武具愛
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きますわ」
「メドラウトさん。ありませんございます、本当にこんな高価な品を頂いて宜しいんですか?」
「是非使って下さい。お二人の武具に付けたらピッタリと思って、持って帰って来ました」
「メドラウト。良い雄の振る舞いです」
「お褒めに預かり恐悦至極です。リーゼ殿下」
「よろしくてよ」
リーゼ嬢はメドラウトのプレゼントと態度にご満悦の様子、アンナは嬉しそうに自分のローブに宛てがっていた。
「メドラウト。よく手に入れてたな、七色鎧魚の鱗なんて」
「6層で大量にゲット出来るよ」
メドラウトは荷物袋から数枚の美しい鱗を取り出し、自慢気に見せてきた。
「6階層!?」
「6階層って」
メドラウトの発言にパーティーメンバーが驚愕していると、メドラウトがミーシャに気づき、手に持っていた七色鎧魚の鱗をミーシャに差し出した。
「お近付きの印に!」
驚いた目で皆がメドラウトに注目していると、キョトンとしながらハテナマークを頭に浮かばせていた。
「魔王に合わなかったのか?」
「魔王?」
「魔王十将軍が、あのダンジョンにいるんです」
「いや。一回も魔王とは遭遇しませんでしたよ」
メドラウトは一回渡した七色鎧魚の鱗を回収し、徐に砕き始めた。女性陣が驚き言葉を失っていると。
ゴリゴリゴリ
鈴木は、すり鉢で鱗を粉砕するメドラウトの奇行に驚いたが、理由はすぐに分かった。
「僕。好きが高じて鍛冶スキルを習得しちゃいました」
鱗を砕き終わるとメドラウトは水魔法でミストを女性3人に優しくかけ、鱗の粉末を鎧やローブに吹き掛けた。
「一日くらいで定着するので、あとは置いておいて下さい」
メドラウトはすり鉢を荷物袋に仕舞った。リーゼとアンナとミーシャの防具が極小のダイヤをあしらった様にキラキラと輝いた。
「メド、俺達にはしてくれないのか?」
メドラウトは荷物を袋に仕舞いながら、悪気は無いんだろうが鼻で笑った。
「君は防具を付けて無いし、リーダーは革鎧じゃないか。革鎧なら強化するより、より強い頑丈な防具に買い替えた方が良いよ」
「ごもっとも」
鈴木はこれまで冒険と苦楽を共にした相棒を愛おしく摩った。
「それよりどうしたんです?皆の顔が暗い様に見えますが」
メドラウトにこれまでの顛末を説明した。
「なるほど、魔王十将軍が現れたとなると危険度は最高レベルですね」
「今回はクエストを解除しようと思う」
「そうですね。僕もこれ以上あの洞窟には用が無いので賛成です。ただ」
「ただ?」
「少し残念ですね、実は6階層に宝物庫があったので、皆さんと取りに行こうかと戻って来たんですが」
「宝物庫!?」
キッシュが目を¥マークにして身を乗り出した。
「どれくらいお宝があるんだ?」
「実は僕も少し遠目で見たから、正確な量は分からないけど、多分白金貨くらいはあるんじゃないかな」
と言いつつ、メドラウトはダンジョンで手に入れたであろう武具を磨いてウットリしていた。
「綺麗だ」
メドラウトは女性に囁く睦言の様に武具に語りかけていた。自分の世界に入っている時のメドラウトは独特で、パーティーメンバーには少し理解し難く、近寄り難い雰囲気を放っていた。
「行こうぜ」
キッシュがメドラウトの話に触発されて、リトライを提言した。
「危険ですわ!容認出来ません」
キッシュの提案を退けるリーゼ。また女性陣はリーゼの考えに追随した。
「でもよー。そろそろ軍資金も無くなって、ここを引き払わなくちゃならねーぜ」
「贅沢しなくても死にはしません。安宿に変えましょう」
キッシュの心配をアンナが代替案で退けた。
「今日はとりあえず休息日にして、明日はシュウリケに向かう。それでいいか?」
鈴木が半月以上滞在したポセイドンから出発する事を提案。キッシュ以外が賛成し、多数決で決議した。
「解散」
鈴木は街に出るとアンナと買い物に出る事にした。
「見て下さい太助さん。これ保存食にしても美味しいんですよ」
市場で明日から始まる冒険の食料を見て回る。アンナのアイドルスキルと買い物上手スキルが冴え渡り、とてもお得に仕入れられた。
「次はあっちを見に行きましょう!」
両手に抱えた食料を落とさない様にアンナについて行く。買い物袋越しから見える彼女はとても家庭的で、奥さんにしたら絶対良いパートナーになってくれるだろう、そう思わずにはいられない女性だ。
「ねえ、ちゃんと見てます?」
「はいはい、見てるよアンナ」
露店のアクセサリー屋で立ち止まったアンナに、日頃の感謝を込めて貝殻のペンダントを送った。
「ありがとうございます!」
決して高く無いペンダントに大喜びするアンナに一瞬、唯美がダブる。
「どうかしましたか?」
アンナの呼びかけに我に返った。
「なんでも無いよ」
「今度はあそこを見に行きますよ」
アンナの買い物に二刻程付き合い、馬車に食料やら毛布やらを積み込むと陽が沈む頃に解放された。その足でポセイドン最後の晩餐を皆で楽しむと鈴木は部屋へと戻った。食後ゆったりと夜景を楽しみながら自室で晩酌をしていると予期せぬ来訪者が扉をノックした。




