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冒険で1番厄介なもの

海中ダンジョンに到着すると入り口は冒険者達が屯していた。また沿道では露天商が並び回復薬や眠気覚まし、果ては武器や防具まで並んでいた。お祭り騒ぎのダンジョンを前にして、黎明の旅人は装備品のチェックを行う。武具の手入れを疎かにすれば、危機に窮するのは必定、丁寧に最終確認を行いダンジョンへと入った。


「前衛はミーシャさんとキッシュ、中衛を俺とリーゼ、後衛にアンナで行くぞ」


「おう」


「任せて下さい」


「分かりました」


水族館の中は前回来た時の様に神秘的で美しかった。水色の光が差し込み各々の顔を照らす、水晶の壁から覗く海の様子は穏やかで、魚や偶に竜種が泳いでいた。ダンジョン内はあれから洗浄され、血の臭いや死体は片付けられていた。


「冒険者証の提示をお願いします」


ポセイドンの兵士であろう人が、入場規制された第二階層に通づる階段の入り口で、クエストの条件を満たした者かの確認を行なっていた。


「えっと」


鈴木が手間取っていると。


「ほいよ」


「これですわ」


「どうぞ」


キッシュとリーゼ、ミーシャが次々と入って行く。


「太助さん。この前ギルドから貰った、これですよ」


アンナが助け船を出して、提示すべき物を教えてくれた。鈴木がテラ級の認定証紋を兵士に提示すると。


「お通り下さい」


兵士は塞いでいた道を通してくれた。二階層に続く階段は松明により照らされているが少し暗い、鈴木は猫の目をアクティベートしながら注意深く先へと進んだ。階段は最初三つに別れ、次に五つ、更に八つ最後は十二に枝分かれしていた。ここまで来るとあれだけいた、別の冒険者達とは1組も出会わなくなっていた。


「見て下さい!」


アンナが何か見つけた様だ。


「あれはブラームですわ。厄介な」


ブラームと呼ばれる魔物はノソノソと近づいて来る。見た目は脂肪の塊で大きな口にギザギザの牙が嫌悪感を煽る。


「気持ち悪いな」


「とりあえず、鳴かれる前に」


キッシュが言うや否やミーシャがブラームを斬り捨てていた。


「ヒュー!」


キッシュが口笛を吹きミーシャを讃える。


「あら、やりますわね」


「目にも止まらぬ速さとは、この事を言うんですね」


ブラームは血を流し倒れ、屍と化した。


「でも鳴かれる前にミーシャさんが倒してくれて助かりましたね」


「?」


「ブラームは鳴くと無尽蔵に魔物を呼び寄せるんです、古代にはブラームが国を滅ぼしたなんて伝説もあるんです」


「滅茶苦茶に厄介じゃん」


「ブラームが出たら短期決戦が定石ですよ」


お金を拾い先に進もうとした時。


「ブラームが何かドロップしましたね」


ミーシャがブラームが落としたアイテムを回収し、皆に見せた。


「幸先良いねー」


「これは...」


アンナはミーシャが持つ指輪をマジマジと見て叫んだ。


「もしかして無呼吸の指輪ですか!」


「また貴重な品を手に入れましたわね」


「無呼吸の指輪?」


ミーシャが持つ指輪は、ほんのり水色に輝き闇に映えた。


「呼吸せずに活動出来る指輪です。1番役に立つのは水中とか毒の霧が発生している場所等ですね、探索時に重宝する一品です」


「義兄弟、売れば白金貨三枚は硬い」


キッシュはお金を表すジェスチャーで、鈴木に指輪の価値を伝えた。


「やった!それは重畳だ。ドンドン先に進もう」


ダンジョンを探検しながらミーシャ師匠に魔物について教えてもらった。どうやら魔物は動物とは違い親から生まれるものでは無く、ダンジョンの核から生成されるらしい。色々教えてもらいつつ、鈴木の頭に浮かんでいるのは、ミーシャの洗練された態度とは裏腹に、初めて会った時の荒々しさが頭にチラつく。今は一国の王女と言われても驚かないが、あのミーシャを知っている鈴木には、未だに自分の目と耳を疑う。


「広い所に出たな」


ようやく二階層に到達した。天井は高く鍾乳洞の様に、冷んやりとしてて洞窟の独特な臭いがした。ピタンピタッと滴の音が静けさの中、不気味に響く。


「何か居ますね」


暗闇の中でモゾモゾと動く影の正体を鈴木とキッシュは分かっていた。


「キッシュ」


「あれはブラームより厄介だな」


闇に蠢く影なぞ猫の目にはハッキリと見えた。それは息を殺し身を潜める冒険者の姿だった。魔物に怯え隠れている様子では無い、顔には不適な笑み、手には武器を忍ばせ、気配を殺して獲物がかかるのを待つ、肉食獣の様に眼は血走っていた。


「丸見えだっつの」


「なんだアイツ等」


「下らなねー事、しやがって。強盗、野盗の類だろ、ああやって他の冒険者を襲ってやがるんだ。弱ったパーティーなんて格好の餌食だからな」


「許せんな、燃すか」


「人間の燃やした臭いが充満してしまいますわ」


「それは勘弁」


嗅覚が鋭いキッシュが嫌な顔をした。


「ああいう輩は脅して逃すのが1番良いのです」


鈴木は頷き魔法を唱える。


「インフェルノ」


鈴木の分身である業火が洞窟の暗闇を隈なく照らす。


「なっ!何だ?」


突如現れた人型の炎に肝を潰され狼狽する野盗達に、アンナが容赦無くファイヤーボールを撃ち込む。思わぬ奇襲に防戦一方で逃げ出す野盗。野盗側にも魔法使いがいる様で、初級魔法が偶に飛んで来るが明後日の方向に消えて行った。2、3分で決着となり探索の邪魔になる野盗を排除した。


「よし、OKだ。先に進もう」


こう言う時のキッシュはかなり心強い、視覚と嗅覚が優れているので、罠や待ち伏せ等に滅多に遭わない。頼もしい背中を見ながら更に深い三階層へと進むのであった。

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