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ホワイトドラゴン

「何の音だろう?」


「これ以上は藪蛇だぜ。目的の物を手に入れたんだから、即退却だろ」


「僕もキッシュと同感です」


二人に説得され立ち去ろうとするが、鈴木にはその唸り声がどうしても慟哭に聞こえて、気になってしょうがなかった。


「二人とも先に帰ってくれ。ちょっと見て来る」


鈴木は大荷物になった戦利品を無造作に置き、壁画の隙間を潜って行く。


「おい!義兄弟」


「リーダー、待って下さい」


キッシュとメドラウトも鈴木を見放す事が出来ず、壁画の隙間から奧へと進んだ。5メートル程、進むとまた開けた場所に出た。


「ここは...」


振り返ると壁画があった場所は厚い壁で塞がれ、進行方向の奧を見るとほんのり白く輝いている。奥行きは500mと言ったところか、かなり広い空間があった。


「何だあれ?」


「引き返しましょう、嫌な予感がします」


「フルメンバーじゃないんだ、一旦退いてからまた来ようぜ」


「だから先に帰っていいよ」


鈴木は二人の制止も聞かず足早に光の元へ駆け寄った。


「動いてる?」


淡い光は何かの動きに合わせて揺れている、400mまで近づいた時にやっとそれが生物だと分かり、200mで竜である事を確信した。


「驚いた。ホワイトドラゴンなんで実在したのか、お伽話だと思ってたぜ。義兄弟、これ以上は近づかない方が良い」


「竜が何故こんな地下のダンジョンに?」


深海の暗黒の中、神々しく輝くホワイトドラゴンは、鎖を幾重にも巻き付けられ唸り声や咆哮を上げていた。


「もう少し近づいてみよう」


「やめろ!下手に刺激するな、相手は竜だぞ」


鈴木には好奇心や探究心等とは違う感情が湧き上がっていた。それはあの唸り声が泣き声や悲鳴に聞こえ、患者からのSOSに思えた。


「下がってろ」


鈴木は二人を制止し、自分だけホワイトドラゴンに近づいた。


グルルル


肚から響く唸り声と、竜種のみ持つ独特のプレッシャーに見えない圧を感じつつ、鈴木はホワイトドラゴンの目の前に立った。


グオオオオォォォォ!!


鈴木は音圧で軽く浮き、一歩引いたが負けじと一歩前に進む。今にも喰い殺す殺気を放つホワイトドラゴンに対して、はいはいと去なす様に鈴木は遠慮無く、ホワイトドラゴンの身体をペタペタと触り出した。


「何やってんだアイツ?」


「さぁ」


キッシュとメドラウトは今にも襲われそうな鈴木をヒヤヒヤしながら見守るが、当の本人はけろっとした顔でホワイトドラゴンを触診した。


「何箇所か怪我して、その内一つの傷が膿んでいる。このまま放置すると切断しないといけなくなる」


鈴木はホワイトドラゴンの上に乗り触診を続けるが、ホワイトドラゴンは大暴れして抵抗する。鈴木は一度降りて正面に向き直ると。


「じっとしてなさい!怪我人が暴れるんじゃない!!」


鈴木はホワイトドラゴンの目を真っ直ぐに見据え叱った。


クルル


鈴木の真剣な説得に応じたのかホワイトドラゴンは、それ以降暴れず鈴木の触診を静かに受けた。


「よし!これなら何とかなりそうだな。獣医じゃないけど魔法なら何とか」


鈴木はホワイトドラゴンの膿んでいる箇所を重点的に回復魔法で癒した。


「とりあえず、これで良い」


ホワイトドラゴンの治療を終え、鈴木は鎖を外そうとする。


「いやいや!何してんの義兄弟?」


「何って鎖を外すんだよ」


「駄目ですよ。鎖を外した途端に僕達食べられちゃいます」


「なら先に逃げてくれ。後から追いかけるから」


「何で竜にそこまでするんだ?放っておけばいいだろ」


鈴木はキッシュの質問に深呼吸してから答えた。


「放っておけるなら最初から手を出して無いつーの!」


ガギン!


鎖がオンリースイートの切っ先で断ち切られる音が響く。


「なんか見てて可哀想でしょうが!」


ガギン!


ホワイトドラゴンの身体を固定する鎖を外していく鈴木に対して制止する声が聞こえた。


「その位で勘弁して貰おうか」


声のする方に振り向くと、絶拳と光拳が立っていた。


「あんた達は...」


「良く、この6階層まで辿り着いたな。見事だ」


「だが、にーさん。それ以上はソイツに触れるな、命が惜しければな」


光拳が一足飛びで鈴木のパーソナルエリアまで侵入した。


「試してみるかい?」


光拳の握り拳が眩く輝き、ホワイトドラゴンの光よりも暗闇を明るく照らした。


「離れろ」


絶拳が静かに脅す。離れなければ命は無いと、鈴木はゆっくりホワイトドラゴンから離れるが、鈴木が退いた瞬間からホワイトドラゴンは大暴れし、身体に鎖が食い込み自傷する程に荒狂った。


「煩いトカゲが!」


絶拳が荒狂う白竜を深淵なる闇の恐怖にて沈黙させた。


「ここで見た事は忘れろ」


「手前の部屋に財宝があるだろう、好きなだけ持って行け」


アンドーに続いてハヤトが財宝の持ち出しを許可した。


「口止め料かよ」


キッシュが呟く。


「何故こんな事をする?」


鈴木がアンドーに詰め寄る。


「何故?」


アンドーは鈴木の質問を鼻で笑うと、鈴木の目を見て答えた。


「ホワイトドラゴンの魔力は絶大で、この街のシステムの一部と言っても過言では無い。例えば都市の象徴たる摩天楼の維持やインフラに至るまで、このトカゲが出す魔力を動力としている」


「そんな...」


「君達が享受したものは、コイツの魔力を搾り取って得たものなんだよ」


アンドーは真実を知らない、無知で哀れな正義漢を嘲笑した。ホワイトドラゴンがアンドー目掛け、白炎を吐くが絶拳の一撃で白炎は虚無と化した。

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