神託者
目が覚めるとまたあの世界にいた。
「死んでしまうとは情けない奴じゃ、無理はせずに精進せよ。ヒントが欲しいのか、ならばまずは回復魔法を習得するがよい。勇者太助よ、お主の冒険を助けてくれるであろう」
あの老人の立ち位置の前から必ずリスタートする、この糞ゲー仕様の煽りと唯美や敬太の事が心配でイライラしながら鈴木は答えた。
「回復魔法は習得済みだ」
「そうかい?」
「ああ」
「本当にそうかい?」
あの定型分でしか喋らない奴が本当にと言う言葉を挟んできた事に若干の驚きを感じつつ、丁度子ども達が、通りかかり男の子が転んで膝に擦り傷を負ってしまった。鈴木は颯爽と男の子に近き大声で回復魔法を唱える。
「リカバリー」
鈴木の声は虚しく村に木霊した。
「リカバリー、リカバリー!!あれっおかしいな」
男の子は不審者を見る様な目で鈴木を見て、警戒しながら走り去ってしまった。その様子を見た老人はニヤニヤと口元が笑っていた。老人の様子に気づいた鈴木は激昂して、老人に歩み寄りローブを剥ぎ取ろうとした。
「それ以上の神託者様への狼藉はやめなさい」
小さな声で警告された。殺気や気配を感じさせず、いつの間にか鈴木の首にミーシャが短刀を突き付けていた。
「ミーシャさん!」
ミーシャとの再会を喜んでいると、村中の冒険者がどこからともなく、ワラワラと集まって来て鈴木を取り囲んだ。
「神託者様に何をしようとした?」
「こいつ魔王の餌にしちまおうぜ」
「この村から出て行け!」
鈴木に対して冒険者達は口々に罵声を浴びせる。
「こいつは、まだこの村に来たばかりで、ルールが分かっていないんだ」
「ルールをしらなければ神託者様への狼藉は許されるのか?」
「そいつを引き渡せモンスターの餌にしてやる!」
冒険者がいきりたち、暴徒化するのも時間の問題だった。その時、場の空気が変わった。魔王とまでは言わないが寒気を感じ気配の方へ振り向くと、ミーシャの闘気と言うのか、プレッシャーと言うのか、そんなオーラが出ていた。
「この落とし前は私がつける。いいね!」
その言葉は有無を言わさず、暴徒化しかけた冒険者を一瞬で閉口させた。
「さぁ、散った散った!」
ミーシャが美しい紫色のオッドアイで睨み付けると、冒険者達はそそくさと退散した。
「あんた正気かい!!」
喜んでいるのも束の間、神託者と呼ばれる老人に対する態度をミーシャに詰問された。
「神託者様は神の代行者、あんたが話しかけたり触っていいお方じゃないんだ」
「神託者?」
「あんたボケてるの?神託者様を知らないとか言わないだろうね!」
「知りません」
ミーシャは深呼吸すると鈴木を諭すように語りかけた。
「魔王からの侵略にあわないのは、神託者様がいるからだ。神託者様がもしも亡くなられたら、その村、町、国、世界が滅びるんだよ。だから不用意に近づいては駄目いいね?」
「あの老人が魔王から村を守っていたんですか?じゃあ神託者と言うのは他の村や町にもいるんですね」
「ああ。魔王から侵略を受けていないと言う事はそう言う事さ、あと様をつけろ不敬だぞ」
「そうですか、知らない事だらけだ」
鈴木が眉をひそめるとミーシャが質問をしてきた。
「とりあえず村長に言われたクエストはどうしたんだい?」
「それが魔王に遭遇してしまって」
「本当に馬鹿だね、生きていたから良かったものの自殺行為じゃないか」
鈴木の報告を受け見捨てられない、そんな気持ちだろう。ミーシャは腕を組みながら不出来な生徒にものを教えている先生のようだ。
「しょうがない、私が特別に付いて行ってあげるから、クエストを達成させるよ」
「ミーシャさん、パーティーに入ってくれるんですか!」
ミーシャがコクリと頷くと鈴木はガッツポーズをした。
2人が話をしていると、神託者と呼ばれている老人が話に割って入ってきた。
「まずは回復魔法を習得するがよい。お主の冒険を助けてくれるであろう。そこの女戦士よ」
「えっ」
ミーシャは自分に話かけられている事に、最初は気がつかなかったが、悟るとすぐさま神託者の前で跪き神託を受けた。
「お主の探しものは近くにある。呪いはゆくゆく解呪されるであろう。今は東の都に向かうが良い」
ミーシャは涙を流しながら神託者の言葉を聞き入っていた。




