のレイラクローム様と張り合ってた天才がいたよな?」
「ええ、前嵐刃王のマリーローズ様でしょ。確か幼少から好敵手だったとか」
「そうなんだけど、もう1人いなかったっけ?」
「もう1人?」
「え〜っと」
「そんな人いたっけ?」
「いたよー絶対」
「いたかな〜」
「マリーローズ様と双璧を成すと言われた、ほら!」
「あ!いたいた。名前何だっけ?」
「う〜ん」
カップルは記憶を振り絞りながら思い出そうとしていた。鈴木はある程度情報を集めたので、キッシュとリーゼ、メドラウトと合流する為、一度酒場から出た。既にリーゼが出ており、鈴木に次いでメドラウト、キッシュの順で出て来た。
「どうだった?」
「魔法戦祭が盛り上がっているようですわ」
「ああ、四光王が出るとか出ないとか」
「そう言えば、巷で失踪事件が頻発しているそうです」
「何だそれ?」
鈴木が初めて聞く情報に興味を持ちメドラウトに尋ねた。
「ここ3年くらいから行方不明者が出ているらしく、酷いと月に2〜3件発生するらしいです。失踪者にはある共通点があります」
「共通点って何だ?」
「若い女性に限定されているとか」
「若い女性...」
「メド、人攫いの仕業じゃねーのか?」
「今は何とも言えないね。判断材料が少な過ぎる。人攫いなのか、シリアルキラーなのかは調べてみないと」
「そうか」
「で?キッシュ、貴方は」
「皆と大体同じだ!」
キッシュから微かにアルコールの匂いがする。
「貴方と言う人は...」
リーゼは溜息を吐いてキッシュに軽蔑の眼差しで見下す。
「先ずは魔法戦祭のチケットを取りに行こう。四光王が出る珍しいチャンスだから、チケットがすぐ無くなるって言ってたぞ」
黎明の旅人はチケット販売が行われている会場へ赴き、人数分の観戦チケットを手に入れた。動いたのが遅かった為、1番外側の席だが五人後ろの人でチケットは完売したようだ。手に入れられただけでも感謝しよう。
「魔法戦祭は明後日の午後から開催予定だ。それまでどうする?」
「特に無ければ自由行動でいいんじゃないか」
「僕も武器屋に行きたいです!」
「よろしいんじゃなくて」
「じゅあ明後日の午後まで、かいさ〜ん」
黎明の旅人は好き好きに散らばった。
「さて、やる事も無いし何をしようか」
鈴木が目的無くブラブラしていると、年季の入った古書店が目に飛び込んで来た。何故だか無性に気になり店へと入った。
「.....」
店員は目を合わせたが何も言わず、また本へと視線を落とした。鈴木は店内の数多の本を何も考えず、冷やかしていると、ビタッ!と目に止まる本があった。医学書や漢の雑誌以外でこうなったのは初めてだったので、無意識にそれに手を伸ばした。




