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ダンジョン探索のコツ

第三階層はより魔物の数が増え、異形で嫌悪感を煽る風貌、例えるなら深海魚とでも言っておく、そんな魔物を倒しつつ、黎明の旅人は先へ先へと進んだ。


「行き止まりか」


キッシュの溜息にパーティーメンバー全員が徒労である事を悟り、来た道を引き返す。


「今日は撤退しましょう」


ミーシャからの提案に鈴木以外が同意した。


「まだ入って一刻くらい余力もあるし、まだ探索した方が良いんじゃないか?」


仕方ないと言う顔でリーゼが教えてくれた。


「余力が残ってるからですわ」


「?」


「往路と復路があるならば、体力配分を3:7くらいにしておきませんと、何が起こるか分かりませんわ。用心するに越した事は無いのです」


「義兄弟、さっき二階層で野盗を見ただろ。ヘロヘロになった状態で、絡まれたら万一と言う事もあり得るからな」


先輩冒険者達の話を聞き納得した鈴木は、ミーシャの提案通り帰路に就いた。一階層の分かれ道に戻って来た時に、キッシュが肘を軽く当て合図を出してくる。キッシュが見据えるものに視線を合わせると、とても大きな荷物袋を持ったパーティーが、満足そうに出口へと向かっていた。


「余程良い収穫があったんだな」


「何を手に入れたんだろう」


「レアなドロップアイテムもしくは防具。人間じゃない事を祈る」


キッシュの最後の言葉にゾッとした。


「人間?」


「今回のクエスト報酬は拾得者のもの、つまり入り口でパーティーメンバー以外の人間を連れ出せば、引っかかるが、拾得物ならお咎め無しだ。野盗共は兵士の目を盗んで人攫いをする事もある」


「なら助けた方が」


「証拠も無いのに言い掛かりをつけられたとなれば、相手も黙って無いし、禍根を残せば、ダンジョン内で後ろから刺されかねない。結局、冒険者は自己責任で自己防衛するしか無いんだ」


鈴木は三階層での体力配分の話を思い出していた。


「さぁ、皆さん。出口が見えて来ましたよ」


ミーシャの先導で海中ダンジョンの出口を出た。西日が大地を茜色に染め眩しさの余り目を細めた。


「お疲れ様でした」


「お疲れ〜」


「お疲れ様ですわ」


「ありがとうございました」


全員が無事、冒険から帰還した事を喜び、出店で小腹を満たす。歩きながら食べるステーキ串(何の肉かは不明)は、ジューシーで肉汁が口一杯に広がり甘味さえ感じる。


「今日はここまで」


ホテルのロビーで解散する。


「ミーシャさん」


「鈴木さん」


「今から何処かへ出かけるんですか?」


「ええ。この前、保護した子達の様子を見に行くんです」


「良かったら付いて行っても?」


「大丈夫ですよ」


ミーシャと二人で、奴隷として人身売買の被害者になりかけていた子ども達に会いに出かけた。道中鈴木は横目でチラチラとミーシャを盗み見ていた。と言うのも初めて出会った時は、女海賊の様な立ち居振る舞いだったが、しゃなりしゃなりと歩く彼女の素養は明らかに高そうに見受けられる。


「どうかしましたか?」


「いえ」


また荒々しい言葉遣いが耳に残っている鈴木にとって、只の敬語さえギャップ萌えを感じてしまう言葉に思える。そんな下らない事を考えながら歩いていると。


「あっ!お姉ちゃんだー」


「お姉ちゃーん」


ミーシャ目掛けて子ども達が走って来る。顔色や表情を見る限り、ご飯はちゃんと食べているようで安心だ。


「今日はリリアに会いに来たの」


「リリアねーちゃん、ベッドで寝てるよー」


「ありがとう、そうだ」


ミーシャはポケットから銅貨を何枚か出すと。


「これでお菓子でも買って食べなさい」


「わーい」

「やったー」


子どもから歓声が上がる。ミーシャとリリアと言う人に会う事にした。


「どう?調子は」


「ありがとうございます。お陰様で、この子も無事です」


どうやらリリアは奴隷にされていた、唯一の大人だった人だ。リリアは穏やかな表情で、大きくなったお腹を愛おしく撫でている。


「良かった、無理をしては駄目よ。もう貴方一人の身体では無いのだから」


若輩のクセに時折見せる大人びた雰囲気が、ミーシャの魅力の一つだ。なんて事を考えていると。


「あの其方の方はもしかして...。先日我々を救って頂き、お礼もせず」


リリアは身重の身体を起こそうとするが、ミーシャが優しく制止する。


「そんな、当たり前の事をしたまでです」


鈴木の言葉を聞いたリリアの瞳から一雫の涙が流れて、鈴木の手をリリアは両手で包んだ。


「本当にありがとうございます。貴方様やミーシャ様のお陰で我が子を守る事が出来ました。このご恩は一生...。いえ末代まで忘れません」


「そんな大袈裟な」


鈴木が照れ隠しをして、ミーシャは腕を組みながら二人を見守った。部屋は慈しみの空気に満ちていた。


「ところで、鈴木さんは一度部屋を出て行ってもらえますか?大事な話があるので」


ミーシャに半ば強制退去をさせられ、建物の外で先程小遣いを貰い、お菓子を食べている子ども達と混ざって、空に流れる雲を眺めていた。


「おじさんも食べる?」


「お、じ!おにーさんな」


「おじさん、これ美味しいよ」


鈴木の反応にケタケタ笑う子ども達。ふと鈴木はリリアの部屋に目をやると、窓から見えるミーシャとリリアは真剣な顔で話をしていた。

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